英国NICEが軽度アルツハイマー型認知症患者様にとって重要な提案を行う新ガイダンス(案)の提示

エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)は、英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence: NICE)が、10月7日(英国現地時間)にイングランドおよびウェールズのアルツハイマー型認知症(AD)の患者様に対して、軽度の認知症から治療薬の使用を可能とすることに向けて新ガイダンス(案)の提示を行った、と発表しました。

NICEの新ガイダンス(案)では、「アリセプト®」(一般名:ドネペジル塩酸塩)を含む3種類の認知症治療薬(アセチルコリン・エステラーゼ阻害剤)が、軽度および中等度ADに対する治療選択肢として提供されるように推奨されています。これは、認知症治療薬の使用を中等度AD患者様だけに限定した2006年のNICEの決定からの重要な変更です。

今回のNICEによる変更は、現在、認知症治療薬を使用することが出来ない多くの軽度AD患者様にとって重要な前進となります。ADの早期診断および早期からの薬物療法は、患者様とそのご家族、介護者の方々の負担を軽減するために不可欠なものです。

今回の発表は、英国保健省の認知症国家戦略(National Dementia Strategy: NDS)とも呼応しており、大いに歓迎されるものと期待されています。NDSは、患者様とその介護者の方々、社会の負担を最小限にするために、最も初期の段階からの積極的なAD治療を奨励しています。また、AD治療へのアクセス改善に向けた動きは、本疾患に係る負担軽減に取り組むために、世界各国の政府にADをより高いヘルスケア優先事項として位置づけることを呼び掛ける、最新の国際アルツハイマー協会(Alzheimer's Disease International)の報告書とも一致しています。

当社は、ADの初期段階から「アリセプト®」を代表とする認知症治療薬の使用を推奨するNICEの新ガイダンス(案)を積極的に支持します。認知症治療薬の使用に関するNICEのガイダンスは、当初2000年に軽度および中等度AD患者様への使用を推奨するとしていましたが、その後2006年にNICEが軽度の患者様への使用は推奨しないとの変更案を提示し、中等度AD患者様だけに使用が制限されていました。2006年からのNICEとの5年間にわたる議論の末に、今回の新たな推奨によって、AD患者様が必要な治療を、最も必要とされている初期段階から再び受けることが可能となります。

今後、NICEの新ガイダンス(案)の検討が開始され、最終的なガイダンスは2011年のはじめ頃に発表される予定です。

以上

[参考資料としてNICE新ガイダンス(案)の概要、及び疾患概要を添付しています]

<参考資料>

1. NICEの新ガイダンス(案)の概要

3種類のアセチルコリン・エステラーゼ(AChE)阻害剤(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)は、以下の条件の下に、軽度および中等度アルツハイマー型認知症(AD)に対する治療選択肢として推薦されています。

  • 認知症ケア専門医のみが治療を開始できること。
  • 上記の治療薬が認知症状、全般的な症状、機能的症状、行動上の症状に対する良好な改善効果を示す場合に限って、治療を継続すること。
  • 上記の治療薬の服用を継続する患者様については、認知、全体、機能、行動評価を用いて、最低6カ月に1度治療を見直すこと。
  • AChE阻害剤を処方する場合は、1日の投与量、保険適応後の1回の価格を配慮した上で、入手価格が最も低い治療薬から開始すること。ただし、有害事象プロファイル、投薬遵守に対する期待、併存疾患、薬物相互作用の可能性および服用プロファイルを考慮した上で適切と思われる場合に限って、代替のAChE阻害剤の処方が可能であること。

2. アルツハイマー型認知症について

現在、英国では、アルツハイマー型認知症(AD)等の認知症患者様数が約82万人、そのうち、イングランドは57万5千人、ウェールズは3万7千人と推定されています。ADは、最も多く見られる認知症の種類であり、英国の認知症患者数の62%を占めています。この不可逆的、進行性脳疾患は、患者様の記憶力、推論能力、思考の過程が徐々に低下し、場合によっては、患者様が簡単な行動さえもできなくなる場合もあります。ADは、身体的、精神的、介護的、医療的、社会的等、各種の影響を及ぼしています。ADは負担が大きいにもかかわらず、見落とされがちな疾患です。英国政府の医療研究予算の2.5%が認知症研究のために使われている一方で、約4分の1の予算ががん研究のために割り当てられています。