エーザイ、世界保健機関(WHO)のリンパ系フィラリア症制圧活動に対して治療薬を無償提供へ日本の製薬企業として初の途上国における“顧みられない熱帯病”制圧に向けたWHOとの産官パートナーシップを確立

エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)は、本日11月18日、世界保健機関(以下、“WHO”)とリンパ系フィラリア症治療薬の無償提供に関する共同声明文に調印しました。共同声明文への調印は当社内藤社長と WHO のマーガレット・チャン事務局長によって行われました。グローバルな公衆衛生問題である顧みられない熱帯病(ネグレクテッド・トロピカル・ディジーズ)の制圧に向けて、日本の製薬企業が薬剤の無償提供における WHO との産官パートナーシップを組むのは今回が初めてです。

このたび調印された共同声明文において、エーザイは、WHO基準の品質が保証されたリンパ系フィラリア症治療薬 Diethylcarbamazine(ジエチルカルバマジン、一般名、“DEC”)100mg 錠を2012~2017年の6年間にわたって合計約22億錠製造し、WHOに対して無償提供することに合意しました。これはWHOが試算した、同機関による制圧活動の対象地域でこの期間に必要とされるDECの数量です。 DECの製造はエーザイのインド・バイザッグ工場にて行われる計画です。今後、エーザイはWHOと本プロジェクトの詳細を取り決める正式契約を締結する予定です。

WHOのマーガレット・チャン事務局長は、「エーザイの薬剤無償提供の取り組みは、リンパ系フィラリア症制圧活動の推進に希望を与えることとなります。エーザイの貢献により、リンパ系フィラリア症の被害を最も受けている貧困国における DEC の供給状態が改善されることを期待しています」と述べています。

今日、リンパ系フィラリア症は、蔓延地域の全住人に対し、3種類の駆虫剤の2種を併用で年1回、最低5年間集団投与することにより制圧可能とされています。しかし、その3種のうちの1つであるDECは世界的に供給不足状態にあり、リンパ系フィラリア症の制圧に向けた大きな障害となっています。当社はグローバル製薬企業としてこの問題を改善すべく、DECを製造し、WHOに無償提供することを決定しました。

リンパ系フィラリア症は、蚊を媒介して感染するヒトの寄生虫症です。感染するとリンパ系機能障害を引き起こし、足が象の足のように大きく腫れる象皮病などの重篤な身体障害を発症します。日本では1960年代に始まった政府主導による産官民協同制圧活動の結果、1970年代後半に世界に先駆け、制圧が成功しましたが、いまだアフリカや東南アジアなどの途上国や新興国を中心に、世界81カ国にて1億2,000万人が感染していると推定されています。リンパ系フィラリア症は世界の主要な身体障害原因の1つにも挙げられており、働けないことなどによる経済損失は数千億円にのぼるとも言われています。

エーザイは、今後もヒューマン・ヘルスケア企業として顧みられない熱帯病や医薬品アクセス問題といったグローバルな健康・医療問題の解決に向けて積極的に取り組み、世界の患者様とそのご家族のベネフィット向上に貢献していきます。

以上

[参考資料としてリンパ系フィラリア症、顧みられない熱帯病および医薬品アクセス問題についての解説を添付しています]

<参考資料>

1. リンパ系フィラリア症について

リンパ系フィラリア症は、蚊を媒介してヒトに感染する寄生虫症で、感染するとリンパ系機能障害を引き起こします。感染は小児の段階で起こることが一般的ですが、症状は数年かけて徐々に現れてくることが多く、成人期に最も重篤な症状を発症します。主な症状のひとつである象皮病は足などが象の足のように大きく腫れる身体障害で、患者様の日常動作に影響を与えるだけでなく、障害に対する偏見などから、歴史的にも多くの患者様が社会から迫害され、精神的にも患者様やご家族の方々を苦しめる原因となっています。今日、アフリカや東南アジアなどの途上国や新興国を中心に、世界81カ国にて1億2,000万人がリンパ系フィラリア症に感染していると推定されています。日本でも平安時代からリンパ系フィラリア症が存在していたことが確認されていますが、1960年代に始まった政府主導による産官民協同制圧活動の結果、1970年代後半に世界に先駆け、制圧が成功しました。

2. 顧みられない熱帯病(ネグレクテッド・トロピカル・ディジーズ)

WHOは人類の中で制圧しなければならない「顧みられない熱帯病」(ネグレクテッド・トロピカル・ディジーズ)として、デング熱、シャーガス病、リンパ系フィラリア症など17の熱帯病を挙げています。顧みられない熱帯病は衛生状態や生活環境に起因するものが多く、感染者数は世界で約10億人とされています。これらの疾患は特に途上国などの貧困層で広く蔓延し、健康ばかりではなく経済、偏見による人権問題など、蔓延国では深刻な社会問題であるため、顧みられない(neglected=ネグレクテッド)熱帯病と言われています。また、近年では、気候変動による温暖化や経済活性化に伴う人や物資の移動が感染者数の増加に影響を与えていると示唆する調査もあり、地球的規模の課題解決に向けた国際的な協力が求められています。

3. 医薬品アクセス問題について

顧みられない熱帯病を含め、貧困や医療システムの不備などから必要な医薬品が必要とされる患者様のもとに届かないという問題を、医薬品アクセス問題と言います。世界中には、1日1ドル以下で生活する最貧困層が14億人*以上、さらに1日2ドル以下で生活する人々が13億人*いると推定されています。これらの約27億人の人々の多くが、効果的な治療法があるにも関わらず、必要な医療を受けることができず、薬剤を入手できない状況にあります。こうした医薬品アクセス問題は、各国の政府、WHOなどの国際機関、NGOのみならず、製薬企業にとっても各方面と連携して解決すべき国際的な課題となっています。

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    世界銀行のデータより (2005年)

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調印式の写真1
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