臨床第Ⅲ相Clarity AD試験データを用いた「レカネマブ」の社会的価値について、査読学術専門誌Neurology and Therapy誌に掲載

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)および軽度AD(総称して早期ADと定義)当事者様に対する抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル*抗体レカネマブ(一般名、米国ブランド名「LEQEMBITM」)の社会的価値について、米国における医療費支払者観点および社会的観点から、レカネマブの臨床第Ⅲ相Clarity AD試験のデータを用いて、検証済の疾患シミュレーション・モデル(AD Archimedes Condition Event simulation:AD ACEモデル1,2,3)により推定した最新の評価結果が査読学術専門誌Neurology and Therapy誌に掲載されたことをお知らせします。医療費支払者観点では直接的なケアコスト(外来・入院サービス、介護・在宅医療サービス、レカネマブの薬剤費を除く投薬、その他介入コストなど)に焦点を当てているのに対し、社会的観点では直接的なケアコストに加えて社会的コスト(家族介護によるインフォーマル・ケアコストおよび生産性損失)も考慮しています(以下、社会的観点に基づく評価)。

 

 本論文は、2023年1月7日(日本時間)に発表した、プレスリリース「早期アルツハイマー病治療薬「LEQEMBI™」(レカネマブ)の米国における価格設定のアプローチは「医薬品の社会的価値」と「価格」の関係性に関するエーザイの考え方に基づく」の米国でのレカネマブの社会的価値について論文化したものとなります。

 

 本シミュレーションは、アミロイド病理を有する早期AD当事者様に対するレカネマブの有効性と安全性を評価した臨床第Ⅲ相Clarity AD試験の結果と公表されたその他論文を用いて実施されました。

 

 アミロイド病理を有する早期AD当事者様において、標準治療**(SoC:standard of care)に加えレカネマブ投与を行った群(レカネマブ群)はSoCのみ行った群(SoC群)と比較して、医療費支払者観点では0.61質調整生存年***(QALY:Quality-adjusted life years)の増加と6,263ドルの総費用(レカネマブの薬剤費を除く)の減少となり、また、社会的観点に基づく評価では0.64QALYs増加、7,451ドル減少をもたらすと予測されました。本シミュレーションで得られたレカネマブの平均投与期間は3.91年でした。獲得QALYs当たり10万ドルから20万ドルの支払意思額(WTP:willingness to pay)において、米国医療制度下におけるレカネマブの年間価値は、医療費支払者の視点で18,709ドル~35,678ドル、社会的観点に基づく評価で19,710ドル~37,351ドルと試算されました。ADのように社会的コストが大きく、介護者に甚大な影響を与える疾患の場合には、より高いWTP閾値である20万ドルを用いた社会的観点に基づく評価の適用が考慮されます。本論文では、レカネマブ投与により早期AD当事者様や介護者にとってより高い健康アウトカムや生活の質(QOL)の向上をもたらし、より低い経済負担につながる可能性が示唆されたと結論付けています。

 

 エーザイ株式会社の常務執行役であり、グローバルADオフィサーであるIvan Cheungは、「本シミュレーションの結果は、レカネマブによってもたらされる社会的価値を定量的に示したものであり、レカネマブはAD当事者様とその介護者だけでなく、社会全体に大きなインパクトをもたらすことが示されました。幅広い支払意思額が検討され、重症度調整後の支払意思額の閾値としてQALYあたり20万ドルが、レカネマブの社会的価値を正確に反映していると考えています。当社は、レカネマブの社会的価値を世界中の人々や国々に伝えるため、今後も透明性高く、迅速なデータと情報の公表を続けてまいります」と述べています。

 

 レカネマブは米国において迅速承認制度の下で承認され、2023年1月18日に発売されました。本迅速承認は、レカネマブがADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第Ⅱ相試験の結果に基づくものであり、検証試験により臨床的有用性を確認することが本迅速承認の要件となっています。米国食品医薬品局(FDA)は、Clarity AD試験結果をレカネマブの臨床的有用性の検証試験として評価することに合意しています。2023年1月6日にフル承認への変更に向けた生物製剤承認一部変更申請(supplemental Biologics License Application:sBLA)をFDAに提出し、3月3日に受理されました。本申請は優先審査に指定され、PDUFA(Prescription Drugs User Fee Act)アクションデート(審査終了目標日)は2023年7月6日に設定されました。日本において、当社は、2023年1月16日に、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請を行い、1月26日に厚生労働省より優先審査に指定されました。本申請においては、審査期間の短縮をめざし医薬品事前評価相談制度を活用しています。欧州においても、2023年1月9日に欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請(MAA)を提出し、1月26日に受理されました。中国においては、2022年12月に国家薬品監督管理局(NMPA)に生物ライセンス申請(BLA)のデータ提出を開始し、2023年2月27日に優先審査に指定されました。

 

 レカネマブについては、当社が開発および薬事申請をグローバルに主導し、当社の最終意思決定権のもとで、当社とバイオジェン・インクは共同商業化・共同販促を行います。

 

*   プロトフィブリルは、75-5000Kdの可溶性Aβ凝集体です4

**    生活習慣の改善と症状に対する薬物治療

*** 質調整生存年(QALY)は、健康アウトカムの価値を示す指標です。健康は生存年(=量)と生命の質(QOL)の関数であるため、これらの価値を1つの指標数値にまとめる試みとしてQALYが開発されました。1QALYは、完全に健康な状態での1年間に相当します。QOLスコアは、1(完全な健康)から0(死亡)で示されます。例えば、新規治療により生存年が3年延長するとともにQOLが70%向上する場合(QALY=2.1)と既存治療により生存年が3年延長するがQOLは50%しか向上しない場合(QALY=1.5)を比較すると、新規治療のQALY増分は0.6となります(QALY=QOLスコアx生存年)。

 

以上

 

 

1 Kansal AR, Tafazzoli A, Ishak KJ, Krotneva S. Alzheimer's disease Archimedes condition-event simulator: Development and validation. Alzheimers Dement (NY). 2018;4:76-88. Published 2018 Feb 16. doi:10.1016/j.trci.2018.01.001

2 Tafazzoli A, and Kansal A. Disease simulation in drug development, External validation confirms benefit in decision making. The Evidence Forum. 2018.

https://www.evidera.com/wp-content/uploads/2018/10/07-Disease-Simulation-in-Drug-Development_Fall2018.pdf

3 Tafazzoli A, Weng J, Sutton K, et al. Validating simulated cognition trajectories based on ADNI against 436 trajectories from the National Alzheimer's Coordinating Center (NACC) dataset. 11th edition of Clinical Trials on 437 Alzheimer's Disease (CTAD); Barcelona, Spain: 2018.

4 Söderberg, L., Johannesson, M., Nygren, P. et al. Lecanemab, Aducanumab, and Gantenerumab — Binding Profiles to Different Forms of Amyloid-Beta Might Explain Efficacy and Side Effects in Clinical Trials for Alzheimer’s Disease. Neurotherapeutics (2022). https://doi.org/10.1007/s13311-022-01308-6. Accessed February 9, 2023

 

  1.  
  2. <参考資料>
  3. 1.  レカネマブ(一般名、米国ブランド名「LEQEMBITM」)について

 レカネマブは、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。米国において、「LEQEMBI」は、2023年1月6日に米国食品医薬品局(FDA)より迅速承認を取得しました。「LEQEMBI」の適応症はアルツハイマー病(AD)の治療です。「LEQEMBI」による治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の当事者様において開始する必要があります。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性のデータはありません。本適応症は、「LEQEMBI」がADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第Ⅱ相試験の結果に基づき、迅速承認の下で承認されています。本迅速承認の要件として、検証試験による臨床的有用性の確認が必要となります。

 

 米国における処方情報はこちらから入手できます。

 

 レカネマブの皮下注射によるバイオアベイラビリティ試験は終了し、Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中です。

 2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health、National Institute on Agingによる資金提供を受けています。また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。

 

2.  エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について

 エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

 

3.  エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について

 2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療薬の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。