エーザイとセービンワクチン研究所が顧みられない熱帯病のワクチン開発に向けて提携

エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)は、このたび、顧みられない熱帯病(NTDs: Neglected Tropical Diseases)であるシャーガス病およびリーシュマニア症をターゲットとしたワクチン開発を支援することを目的として、セービンワクチン研究所 (本部:ワシントンD.C.、プレジデント:Dr. Peter Hotez)に対して、当社が創製したワクチンアジュバントであるE6020および本化合物の関連情報を提供する契約を締結しました。E6020は免疫機構を司る受容体であるTLR4(Toll-like receptor 4)を介して生体の免疫機構を活性化する作用を有します。様々な抗原のワクチンに応用することができ、ワクチンの有効性を高めることが期待されています。

セービンワクチン研究所は、ワクチン治療およびNTDsの研究に特化した非営利組織であり、政府、営利・非営利企業、アカデミアと連携して、ワクチンにより予防可能な疾患やNTDsに対する革新的なワクチンの研究開発、医薬品アクセスの改善に向けたアドボカシー活動を推進しています。

シャーガス病およびリーシュマニア症は、NTDsの中でも診断や治療が難しく、革新的かつ強力な疾病管理を必要とする疾患として位置づけられています。今回の提携は、セービンワクチン研究所が持つNTDsの開発における強みと、新薬開発型の製薬企業として当社がもつ化合物やナレッジを融合する新たなProduct Development Partnership(PDP)であり、これらの疾患の治療ワクチンの早期かつ効率的な開発を実現します。

当社は、過去最大の国際官民パートナーシップにより、2020年までにシャーガス病およびリーシュマニア症を含むNTD10疾患の制圧をめざす「ロンドン宣言」に参加しています。本宣言のもと、当社は、今回のセービンワクチン研究所との提携のほか、世界的に供給不足となっているリンパ系フィラリア症治療薬の1つ、「DEC(ジエチルカルバマジン)」22億錠を当社インド・バイザック工場で生産し、2013年からWHOに無償で提供することを決定しています。

当社は、新興国や開発途上国に事業が拡大される大グローバリゼーション時代において、これらの国々の健康福祉の向上に貢献し、経済発展や中間所得層の拡大に寄与することは将来に向けた長期投資と位置づけており、今後もNTDsを含む医薬品のアクセス問題に積極的に取組み、世界の患者様とそのご家族のベネフィット向上に貢献してまいります。

以上

[参考資料として、用語解説、顧みられない熱帯病、セービンワクチン研究所、ロンドン宣言、
当社の医薬品アクセスへの取り組みについて、を添付しています]

<参考資料>

1. 用語解説

  • 1)
    アジュバント(adjuvant:免疫増強剤)
    ワクチンの免疫効果を高める物質です。アジュバントには本来「助ける」という意味があり、抗原と混合または組み合わせることにより、抗体産生の増大、免疫応答の増強を起す物質の総称です。ワクチンに添加して使われます。
  • 2)
    TLR4(Toll-like receptor 4)
    TLRは免疫機構を担う受容体で、細菌などの病原体成分などを認識します。現在10種類以上のTLRが報告されており、TLR4はエンドトキシン(内毒素)を認識する受容体として知られています。

2. 顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)について

WHOによると、世界に27億人いるといわれている貧困層のうちの10億人を超える人々がNTDsにより健康を害していると推定されています。NTDsは世界149の国と地域で蔓延しているとされており、このうち、100カ国・地域が、2種類以上のNTDsの蔓延地域となっており、さらに30カ国・地域では6種類以上のNTDsが蔓延しているとされています。NTDsは貧困により蔓延していく一方、多くの国・地域で貧困の原因ともなっています。(NTDs:ブルーリ潰瘍、シャーガス病、嚢尾虫症、デング熱、ギニア虫感染症、包虫症、肝蛭症、睡眠病、リーシュマニア症、ハンセン病、リンパ系フィラリア症、河盲症、狂犬病、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、トラコーマ、トレポネーマ感染症)

  • 1)
    シャーガス病について
    シャーガス病は「キッシング バグ」として広く知られるサシガメ(ビンチューカ)という大型の吸血性昆虫によって媒介される疾患で、ラテンアメリカを主として、欧州等で流行しています。約1,000万人の感染者がおり、2千5百万人が感染のリスクにあります。感染者の最大30%に心臓障害、10%には消化器系、神経系等に影響が生じ、毎年平均14,000人が命を落としています。
  • 2)
    リーシュマニア症について
    リーシュマニア症は、リーシュマニア属原虫による感染を原因とする寄生虫症です。サシチョウバエ類によって媒介され、世界90カ国以上に約1200万人の感染者がおり、3億5千万人が感染のリスクにあって、毎年200万人が新たに感染しているといわれています。リーシュマニア症には、皮膚潰瘍を生じる皮膚リーシュマニア症と、発熱や貧血で発症する内臓リーシュマニア症とがあります。内臓リーシュマニア症は、骨髄、肝臓、脾臓、リンパ節、および他の内臓を侵し、治療しなければ、死にいたります。

3. セービンワクチン研究所(Sabin Vaccine Institute)

セービンワクチン研究所は、経口ポリオワクチンを開発したアルバート B. セービン博士(Dr. Albert B. Sabin)を記念して1993年に設立されたワクチン治療およびNTDsの研究に特化した非営利組織です。政府、営利・非営利企業、アカデミアと連携して、ワクチンにより予防可能な疾患やNTDsに向けた革新的なワクチンの研究開発、医薬品アクセスの改善に向けたアドボカシー活動を推進しています。詳細はセービンワクチン研究所のサイトをご覧ください(http://www.sabin.org/)。

4. 顧みられない熱帯病に対するロンドン宣言(London Declaration on Neglected Tropical Diseases)について

2012年1月30日、世界大手製薬企業13社*1のCEO、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、USAID、DFID、世界銀行、NTDの蔓延国政府がロンドンに一同に会し、今後10年間で顧みられない熱帯病10疾患*2を制圧すべく共闘することを表明しました。また、この宣言において、各企業・団体は新たな取組みをそれぞれ発表しました。これは、今日最大のパートナーシップであり、これまでの組織単位、疾患ごとのアプローチとは異なり、この新しい連携により、制圧に向けて網羅的に、医薬品供給、物流、開発、インフラなどにおける課題に取り組み、より効果的にNTD制圧を成し遂げることを目指しています。

  • *1
    アボット、アストラゼネカ、バイエル、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、エーザイ、グラクソスミスクライン、ギリアド、ジョンソンアンドジョンソン、メルク(Merck KGaA:ドイツ)、MSD、ノバルティス、ファイザー、サノフィ
  • *2
    ギニア虫感染症、リンパ系フィラリア症、失明に至るトラコーマ、睡眠病、ハンセン病、土壌伝播寄生虫症、住血吸虫症、河盲症、シャーガス病、内臓リーシュマニア症

5. 当社の医薬品アクセスへの取り組みについて

世界には一日2米ドル以下で生活する人が約27億人いると推定され、これらの人々の多くは有効な治療法があるにも関わらず、必要な治療を受けたり、薬剤を入手したりできない状況にあります。こうした医薬品アクセス問題は、各国の政府、WHOなどの国際機関、NGO、製薬企業などが連携し、解決すべき国際的な課題となっています。当社は、ヒューマン・ヘルスケア理念に基づき、各国政府や国際機関、民間企業や非営利団体(NPO)などとの協力のもと、世界における医薬品アクセス改善に向けて中長期的視点に立った取り組みを展開しています。その一環として、WHOが取り組むリンパ系フィラリア症(熱帯病の一種)制圧に向けて、治療薬「ジエチルカルバマジン(DEC)」の無償提供に合意しています。また、シャーガス病に対する新薬開発に貢献すべく、国際的非営利団体との「E1224(ラブコナゾールのプロドラッグ)」の共同開発プログラムを推進しています。詳細は、当社サイトの「医薬品アクセス」をご覧ください(http://www.eisai.co.jp/company/atm/index.html)。