2013年度欧州がん学会において「ハラヴェン®」(エリブリン)の新たな解析結果を発表

エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)は、2013年度欧州がん学会(European Cancer Congress:ECC)年次総会において、自社創製の抗がん剤「ハラヴェン®」(一般名:エリブリンメシル酸塩、以下 エリブリン)について、転移性乳がんを対象にカペシタビンとの群間比較試験として実施した臨床第Ⅲ相試験(301試験)に関する追加事後解析結果を発表しましたので、お知らせします。

  • 転移性乳がんに対する薬物治療では、「無増悪生存期間(PFS)」と「全生存期間(OS)」での有用性が、必ずしも相関しないことがあります。301試験においても、エリブリン投与群(E群)はカペシタビン投与群(C群)と比較して、PFSでは両群間で差が認められませんでしたが、OSに関しては、統計学的有意差はないものの延長する傾向が確認されました。

    今回発表された追加解析は、このPFSとOSの乖離について検討することを目的に実施されました。今回の解析では、301試験でPFS判定時の病態の進行状態により、投薬後に新たな転移が見つかった患者様(E群:271人、C群:285人)と、もとの病変部位の腫瘍の大きさが増加した患者様(E群:147人、C群:129人)に層別し、OS中央値について両薬剤の群間比較が行われました。

    結果として、もとの病変部位の腫瘍の大きさが増加して病態進行と判定された患者様集団については、両群間ではOS中央値にほとんど差はありませんでした(E群OS中央値:17.4カ月、C群OS中央値:17.4カ月、ハザード比:1.13、95%信頼区間:0.87-1.46、名目p値:0.35)。

    一方で、新転移巣の出現で病態進行と判定された患者様集団ではE群の方がOSを延長する傾向が確認され、その名目 p 値は 0.02 でした(E群OS中央値:15.5カ月、C群OS中央値:12.9カ月、ハザード比:0.81、95%信頼区間:0.68-0.97)。

    英国リーズ大学セント・ジェームズ大学病院の臨床腫瘍薬理学・腫瘍学教授であり、301試験の治験担当医でもあるChristopher Twelves博士は、「これらの結果は、従来のPFSの考え方が必ずしも妥当であるとは言えないこと、つまり、PFSと判定する際の病態の進行の仕方で転移性乳がん患者様を層別することにより、臨床的に意味をもった違いが見えてくる可能性があることを示唆しています。新たな転移の出現というイベントに着目した今回の追加解析の結果は非常に興味深いものであり、さらなる検討を進めるべきだと考えています。」と述べています。

また、今回、新転移巣が最初に観測されるまでの期間の指標として、新たに検討した「無転移生存期間 (new metastasis-free survival; nMFS)」では、E群 (554人) で5.8カ月、C群 (548人) で5.2カ月(ハザード比:0.90、95%信頼区間:0.77-1.05、名目p値:0.17)と、E 群において 0.6 カ月の延長傾向が認められました。

当社は、エリブリンの主作用である非タキサン系微小管ダイナミクス阻害作用に加え、これまでの前臨床試験結果から示唆されている実験的転移抑制作用について、臨床の場にトランスレーションすべく引き続き邁進し、本剤の製品価値最大化を通じて、がん患者様とそのご家族により一層貢献してまいります。

以上

[参考資料として、ハラヴェン®、301試験、第104回米国がん研究会議で発表した前臨床試験結果について添付しています。]

<参考資料>

1. 「ハラヴェン®」(一般名:エリブリンメシル酸塩)について

「ハラヴェン®」は、新規の作用機序を有する非タキサン系微小管ダイナミクス阻害剤です。海洋生物クロイソカイメン(Halichondria okadai )から抽出されたハリコンドリン類の全合成類縁化合物であり、微小管の短縮(脱重合)には影響を与えずに伸長(重合)のみを阻害し、さらにチューブリン単量体を微小管形成に関与しない凝集体に変化させる作用を有しています。

海外で実施された、アントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤を含む前治療歴のある進行または再発乳がん患者様762人を対象とした臨床第Ⅲ相試験(EMBRACE試験)では、ハラヴェン®投与群は主治医選択治療群と比較し、全生存期間を2.5カ月間延長しました(全生存期間:13.1カ月 対 10.6カ月、ハザード比:0.81、p値:0.041)。また、当社は欧州と米国の審査当局からの依頼によりプロトコールの規定に加えてEMBRACE試験の結果をアップデートしました。その最新の解析データは、ハラヴェン®投与群では主治医選択治療群に比べて2.7カ月間の全生存期間の延長が認められました(全生存期間:13.2カ月 対 10.5カ月、ハザード比:0.81、p値:0.014)。ハラヴェン®投与群で高頻度(頻度25%以上)に認められた有害事象は、無気力(疲労感)、好中球減少、貧血、脱毛症、末梢神経障害(無感覚、手足等のしびれ)、悪心、便秘でした。この中で、特に重篤な有害事象として報告されたのは好中球減少(発熱を伴う症例が4%、発熱を伴わない症例が2%)です。またハラヴェン®投与中止に至った主な有害事象は末梢神経障害(5%)でした。また、日本で実施された臨床第Ⅱ相試験でも、前治療歴を有する進行または再発乳がん患者様に対し、良好な抗腫瘍効果と忍容性プロフィールを示しました。

本剤は、乳がんについて2010年11月に最初の承認を米国で取得し、これまでに欧州、日本、シンガポール、スイス等、50カ国以上で承認を取得しています。日本では、「手術不能又は再発乳癌」を効能・効果として承認され、2011年7月より発売をしています。また、本剤の製品価値最大化に向け、前治療歴の少ない乳がん、また、軟部肉腫、非小細胞肺がんについても開発を進めています。

2. 301試験について

301試験は、局所再発性・転移性乳がんの患者様1,102名を対象として、多施設共同、無作為化、非盲検による、エリブリンとカペシタビンとの群間比較試験として実施されました。本試験では、前治療として術前・術後補助療法を含む3種類以下かつ進行性・転移性乳がんに対する治療として2種類以下の治療歴を有すること、加えて、アントラサイクリンやタキサン系抗がん剤による前治療歴を有する患者様を対象としました。本試験の主要評価項目としていた「全生存期間(OS)」と「無増悪生存期間(PFS)」について、エリブリン投与群は、カペシタビン投与群と比較して、統計学的有意差はありませんでしたが、OSを延長する傾向を示しました(エリブリン投与群OS中央値:15.9カ月、カペシタビン投与群OS中央値:14.5カ月、ハザード比:0.879、95%信頼区間:0.770-1.003、p値:0.056)。また独立審査機関の評価にもとづくPFSには両群間で差がありませんでした(エリブリン投与群PFS中央値:4.1カ月、カペシタビン投与群PFS中央値:4.2カ月、ハザード比:1.079、95%信頼区間:0.932-1.250、p値:0.305)。安全性については、両剤ともに既に報告されている副作用と同様の結果でした。主な有害事象(発現率20%以上の事象)として確認されたものは、好中球減少(エリブリン vs. カペシタビン:54.2% vs. 15.9%)、手足症候群(同:0.2% vs. 45.1%)、脱毛症(同:34.6% vs. 4.0%)、白血球減少(同:31.4% vs. 10.4%)、下痢(同:14.3% vs. 28.8%)、および悪心(同:22.2% vs. 24.4%)でした。

3. 第104回米国がん研究会議で発表した前臨床試験結果について

第104回米国がん研究会議(American Association for Cancer Research: AACR)において、エリブリンに関わる新たな研究成果として、エリブリンが上皮間葉転換(Epithelial- Mesenchymal Transition: EMT)に関わる遺伝子群の発現を変動させること、また、ダイナミック造影MRI(Dynamic Contrast Enhanced-Magnetic Resonance Imaging: DCE-MRI)による解析において腫瘍組織中心部の血液循環を改善することを発表しました。上皮性がん細胞のEMTの獲得は、がんの浸潤・転移と関連性が高いこと、また、低酸素状態の腫瘍組織中では、がん細胞が高い転移能を獲得しているとの報告があり、これらの前臨床試験結果は、エリブリンが転移抑制に働く可能性を示唆しています。本発表の関連資料として、2013年4月10日に当社が配信したリリース(http://www.eisai.co.jp/news/news201321.html別ウィンドウで開きます)を参照ください。