AMPA受容体拮抗剤E2007(一般名:ペランパネル)の開発状況についてパーキンソン病適応の開発中止と神経因性疼痛、てんかん開発への集中展開

E2007(一般名:ペランパネル)は、当社が創製した新規化合物で、AMPA受容体に強力かつ選択的に拮抗し、各種の神経領域疾患でその効果が期待され開発を進めている、世界初の経口投与のAMPA受容体拮抗剤です。現在、パーキンソン病、神経因性疼痛、てんかん、多発性硬化症、片頭痛予防を対象にした開発を進めています。

AMPA受容体は、哺乳類の主たる興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のサブタイプで、興奮性神経シナプスに広く分布し、神経変性疾患、運動障害、疼痛、精神疾患などさまざまな中枢神経領域疾患の病態に関与すると考えられます。当社は、パーキンソン病、神経因性疼痛ならびにてんかんを優先適応として臨床開発を推進しており、パーキンソン病では、レボドパ基礎治療中の後期パーキンソン病を対象とした3つのフェーズⅢ試験(301試験、302試験、309試験)を実施し、てんかんではグローバルなフェーズⅢ試験の開始準備を、神経因性疼痛では2つのフェーズⅡ試験を進行させています。

このうち、パーキンソン病を対象とした2つ目のフェーズⅢ試験(302試験、主に北米にて実施)を終了しました。302試験は、本剤(2mgと4mg)の効果を20週間投与で評価することを目的とするプラセボを対照とした二重盲検試験です。この試験の主要評価項目であるオフタイム(レボドパの効果が不十分でパーキンソン症状が現れる時間)の短縮に関しては、本剤投与群とプラセボ投与群との間に統計学的な有意差は認められませんでした。一方で、本剤の良好な安全性と高い忍容性が同試験により確認されました。先に終了したフェーズⅢ試験(301試験)ならびに、302試験に関しての追加解析においても、承認申請を追求するにたる結果を得ることが出来ませんでした。これらの状況を分析した結果、パーキンソン病適応の開発計画の中止を決定しました。今後は、パーキンソン病とは病態が大きく異なり、本剤の異なる効果が期待できる神経因性疼痛、てんかんの承認取得に向け、経営資源を投入していきます。

今回の決定にともない、当社は現在進行中のパーキンソン病を対象としたフェーズⅢ試験(309試験)および継続投与試験の中止も決定しました。これらすべての試験において本剤は高い忍容性を示しました。また、これまでに報告されている以外の新たな有害事象も確認されませんでした。試験中止の判断は、パーキンソン病という特定の疾患における有効性のみによるものであり、異なる病態をもつ神経因性疼痛、てんかん等の開発に影響を与えるものではありません。したがって、当社は引き続きこれらの適応疾患における開発を鋭意推進していきます。

当社はこれまで、パーキンソン病モデルの前臨床試験においてレボドパの作用を増強する効果を確認し、パーキンソン病フェーズⅡ試験において用量依存性を確認しています。大きな医療ニーズの存在を背景とし、既存のパーキンソン病薬と作用機序が異なる非ドーパミン作動型メカニズムによるファースト・イン・クラスのパーキンソン病治療薬の開発を目指してきました。現在、パーキンソン病を対象とする2つのフェーズⅢ試験において統計学的に有意な結果を得ることができなかった理由を精査していますが、レボドパ、ドーパミンアゴニスト等のドーパミン作動型薬剤とはメカニズムが異なることから、総合的な検証が必要だと考えています。

また、当社は、薬理学的な知見から、本剤がパーキンソン病においてレボドパの作用を増強する効果を目的としているのに対し、神経因性疼痛およびてんかんにおいては、AMPA受容体拮抗剤として、主にグルタミン酸によって惹起されるニューロンの過剰興奮や、過敏性の抑制に大きく関与していると考えています。

本剤のてんかんに関する効果は、抗てんかん作用の評価として確立している多くの動物モデルで、その効果が確認されています。これまでに5種類の動物モデル(最大電撃けいれんモデル、6Hz精神運動発作モデル、ペンチレンテトラゾール誘発けいれんモデル、キンドリングモデル、音誘発けいれんモデル)で検証を行いましたが、すべてのモデルで有効性を示しました。また、これまでに実施された難治性部分てんかんの補助療法でのフェーズⅡ試験(203試験、206試験、208試験)では、高い安全性と忍容性、ならびに用量依存的な有効性を確認しています。

直近に終了した難治性部分てんかんの補助療法におけるフェーズⅡ試験(208試験、欧州で実施)では、本剤の用量を最大12mg/日まで漸増し、16週間投与で、プラセボ群を対照として試験を実施しました。本剤は難治性部分てんかんに対して、最大12mg/日まで有効性が用量依存的に増大することを確認しました。てんかんの発生頻度減少率の中央値は、本剤投与群において40%でプラセボ投与群は-2%でした。また、応答率(50%以上のてんかん発生率減少が見られた患者様の割合)は、本剤投与群が40%でプラセボ投与群は22%でした。

当社は現在、本剤の難治性部分てんかんの補助療法によるフェーズⅢ試験を2008年度の第一四半期に開始すべく準備を進めており、本剤の同適応での承認申請を2012年度に計画しています。

本剤の神経因性疼痛に関する効果については、複数の前臨床モデルにおいて有効性が確認されています。現在、糖尿病における神経因性疼痛を対象としたフェーズⅡPOC試験(227試験)において患者組み入れを3月に終了しており、2008年9月にトップラインの結果が得られる予定です。その後、ただちにフェーズⅢ試験を開始し、2010年度の申請を目指します。また、帯状疱疹後の神経因性疼痛についてのフェーズⅡ試験も2008年1月に開始されました。

なお、神経因性疼痛とてんかんの開発では、より幅広い用量範囲での検討を企図し、一日最大投与量として12mgまでを予定しています。

本剤は現在まで実施された臨床試験において2,300人以上の患者様に投与され、良好な安全性と高い忍容性が確認されています。

当社は、世界初の経口投与のAMPA受容体拮抗剤の承認取得へむけ、引き続き神経因性疼痛、てんかんおよび他の中枢神経領域疾患での開発に、強い決意をもって取り組んでいきます。新規メカニズムによってこれまでに得られなかった新たな有用性を創出し、より多くの患者様とそのご家族のベネフィットに貢献していきます。

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[参考資料として、用語解説を添付しております]

<参考資料>

用語解説

(1)ドーパミン作動型薬剤

レボドパ、ドーパミンアゴニスト等のドーパミン受容体への直接作用、あるいはドーパミンの代謝を調節することにより効果を発現する薬剤。

(2)非ドーパミン作動型薬剤

ドーパミン受容体、ドーパミン代謝への作用ではなく他の経路より薬効を示す薬剤の総称。既存の抗パーキンソン薬としては抗コリン剤、NMDA阻害剤等の薬剤がある。

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