バイオロジー、情報およびデジタルなどの技術の進化により、疾患が発症する前の健常段階における生体内の変化が解明され、疾患概念が変わりつつあります。このような変革の中で、疾患の状態を正しく把握し、治療法を創出するには、その発症や進行だけを理解しようとするのではなく、疾患を連続体(Disease Continuum)として捉え、根本原因に紐づくゲノム情報や、細胞のメカニズム、病態生理といった生体内の生物学的な変化(Human Biology)を深く理解することが重要です。そこで、2022年7月より当社独自のユニークな臨床データを起点とするHuman Biologyに基づく創薬アプローチへの転換を企図し、DHBL(Deep Human Biology Learning)体制へと研究開発体制を刷新しました。
チーフサイエンティフィックオフィサー (執行役 井戸克俊)からのメッセージ

エーザイは、神経領域(ニューロロジー)・がん領域(オンコロジー)で40年以上にわたる創薬の歴史を誇ります。年間500以上のhhc活動を通じて共感した患者様の真のニーズが私たち研究者を奮起させ、患者様貢献への強い想いが脳神経領域では「アリセプト」、「フィコンパ」、「デエビゴ」、がん剤領域では「ハラヴェン」、「レンビマ」、「タスフィゴ」といった自社創製の新薬を生み出しました。私たちの強いリーダーシップとhhc理念に基づく信念は、創薬コンセプトを裏打ちする非臨床薬効モデルへのこだわり、どんなモダリティでも必ず形にするクラフトマンシップ、最新のモレキュラープロファイリング技術を活かしたバイオマーカー研究、適切な患者様を対象にした臨床研究の実施といったユニークな創薬活動につながり、早期アルツハイマー病(AD)治療薬「レケンビ」を当事者様にお届けすることを可能にしました。本剤は、アルツハイマー病の病理の一つであるアミロイドβ(Aβ)のうち、毒性が示唆されているAβプロトフィブリルに結合し、脳内のAβプロトフィブリルおよびアミロイドβプラークを減少させると考えられ、その結果、アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制が期待されています。
DHBL体制の概要
2022年10月にスタートしたDHBL(Deep Human Biology Learning)体制では、エーザイ独自のヒューマンバイオロジーデータを起点としたサイエンスの徹底的な議論が行われ、共通基盤技術の効率的活用も促進されました。2025年4月、私たちはこのDHBL体制のメリットを活かし、ヒューマンバイオロジーを起点とするDHBL創薬をより効率的に進める組織改編を行うとともに、創薬研究をより活発化させるためコミュニケーションの活性化、意思決定の加速、リソースの有効活用を念頭に置いた組織体制に改革することにいたしました。
新体制では、チーフサイエンティフィックオフィサーの下、「ヒューマンバイオロジークリエーションハブ」を新設しました。この組織は探索、開発、臨床の各研究機能、および外部アカデミアとの連携の中核的機能を担い、新規創薬仮説の立案・検証、非臨床-臨床研究の連携強化、臨床試験の加速と成功確度の向上、さらにはメディカル部門との連携による診断技術の社会実装を図ってまいります。加えて、臨床研究機能内には「デジタルイノベーション」を新設し、臨床研究から得たヒューマンバイオロジーデータの最大活用とその促進のための研究開発IT、人工知能(AI) /機械学習(Machine Learning; ML)の環境整備の観点からエーザイ独自の創薬コンセプト創出を加速してまいります。
また探索研究では、ニューロロジーとオンコロジーの2領域ならびにグローバルヘルス領域にフォーカスし、バイオロジストで構成される「ニューロロジー/オンコロジーディスカバリー/グローバルヘルス」、メディシナルケミストがAI/MLや構造生物学等の最新技術を駆使する「インテグレーテッドケミストリー」、先進的な創薬モダリティ研究や高度な実験的検証技術開発を担う「コンセプトクリエーションテクノロジー」が密に連携し、確度の高い創薬仮説の確立・検証を繰り返し、探索プロジェクトの開発加速、早期の臨床導入をめざしています。加えてエクスターナルイノベーション活動によりアカデミアやベンチャーなど社外からの最先端技術導入を積極的に試みるとともに、DHBLオフィスが明確なポートフォリオ戦略立案・推進とリソース配分のタイムリーな最適化を主導することで画期的な医薬品を次々と創出していく覚悟です。
この新体制のマネジメントでは、リスクを取った新規性・進歩性のある挑戦や科学的に妥当な早期決断を高く評価する文化を醸成し、さらなる研究者の士気の向上と成長を促してまいります。私たちは、強いリーダーシップとhhc理念に基づく信念に裏打ちされた強い創薬推進体制でヒューマンバイオロジーを起点としたDHBL創薬を推し進めることで、創造的新薬を効率的かつ継続的に患者様と生活者の皆様にお届けし、人々の健康憂慮の解消に貢献できるよう邁進してまいります。引き続き、皆様の温かいご支援とご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。