抗MTBR(微小管結合領域)タウ抗体E2814投与によりタウ伝播の抑制を示唆する最新臨床データを第17回アルツハイマー病臨床試験会議において発表孤発性早期アルツハイマー病を対象とした臨床第Ⅱ相試験を開始

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、2024年10月29日から11月1日にスペイン・マドリードおよびバーチャルで開催される第17回アルツハイマー病臨床試験会議(Clinical Trials on Alzheimer’s Disease Conference:CTAD)において、抗MTBR(微小管結合領域)タウ抗体E2814に関する最新データを発表したことをお知らせします。また、E2814による孤発性早期アルツハイマー病(AD)を対象とした臨床第Ⅱ相試験(202試験)を開始しました。

 

 優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)における抗MTBRタウ抗体E2814によるタウ病理バイオマーカーへの影響

 E2814は、タウのMTBRを標的とするように設計された抗MTBRタウ抗体です。ADの病理学的特徴である神経原線維変化(NFT)は、脳内の神経線維走行に沿って広がるタウ伝播仮説が提唱されています。タウの伝播は、タウ病理を拡散するタウ伝播種であるMTBRを含む特定のタウ種によって、認知機能と日常生活機能に関わる様々な脳領域で引き起こされると考えられています。

 2021年6月から、当社は優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)当事者様を対象としたE2814の臨床第Ⅰ/Ⅱ相103試験(NCT04971733)(被験者数7例)を実施しました。本試験の目的は、DIAD当事者様におけるE2814の安全性と忍容性を評価するとともに、脳脊髄液(CSF)中のMTBRタウ種に対するE2814の標的結合を評価することでした。また同時にADタウ病理に関連する複数のバイオマーカーを用いた薬力学的評価を行いました。本試験では、臨床症状を有するDIADの被験者に対して、E2814を12カ月から最大24カ月間投与しました。バイオマーカー評価の比較対象として、DIADの観察研究コホートであるDominantly Inherited Alzheimer Network Observational Study(DIAN-obs)のデータを用いました。

 E2814の投与を受けた被験者では、DIAN-obsと比較して脳内タウ病理を反映する液性バイオマーカーであるCSF中のMTBR-tau243ならびにp-tau217がそれぞれ約75%、50%減少することが示されました。また、タウPETによって観察される脳内タウ凝集体は、E2814投与により安定化、もしくは減少傾向を示しました。これらの結果は、DIAD当事者様の脳内で、E2814の投与がタウ伝播を抑制し、タウ凝集体の蓄積の増加を抑えていることを示唆しています。本知見については、現在進行中のDIADを対象とした臨床第Ⅱ/Ⅲ相Tau NexGen試験(NCT05269394)、ならびに今回新たに開始した孤発性早期ADを対象とした臨床第Ⅱ相202試験(NCT06602258)においても評価する予定です。

 

 臨床第Ⅱ相202試験NCT06602258の開始

 2024年9月、早期AD(ADによる軽度認知障害(MCI)および軽度認知症)当事者様を対象とした臨床第Ⅱ相202試験を米国にて開始しました。今後、日本の施設においても開始予定です。本試験は、孤発性早期AD当事者様を対象に、抗Aβ基礎療法としてのレカネマブとの併用によるE2814の安全性、忍容性、およびAD病理のバイオマーカーに対する有効性を評価するプラセボ対照二重盲検並行群間用量探索試験です。

 

 当社は、神経領域を重点領域の一つと位置づけ、最先端の研究から革新的な創薬を行っており、引き続きADを含む認知症をはじめとするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患において、当事者様とそのご家族の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

 

 

以上

      

<参考資料>

  1. 1. E2814について

 E2814は抗MTBR(Microtubule binding region)タウ抗体です。E2814は、当社とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとの共同研究を通じて見出されました。E2814は、タウ伝播種の脳内拡散を抑制する抗体として設計されています。E2814は、孤発性ADを含むタウオパチーに対する疾患修飾薬として開発され、臨床第Ⅰ相試験を実施中です。また、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit:DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床第Ⅱ/Ⅲ相Tau NexGen試験も実施中です。

 

  1. 2. ADタウ病理に関連するバイオマーカーについて

 ADタウ病理に関連する体液バイオマーカーとして、CSF中のタウ残基243を含むMTBRタウ(MTBR-tau243)及びタウ残基217がリン酸化されたリン酸化タウ(p-tau217)が報告されています*1。また、画像バイオマーカーとして、タウ凝集体を特異的に認識する陽電子放射断層撮影(タウPET)が用いられています。これらのバイオマーカーは、The National Institute on Aging and the Alzheimer's Association(NIA-AA)が2024年6月に発行したRevised criteria for diagnosis and staging of Alzheimer's diseaseに収載されています*2

 

 

参考文献

*1: Horie K, et al. CSF MTBR-tau243 is a specific biomarker of tau tangle pathology in Alzheimer's disease. Nat Med. 2023. 29. 1954-1963

*2: Jack Jr. CR, et al. Revised criteria for diagnosis and staging of Alzheimer's disease: Alzheimer's Association Workgroup. Alzheimers Dement. 2024. 20. 5143-5169