第17回アルツハイマー病臨床試験会議(CTAD)においてデュアルアクションを有するレカネマブの最新データ、脳内アミロイドの蓄積を予測する血液バイオマーカーの研究、抗MTBR(微小管結合領域)タウ抗体E2814に関する最新データを発表

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、2024年10月29日から11月1日にスペイン・マドリードおよびバーチャルで開催される第17回アルツハイマー病臨床試験会議(Clinical Trials on Alzheimer’s Disease Conference:CTAD)において、アルツハイマー病治療剤レカネマブの最新データを含む、当社のアルツハイマー病(AD)パイプラインの研究成果について、口頭発表4演題、ポスター発表6演題を発表するとともに、レカネマブに関する3つのシンポジウムが行われることをお知らせします。

 レカネマブは、プラークの速やかな除去作用に加えて毒性の高いプロトフィブリルにも選択的に結合するユニークなデュアルアクションを有しています。プラーク除去後も神経細胞傷害や神経細胞死を引き続き起こすプロトフィブリルを取り除き、神経細胞の機能を持続的にサポートする唯一の治療薬です。

   

* プロトフィブリルは、ADにおける脳損傷に寄与し、この進行性の深刻な疾患の認知機能低下に主な役割を果たす、最も毒性が高いAβ種であると考えられています。プロトフィブリルは脳内の神経細胞の損傷を引き起こし、その結果、複数のメカニズムを介して認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります1。そのメカニズムとして、不溶性Aβプラークを増加させるだけでなく、神経細胞やその他の細胞間のシグナル伝達に直接的な神経障害を起こすことも報告されています。プロトフィブリルを減らすことで、神経細胞への損傷や認知機能障害を軽減させ、ADの進行を防ぐ可能性があると考えられています2

 

【血液バイオマーカーに関するシンポジウム】

Late Breaking シンポジウム1:AHEAD 3-45試験:プレクリニカルAD試験の新規スクリーニング プロセスのデザインと結果

  • 10月29日(火)18:10~18:50(欧州標準時間)
    レカネマブのプレクリニカルADを対象としたAHEAD 3-45試験のデザインと血液バイオマーカーの知見に関して発表します。

【レカネマブの臨床データに関するシンポジウム】

Late Breaking シンポジウム2:実臨床における1年間のレカネマブ治療の経験  

  • 10月30日(水)15:30~16:10
    米国と日本におけるレカネマブの実臨床から得られたリアルワールドエビデンスに関して議論されます。当社は米国実臨床について発表します。

レカネマブの継続投与のベネフィットに関するシンポジウム】

シンポジウム1早期ADに対するレカネマブの継続投与は現在のエビデンスベースで支持されるか?

 当社がAD領域で提携しているBioArctic社の設立者でもあるウプサラ大学Lars Lannfelt名誉教授によるKeynoteプレゼンテーション1「レカネマブ:遺伝子変異からADの治療へ」が10月29日(火)16:30から行われます。

 

 エーザイのデピュティ・チーフクリニカルオフィサーであるMichael Irizarry博士は、「CTAD2024において、当社はデュアル アクションを有するレカネマブの実臨床における使用経験や、プレクリニカルADを対象としたAHEAD 3-45試験のバイオマーカーの結果のほか、抗MTBR(Microtubule binding region)タウ抗体E2814の最新情報を発表します。

 ADは持続的な神経毒性プロセスによって引き起こされる進行性の疾患です。レカネマブによる適切かつ継続的な治療によりADの進行を遅らせることが可能であり、早期の診断が重要です。ADによる軽度認知障害(MCI)および軽度認知症は、より早期段階で診断、治療することで、当事者様が恩恵を受ける可能性がより高まります。本会議における科学的議論や交流は、ADと共に過ごす当事者様とそのご家族のベネフィット向上に貢献する当社のミッションを推進するものです」と述べています。

  

  

主なプレゼンテーション

  

■ Late Breakingシンポジウム 1

AHEAD 3-45 試験:プレクリニカルAD 試験の新規スクリーニング プロセスのデザインと結果

10月29日(火)18:10~18:50(欧州標準時間)

発表タイトル

AHEAD 3-45 試験: 課題への適応

AHEAD 3-45スクリーニング時の血漿バイオマーカー、アミロイド、タウ PET イメージング

プレクリニカルAD試験における血漿P-tau217バイオマーカー適格率の人種および民族間の違い

質疑応答

 

■ Late Breaking シンポジウム2

1年間の実臨床におけるレカネマブ治療の経験

10月30日(水)15:30~16:10

発表タイトル

米国における実臨床でのレカネマブ治療

大学医療センターにおける実臨床でのレカネマブ治療(当社とは独立した発表)

日本における実臨床でのレカネマブ治療(当社とは独立した発表)

質疑応答

 

■ シンポジウム1

早期ADに対するレカネマブの継続投与は現在のエビデンスベースで支持されるか?

10月30日(水)9:40~10:20

発表タイトル

レカネマブ継続投与の作用機序による根拠

レカネマブ維持投与レジメンの薬理学的裏づけ:最新の臨床薬理学データとモデリング

レカネマブ長期投与による継続的ベネフィットの根拠:長期有効性、安全性およびバイオマーカーデータによるベネフィット/リスクの最新情報

質疑応答

 

■ ラウンドテーブル

併用療法の進展:将来のAD治療に関する考慮すべき主要事項、展望および有望な道筋

10月30日(水)13:45~14:15

 

■ 口頭発表

アセット/プロジェクト
発表日時(欧州標準時間)
発表番号、演題タイトル

レカネマブ
10月30日(水)11:20 - 11:35

LB6
レカネマブ:アポリポタンパク質 E ɛ4 ヘテロ接合型キャリアまたはノンキャリアの成人におけるADによる軽度認知障害および軽度認知症の治療

レカネマブ
10月31日(木)15:25 - 15:40

LB18
AI由来の予後共変量による、レカネマブの有効性評価の精度の向上とAD臨床試験の最適化

E2814
10月29日(火)17:40 - 17:55

OC4
優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)における抗タウ抗体E2814による早期および後期タウ病理バイオマーカーの減少

バイオマーカー
11月1日(金)15:40 - 15:55

LB29
アミロイド陽性の予測のための血漿バイオマーカーの利用

 

■ ポスター発表

アセット/プロジェクト
発表日
発表番号、演題タイトル

レカネマブ
10月29日(火)- 30日(水)

LP017
レカネマブの早期ADに対する長期治療の臨床試験から実臨床への移行:AD治療センターの視点

バイオマーカー
10月29日(火)- 30日(水)

P007
血漿pTau217比を用いた進行予想によるAD治験効率の大幅な向上

バイオマーカー
10月29日(火)- 30日(水)

P009
実臨床における早期ADの確定診断ツールとしての血液バイオマーカー実施の妥当性の評価:前向き多施設共同実施科学および観察研究

イメージング・バイオマーカー
10月31日(木)

P098
Critical Path for Alzheimer's Disease(CPAD)コンソーシアム:有望な代替エンドポイントとしてタウPET測定を用いたAD治療薬開発の効率向上

AD一般
11月1日(金)

P206
電子カルテデータを用いた軽度認知障害リスク予測モデルの開発

AD一般
11月1日(金)

P217
軽度認知障害またはADの65歳以上の米メディケア受給者における脳内出血による全死亡率の上昇

      

  

以上

  

  1. <参考資料>
  2. 1. レケンビ(一般名:レカネマブ、米国ブランド名:「LEQEMBI®」)について

 「レケンビ」は、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。「レケンビ」は米国、日本、中国、韓国、香港、イスラエル、アラブ首長国連邦、英国(北アイルランドを除く)で承認を取得しています。レカネマブについて、欧州(EU)など10の国と地域で承認申請を行っています。

 

 「レケンビ」の承認は、エーザイが実施した大規模グローバル臨床第Ⅲ相試験であるClarity AD試験のデータに基づくものであり、本試験において「レケンビ」は主要評価項目ならびに全ての重要な副次評価項目を統計学的に有意な結果をもって達成しました3,4。主要評価項目は、全般臨床症状の評価指標であるCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)であり、「レケンビ」はCDR-SBにおける18カ月時点の臨床症状の悪化をプラセボと比較して27%抑制しました。また、副次評価項目の一つである、衣服の着脱、食事、地域活動への参加など当事者様が自立して生活する能力を介護者が評価するAD Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS MCI-ADL)においては、プラセボと比較して37%の統計学的に有意なベネフィットが認められました。なお、「レケンビ」投与群で最も多かった有害事象(10%以上)は、Infusion reaction、ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、脳出血、脳表ヘモジデリン沈着)、ARIA-E(浮腫/浸出)、頭痛および転倒でした。

 

 2024年7月、エーザイは、臨床第Ⅲ相Clarity AD試験OLEの36カ月データを発表し、「レケンビ」の投与を受けた当事者様が治療開始から36カ月後も引き続きベネフィットを示していることを示しました。Clarity AD試験の18カ月間のコア試験では、「レケンビ」投与群とプラセボ投与群の間で、CDR-SBを指標とした認知機能および日常生活機能の悪化を統計的に有意に抑制することが観察されました。コア試験後に続く、OLEの18カ月の時点において、「レケンビ」の投与を継続した群(早期開始群)とプラセボから「レケンビ」に切り替えた群(遅延開始群)の間のCDR-SBの差はOLEの間も維持され、「レケンビ」の投与により、早期開始群と遅延開始群で同様の疾患進行抑制を示しました。血液バイオマーカー(血漿中のAβ42/40比、ptau181、GFAP、NfL)の結果は遅延開始群においても改善の方向を示しました。

 

 2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health傘下のNational Institute on Agingによる資金提供を受けています。また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。本試験において、レカネマブは抗Aβ療法による基礎療法として選定されました。

 

  1. 2. E2814について

 E2814は抗MTBR(Microtubule binding region)タウ抗体です。E2814は、当社とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとの共同研究を通じて見出されました。E2814は、タウ伝播種の脳内拡散を抑制する抗体として設計されています。E2814は、孤発性ADを含むタウオパチーに対する疾患修飾薬として開発され、臨床第Ⅰ相試験を実施中です。また、セントルイス・ワシントン大学医学部が主導するDIAN-TUが実施するDIADに対する臨床第Ⅱ/Ⅲ相Tau NexGen試験にて、抗タウ療法として採択されています。

 

  1. 3. エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について

 エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

 

  1. 4. エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について

 2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療剤の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。

 

参考文献

  1. Amin L, Harris DA. Aβ receptors specifically recognize molecular features displayed by fibril ends and neurotoxic oligomers. Nat Commun. 2021;12:3451. doi:10.1038/s41467-021-23507-z
  2. Ono K, Tsuji M. Protofibrils of Amyloid-β are Important Targets of a Disease-Modifying Approach for Alzheimer's Disease. Int J Mol Sci. 2020;21(3):952. doi: 10.3390/ijms21030952. PMID: 32023927; PMCID: PMC7037706.
  3. Eisai presents full results of lecanemab Phase 3 confirmatory Clarity AD study for early Alzheimer's disease at Clinical Trials on Alzheimer's Disease (CTAD) conference. Available at: https://www.eisai.co.jp/news/2022/news202285.html
  4. van Dyck. C, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. The New England Journal of Medicine. DOI: 10.1056/NEJMoa2212948. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212948