エーザイの科学的エビデンスと患者様の安全性に対するコミットメント

早期アルツハイマー病当事者様への希望

 LEQEMBI™(米国ブランド名、一般名:レカネマブ)は、早期アルツハイマー病(AD)の当事者様とそのご家族、医療従事者の方々に改善をもたらす可能性があり、このたび米国食品医薬品局(FDA)よりAD治療薬として承認を取得しました。また、FDAはLEQEMBIの適正使用のための重要な科学的情報の概要が記載されているU.S. Prescribing Information (USPI:米国添付文書)およびMedication Guide(患者様向けの薬剤説明書)を承認しました。これらの情報は、医療従事者、および当事者様とそのご家族がLEQEMBIによる治療に関して十分な情報を得た上で決定することを可能にするとともに、アミロイド関連画像異常(ARIA)などの潜在的な副作用をモニタリングする方法についてのガイダンスを医療従事者に提供するものです。他のすべての治療法と同様に、当事者様とそのご家族は、LEQEMBIの治療を開始する前に、ご自身の病状や病歴を踏まえたベネフィットとリスクについて、医療従事者と話し合っていただく必要があります。

 

当事者様の安全がエーザイの最優先課題

 当社は、何よりもまず、当社の臨床試験に参加された被験者様、ならびに当社の薬剤を処方された患者様の健康とプライバシーの保護を常に最優先に考えています。当社では、経験豊富なチームが治験薬や市販後医薬品に関連する可能性がある有害事象(致死的事象を含む)を収集・分析を行っています。これらの有害事象やあらゆる情報源からの安全性情報は、当社製品の安全性プロファイルに関する当社の知見を十分に伝達するために、継続的にレビューされています。これらの情報は、FDAやその他の規制当局の報告要件やガイドラインに準拠して報告されます。当社は、重要な安全性情報を、臨床試験実施施設や治験審査委員会(IRB)とのコミュニケーションや各規制当局の要求によるインフォームド・コンセント・フォーム(同意説明文書)の改訂などの確立された手段により、規制当局、臨床試験施設、治験医師、および患者様に迅速に伝達しています。当社は、規制当局と緊密に連携し、既承認の製品情報を新たに得られた安全性情報によって更新しています。

 

ADの臨床試験において考慮すべき重要な点

 当社は、患者様の安全確保に向けた取り組みの一環として、様々な患者様集団における疾患あるいは健康状態に関わる事象の頻度、パターン、原因や危険因子について研究を行っています。世界保健機関(WHO)によると、認知症は世界の病死の原因の第7位であり1、米国疾病予防管理センター(CDC)は、ADは認知症の原因の第1位であり、65歳以上の高齢者における死因の第5位であると報告しています2。また、アルツハイマー病協会によると、AD診断後の平均生存期間は一般的に3~11年(中央値は8年)とされています3

 AD治療薬の臨床試験に参加される被験者様の死亡率は、ADの進行による身体的影響や、加齢に伴う様々な病状により、比較的高くなっています。例えば、科学文献の包括的なレビューにより、AD当事者様は出血性脳卒中(脳内出血を伴う脳卒中)の発生率が有意に高いことが報告されています4。臨床試験に参加された被験者様または臨床試験以外で薬剤を処方された患者様に関して、死亡を含む重篤な副作用が疑われる場合には、年齢、病歴、併用薬、時間的相関、生物学的妥当性、関連が疑われる薬剤の投与中断/再開の影響などの要因を考慮して評価しなければなりません。

 

アミロイド関連画像異常(ARIA)について

 LEQEMBIを含むアミロイドβ凝集体に対するモノクローナル抗体は、アミロイド関連画像異常(ARIA)を引き起こす可能性があります。ARIAには、脳磁気共鳴画像(MRI)で脳浮腫や滲出液貯留として観察される浮腫を伴うARIA-E、および微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症が認められるARIA-Hがあります5。ARIAおよびInfusion reaction(注入に伴う反応)は、LEQEMBIによる治療で見られる重要な副作用です。

 

 ARIA-Hは、AD当事者様において自然に発現することがあります。アミロイドβ凝集体に対するモノクローナル抗体によるARIA-Hは、一般的にARIA-Eを伴って発現します。様々な原因によりARIA-HとARIA-Eが同時に発現することがあります。ARIAは通常無症候ですが、まれに痙攣、てんかん重積状態など、重篤または生命を脅かす事象が発生することがあります。症候性ARIAの場合に見られる症状として、頭痛、錯乱、視覚障害、めまい、吐き気、歩行障害などが報告されており、局所的な神経障害が起こることもありますが、これらの症状は、通常、時間の経過とともに消失します。また、直径1cmを超える脳内出血例が報告されています。LEQEMBIの投与を受けた当事者様において、致死的事象を含む脳内出血の発生も報告されています5

 

 LEQEMBIのUSPIでは、特にARIAの発現率と分類基準、モニタリング方法、ARIAを発現した場合の投与中断の推奨に関する重要な臨床情報を医師に対して提供しています。処方医は、LEQEMBIの投与開始前(1年以内)、および5回目、7回目、14回目の投与前に脳MRIを撮影する必要があります。ARIAの大半はLEQEMBIによる治療開始後14週間以内にみられることから、この期間は特に注意深く患者の状態を観察することが推奨されます。また、ApoEε4ホモ接合体保有者ではApoEε4ヘテロ接合体保有者や非保有者と比べて症候性ARIAを含むARIAの高い発現リスクを示しました。ARIAを示唆する症状がみられた場合は臨床評価を行い、必要に応じてMRIを実施すること、また、MRIでARIAが観察された場合、投与を継続する前に慎重な臨床評価を行うことが必要です。ARIAおよびInfusion reactionに関する重要な安全性情報については、USPIの全文をご覧ください5

 

 2022年11月29日、LEQEMBIの臨床第III相CLARITY AD検証試験の結果がThe New England Journal of Medicineに掲載されるとともに6、第15回アルツハイマー病臨床試験会議(CTAD)で発表されました7。CLARITY ADにおけるLEQEMBI投与群とプラセボ投与群の全体の死亡率は同様であり、CDCによる米国人口の年齢調整死亡率を下回っていました8。本試験の結果に基づき、米国におけるフル承認申請をまもなく提出する予定です。

 

個別案件に関するメディアからの問い合わせ

 2022年12月23日の当社ステートメントで述べた通り、当社は、臨床試験への参加を通じて医学の発展に貢献いただいている被験者様の安全とプライバシーを守る責任を負っており、査読付き学術誌または学会以外で特定の当事者様に関する追加情報を提供したり、その他の情報源からの情報に対してコメントすることは不適切と考えています。

 

 1月4日に、個別の有害事象症例に関する2つの査読付きレター9.10The New England Journal of Medicineに掲載されました。これらのレターの中で、これまでメディアで報道された本症例について、それぞれの医学的な見地が示されています。当社は、引き続き、データの検証を行い査読付き医学雑誌に掲載するとともに、得られた科学的知見を医学学会においてサイエンティフィックコミュニティに向けて発表してまいります。

 あらためて、ADやその他の困難な疾患と闘うために、臨床試験に参加していただいた被験者様とそのご家族、医療関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

 

グローバル セーフティ オフィサー

スチュワート・ギリー, M.D.

  

以上

   

参考文献:

  1. 1. Dementia. World Health Organization. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dementia. Publication date September 20, 2022. Accessed December 28, 2022.
  2. 2. Alzheimer’s Disease. Centers for Disease Control and Prevention.

https://www.cdc.gov/dotw/alzheimers/index.html#:~:text=Alzheimer%27s%20disease%20is%20the%20most,of%20death%20for%20all%20adults. Publication date unavailable. Updated September 27, 2022. Accessed December 28, 2022.

  1. 3. 2022 Alzheimer’s Disease Facts and Figures. Alzheimer’s Association. alzheimers-facts-and-figures.pdf. Publication date 2022. Date Accessed December 28, 2022.
  2. 4. Reem Waziry, Lori B. Chibnik, Daniel Bos, M. Kamran Ikram, Albert Hofman. Risk of hemorrhagic and ischemic stroke in patients with Alzheimer disease. Neurology®. 2020; 94:265-272. doi:10.1212/WNL.0000000000008924. https://n.neurology.org/content/early/2020/01/16/WNL.0000000000008924/tab-article-info?versioned=true
  3. 5. LEQEMBI™ Full Prescribing Information
  4. 6. van Dyck, Christopher H. M.D., et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. The New England Journal of Medicine. November 29, 2022. DOI: 10.1056/NEJMoa2212948. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212948
  5. 7. Eisai Presents Full Results of Lecanemab Phase 3 Confirmatory Clarity AD Study for Early Alzheimer’s Disease At Clinical Trials On Alzheimer’s Disease (CTAD) Conference. 2022. Available at: https://www.eisai.co.jp/news/2022/news202285.html
  6. 8. Deaths and Mortality. Centers for Disease Control and Prevention. https://www.cdc.gov/nchs/fastats/deaths.htm.
  7. 9. Reish NJ, Castellani R, Chou SH-Y, et al. Multiple cerebral hemorrhages in a patient receiving lecanemab and treated with t-PA for stroke. The New England Journal of Medicine. January 4, 2023. https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMc2215148
  8. 10. Sabbagh, Marwan, M.D., van Dyck, Christopher, H., M.D. Response to: Multiple Cerebral Hemorrhages in a Patient Receiving Lecanemab and Treated with t-PA for Stroke. The New England Journal of Medicine. January 4, 2023. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2215907
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