エーザイのマテリアリティ(重要課題)

マテリアリティの特定

エーザイでは、企業理念の実現による中長期的な企業価値の最大化に向けて優先的に取り組む課題を明示するため、2022年6月に変更された定款に基づき、社会善を効率的に実現するためのマテリアリティを特定しています。

マテリアリティにおける横軸は「エーザイの本源的企業価値(社会的インパクト+財務的価値)」とし、社会善の効率的な実現に取り組むことで社会的インパクトを創出するとともに、財務的価値を得ることが重要であると考えています。
縦軸は「ステークホルダーズにとっての関心」としています。患者様とそのご家族、株主、社員などのすべてのステークホルダーズの皆様の満足を企図して持続的に企業価値を最大化するためには、残余利益の受益者としての長期投資家にフォーカスすることが効率的であるという考え方*1 に基づき、長期投資家の関心事を中心に特定し、優先的に取り組むという手法で課題の特定、優先順位づけしています。一方で、本マテリアリティは、長期投資家のみならず、幅広いステークホルダーズの皆様の長期の利益を創出することを目的としていることを正しくご理解いただける縦軸としています。

上記2軸に則り、15項目のマテリアリティを特定し、そのなかでもポジティブな社会的インパクト創出やPBR向上との相関関係が確認され、かつ長期投資家を中心としたステークホルダーズにとっての関心が非常に高い5項目は、取り組みを加速することで当社の本源的企業価値を高めることができる特に重要なマテリアリティと位置づけ、2030年度を見据えた長期目標とKPI、リスクを設定しました。マテリアリティおよび長期目標・KPI・リスクは、執行役会(2023年度当時*2)での審議・承認、取締役会での確認により決定しました。毎年、その進捗に関するレビューを実施し、PDCAサイクルを回すことにより、確実な推進をめざします。

なお、ビジネス環境や社会課題の変化を鑑み、毎年マテリアリティ分析を行います。アクションプランに沿った取り組みの進捗もレビューし、必要に応じマテリアリティやKPIを更新します。

*1 Value Maximization, Stakeholder Theory, and the Corporate Objective Function(Michael C. Jensen, 2001)
*2 現在はGrowth& Operating Committee(GOC)に名称を変更

社会善を効率的に実現するためのマテリアリティの特定プロセス


*3 Value Reporting Foundationが提供するマテリアリティを業種別に特定するサステナビリティの開示基準
*4 サステナビリティに関する国際基準の策定を使命とする非営利団体Global Reporting Initiativeがサステナビリティという抽象的な概念を具体的に可視化した指標
*5 2000年に発足した持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み
*6 民間主導による気候関連財務情報の開示に関するタスクフォース
*7 2015年9月の国連サミットで採択された、持続可能な開発のための2030アジェンダにおいて掲げられている国際目標
*8 米国S&Pグローバル社が、企業の持続可能(Sustainability)を評価しているESGインデックス
*9 企業理念の実現に向けて患者様、生活者の皆様の想いを知るために共に時間を過ごしたり、食事や作業をしたり共体験をすること
*10 全国の自治体、団体と連携協定を締結し、地域住民の皆様の認知症に関わる憂慮抽出、解消に向けた事業創出への取り組み

hhcエコシステムを通して社会善を効率的に実現するためのマテリアリティ


*1 ステークホルダーズ:長期投資家(株主)、患者様とそのご家族、社員、地域社会
*2 1 ~ 5以外のマテリアリティは同じ象限内では重要度の差はない

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2024年度進捗
「レケンビ®」*1の早期実用化と価値最大化
• 日本・アメリカス*2 ・中国・EMEA*3 ・ EAGS*4の5リージョンすべてで承認 を取得し、上市を達成
• グローバルで年間約2.3万人に貢献 し、米国において約530億円の社会 的インパクトを創出
• 点滴静注 維持投与の米国での承認 取得
• 皮下注製剤 維持投与の米国での申 請達成
2025年度目標とKPI
「レケンビ®」の早期実用化と価値最大化
• 5リージョンすべてでの承認ならびに上市*5の早期実現
• グローバルで年間約3.5万人に貢献 し、米国において約800億円の社会 的インパクトを創出*6
• 点滴静注 維持投与および皮下注製 剤の承認取得
• パートナーと協力し、血液バイオマー カーのAD確定診断への活用と普及 を早期に実現
2030年度目標とKPI
ADになっても安心して暮らせる社会の実現
•「レケンビ®」へのアクセス拡大によ りグローバルで年間約90万人に貢 献し、米国において約1.8兆円の社会 的インパクト創出
•「レケンビ®」に続く次世代認知症治 療薬の創出をめざし、抗MTBRタウ 抗体E2814*7を含む複数のプロジェクトで後期臨床試験開始と承認申請 の達成
• 他産業との連携により、当事者様の日 常生活をサポートする健康維持・発 症予防に資する新規ソリューションをグローバルで年間約1,000万人にお 届けする
最終目標 人々の健常状態から高リスク、発症・治療、経過観察・予後までの全ステージを支え、包み込む認知症エコシステムを構築し、そのプロデューサーの役割を果たす
主なリスク
• ヘルスケアシステムのインフラストラクチャーの制限や競合激化により、「レケンビ®」の市場浸透が期待どおりに進まないリスク
• 次世代認知症治療薬の開発計画が中止あるいは遅延し、期待していた収益が得られないリスク
• パートナーとの意見の相違が発生し、研究開発・生産・販売活動に遅延や非効率が生じるリスク

*1 Biogen Inc.との共同開発品でBioArctic ABとエーザイの共同研究から得られたアルツハイマー病に対する抗体。一般名:レカネマブ  
*2 北米
*3 欧州、中東、アフリカ、ロシア、オセアニア
*4 イーストアジア・グローバルサウス(EAGS):韓国、 台湾、インド、アセアン、中南米、南アフリカなど
*5 各リージョンにおける保険償還計画を鑑み、価値創造レポート2023で開示した5リージョンすべてでの「保険償還の早期実現」を価値創造レポート2024において修正
*6 2024年度の「レケンビ®」の 貢献実績を鑑み修正
*7 英国のユニバーシティ カレッジ ロンドン(UCL)との共同創出品

2.がん領域における社会善の実現 長期目標・KPI・リスク

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2024年度進捗

「レンビマ®」の価値最大化
• グローバルで約8万人に貢献
• グローバルで3,285億円の売上収益

2025年度目標とKPI

「レンビマ®」の価値最大化
•「 キイトルーダ®」*1などとの併用療法で新たな適応の承認申請をめざす
• グローバルで年間約9万人に貢献し、年間製品売上3,000億円レベルの維持+新適応によるアップサイドをめざす*2

2030年度目標とKPI

「レンビマ®」に続く新規プロジェクトによる難治性がん患者様への貢献
• MORAb-202、E7386、BB-1701*4などの早期承認申請の達成*3
• 効率的なDeep Human Biology Learning (DHBL) 創薬に基づく新規プロジェクトの早期臨床導入と早期承認申請の達成
• パイプラインの拡充と価値最大化を企図した製品獲得または共同開発・共同販促の実現

最終目標

革新的治療法の創出とアクセスの拡大による難治性がんの治癒ならびにがん発症の予測モデルに基く予防の実現

主なリスク

•「 レンビマ®」の新適応の開発、あるいは新規プロジェクトの開発計画が中止あるいは遅延し、期待していた収益が得られないリスク
• パートナーとの意見の相違が発生し、研究開発・生産・販売活動に遅延や非効率が生じるリスク

*1「キイトルーダ®」はMerck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAの子会社であるMerck Sharp & Dohme Corpの登録商標。共同開発により「レンビマ®」との併用による適応取得をめざす
*2 非小細胞肺がんなどの適応追加試験の主要評価項目未達により、価値創造レポート2023で開示した「5,000億円レベルの製品売上」を価値創造レポート2024において修正
*3 BB-1701については、2024年度に、今後のグ ローバル開発、販促をBliss Biopharmaceutical Co., Ltd.が単独で実施することに合意し、戦略的提携に向けたオプション権を行使しないことを決定したため削除

3.グローバルヘルス領域における社会善の実現 長期目標・KPI・リスク

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2024年度までの進捗

リンパ系フィラリア症(LF)
• DEC錠を累計25.2億錠無償提供し、約4,780億円の社会的インパクト創出
• DEC錠無償提供や包括的取り組みによる制圧活動支援拡大・強化を行い、15カ国で集団投与(MDA)完了

マラリア
 新規治療薬候補1品の臨床試験開始

2025年度目標とKPI

LF
• 世界最大の蔓延国インドでのDEC錠 無償提供や包括的取り組みによる制 圧活動支援拡大・強化、他19カ国*1,2でMDA完了
• DEC錠が約2,900万人に貢献し、約5,200億円/年*3の社会的インパクト創出

マイセトーマ
• スーダンにおけるE1224の承認申請 達成、疾患理解が未成熟なマイセ トーマのペイシェントジャーニーの確 立のための疫学調査実施

マラリア
• 新規治療薬候補1品の臨床試験開始

2030年度目標KPI
  • LF
    • DEC錠累計39億錠の無償提 供に より、インドを含む計30カ国*1,4で MDA完了
    • DEC錠が約3,100万人に貢献し、約 5,600億円/年*3,4の社会的インパク ト創出
    マイセトーマ
    •ペイシェントジャーニー確立に向け、セクターを超えた連携を推進
    •スーダンにおけるE1224の承認取得と持続可能な提供方法の確立
    •スーダン以外の蔓延国における E1224提供による貢献

    マラリア
    • 新規治療薬の承認申請、およびその他の治療薬候補1品の臨床POC*5 達成

最終目標

治療薬創出とアクセス拡大による制圧の実現、および医療較差是正への貢献

主なリスク
  • • 蔓延国のLF 対策優先順位の低下などによる、制圧活動の遅延のリスク
    • 新規感染症のパンデミックや紛争などによる制圧活動、新薬開発・承認プロセスの遅延のリスク
    • 顧みられない熱帯病やマラリアの特性として、治験環境が整わず想定より治験に時間を要するリスク

*1 20242030年までのWHOのLF制圧目標に基づく
*2 LF蔓延地域での政治情勢の悪化やCOVID-19の感染拡大によるMDAの中止・遅延を背景にしたWHOの最新情報に基づき2025年度目標を修正
*3 価値創造レポート2024では、MDA実施 による全体の社会的インパクトを2剤投与の前提で案分したDEC錠によるインパクトを示していましたが、WHO治療ガイドラインへの新規治療法(3剤投与)の追加や、LF制圧達成における併用薬剤や様々なパートナーの重要性を鑑み、DEC錠のみ の社会的インパクトではなく、MDA実施による全体の社会的インパクトを示すことに変更
*4 2025年にWHOは2030年までのLF制圧ロードマップを更新する予定であり、それに伴い本KPIも修正を行う予定
*5 Proof of Concept: 概念実証

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4.人財の価値最大化 長期目標・KPI・リスク

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2024年度進捗

hhc理念の浸透
 企業理念浸透度 95%
社員のエンゲージメントの向上
グローバルエンゲージメントサーベイでの高エンゲージメントの社員割合 85%
多様性確保に向けた女性活躍の推進
 エーザイ株式会社女性管理職比率 13.6%
従業員インパクト
 エーザイ株式会社人財投資効率 82%

2025年度目標とKPI

hhc理念の浸透
 企業理念浸透度 100%
社員のエンゲージメントの向上
 グローバルエンゲージメントサーベイでの高エンゲージメントの社員割合 90%以上
多様性確保に向けた女性活躍の推進
 エーザイ株式会社女性管理職比率 15%
従業員インパクト
 エーザイ株式会社人財投資効率 82%

2030年度目標KPI

hhc理念の浸透
 企業理念浸透度 100%
社員のエンゲージメントの向上
 グローバルエンゲージメントサーベイでの高エンゲージメントの社員割合 90%以上
多様性確保に向けた女性活躍の推進
 エーザイ株式会社女性管理職比率 30%
従業員インパクト
 エーザイ株式会社人財投資効率 87%

最終目標

多様な人財の強みや特性の最大化がもたらすソリューションとイノベーションによる企業価値の増大

主なリスク
  • • グローバル重要ポジションのサクセッションが困難になるリスク
    • 経営方針に合った人財の確保と育成が困難になるリスク

5.財務戦略 長期目標・KPI・リスク

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2024年度進捗

財務の健全性と最適資本構成
 親会社所有者帰属持分比率60.7%、Net DER −0.12、格付*1AA-
安定配当と成長投資の両立
「 レケンビ®」への成長投資を実施するとともに160円配当を維持

2025年度目標とKPI

「レケンビ®」とDEC錠による貢献の拡大により、本源的企業価値(社会的インパクト+財務的価値)を拡大
 Impact on Equity*2 0.65倍レベル
財務の健全性を確保しつつ最適資本構成を追求
 親会社所有者帰属持分比率 60%レベル、Net DER −0.3 ~ 0.3、格付シングルAレベル
安定配当と成長投資の両立
 原則として複数年レベルでフリー・キャッシュ・フローの範囲内での配当を志向し、160円配当を維持

2030年度目標とKPI

急成長のなかで本源的企業価値を最大化
 ROE 25%レベル、DOE 15%レベル
 Impact on Equity*2 2倍レベル
財務の堅牢性を高め、成長投資余力を確保
 親会社所有者持分 1兆円超、親会社所有者持分比率70%レベル、Net DER −0.3 ~ 0.3

最終目標
中長期的な本源的企業価値の最大化
主なリスク
  • •「 レケンビ®」や「レンビマ®」から期待していた収益が得られないリスク
    • 後続製品の開発計画が中止あるいは遅延により期待していた収益が得られないリスク
    • 企業買収や製品・開発品の導入を通じて獲得したのれんおよび無形資産の減損処理のリスク

*1 格付投資情報センター(R&I)による格付(2025年5月30日時点)
*2 社会的インパクトを効率的に生み出しているかを評価するための指標。「レケンビ®」およびDEC錠による社会的インパクトの合計値をEquityで除した値。社会的インパクトの試算が完了した2つの重要な製品インパクトのみ算入