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- 2023年10月16日
エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、2023年10月24日から27日に米国マサチューセッツ州ボストンおよびバーチャルで開催される第16回アルツハイマー病臨床試験会議(Clinical Trials on Alzheimer’s Disease Conference:CTAD)において、アルツハイマー病治療剤「レケンビ®」(一般名:レカネマブ)の皮下注製剤に関する新規データを発表することをお知らせします。また、「レケンビ」に加え、トロポミオシン受容体キナーゼA(TrkA)ポジティブ・アロステリック・モジュレーター(PAM)E2511の臨床第Ⅰ相試験のデータを含む、当社のADパイプラインの研究成果について、口頭発表5演題、ポスター発表10演題を発表します。また、当社と共同研究を行っているバイオアークティック社からレカネマブに関する口頭演題が有ります。
Late Breaking Symposium 4:「早期ADに対するレカネマブ:長期投与成績、予測バイオマーカー、新規皮下投与」
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10月25日、17時25分から18時5分(米国東部夏時間)に開催されるLate Breaking Symposiumにて、当社は、「レケンビ」の臨床第Ⅲ相Clarity AD試験の長期的なタウPETサブスタディの最新データを発表します。本発表には、Clarity ADコア試験で検討されたADの初期段階に相当する脳内タウの蓄積が軽度の集団、ならびに中程度および高度の集団についての事後解析結果、また非盲検長期継続投与試験の最新データが含まれます。また、現在開発中の皮下投与製剤の中間解析として、安全性とアミロイドPETにより測定した脳内アミロイドに対する効果についても最新情報を提供します。 
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著名な専門医であるChristopher van Dyck M.D.、Keith Johnson M.D.、Reisa Sperling M.D.にご登壇いただき、当社のMichael Irizarry M.D., MPHのリードによるパネルディスカッションにおいて、これらの結果について議論します。 
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なお、本シンポジウムは、当社のコーポレートウェブサイトの投資家セクションにてライブ配信いたします(英語のみ)。 
エーザイのClinical Evidence Generation、デピュティ・チーフクリニカルオフィサーであるMichael Irizarry M.D.は、「アルツハイマー病は進行性の重篤な疾患であり、当事者様の自立維持には早期診断1,2,3と継続的な治療が必要です。「レケンビ」は、プラークが除去された後も引き続き神経細胞傷害や神経細胞死を引き起こす可能性のある、毒性の高いプロトフィブリル*を除去することで3,4,5,6,7,8、神経細胞の機能をサポートします1,4,5。CTAD2023において、「レケンビ」の脳内タウの蓄積量が軽度な被験者に関する新たなデータと皮下投与製剤のデータを共有できることを楽しみにしています」と述べています。
その他の主な口頭発表として、レカネマブとドナネマブの様々なAβ種に対する結合活性の違いについての発表(バイオアークティック社による発表、OC19)、E2511の臨床第Ⅰ相試験における中枢神経系コリン作動性神経のターゲットに関する発表(OC34)、ならびに新規CSFタウ・バイオマーカーを用いた孤発性ADの病期分類について発表(OC2)が予定されています。
本学会における当社の製品・開発品と研究に関する発表の全リストは以下のとおりです。
■ Late Breaking Symposium 4
早期ADに対するレカネマブ:長期投与成績、予測バイオマーカー、新規皮下投与
10月25日 17時25分から18時5分(米国東部夏時間)
※左右にスクロールできます
| 発表タイトル | |
|---|---|
| Clarity AD:レカネマブ臨床第Ⅲ相試験結果のメカニズムに基づく根拠と考察 | |
| Clarity AD試験におけるバイオマーカー評価:プロトフィブリルをターゲットとすることによる下流シグナルへの影響と予測バイオマーカーとしてのタウ | |
| 早期AD治療薬レカネマブ:Clarity AD非盲検継続投与試験を含む長期有効性の結果 | |
| Clarity AD試験の皮下投与サブスタディを含む非盲検継続投与試験におけるレカネマブの安全性に関する最新情報 | |
| パネルディスカッション、質疑応答 | 
  
 ■  口頭発表演題
※左右にスクロールできます
| アセット/プロジェクト 発表時間(米国東部夏時間) | 発表番号、タイトル | 
|---|---|
| レカネマブ 
 | OC19 
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| レカネマブ 
 | Late breaking symposium 6:プレゼンテーション3 
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| E2511 
 | OC34 
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| バイオマーカー 
 | LB7 
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| バイオマーカー 
 | OC2 
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| AD一般 10月27日(金) 11:45 – 12:00 | OC29 AD臨床試験の効率を高めるAIベースのエンリッチメントツール | 
  
 ■  ポスター発表演題
※左右にスクロールできます
| アセット/プロジェクト | 発表番号、タイトル | 
|---|---|
| レカネマブ | P018 
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| レカネマブ | P045 
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| レカネマブ | LP011 
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| E2511 | P044 
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| バイオマーカー | P070 
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| AD一般 | P032 
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| AD一般 | P033 
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| AD一般 | LP003 
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| AD一般 | P145 
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| AD一般 | P179 
 | 
  
 *プロトフィブリル
- ADの病理的特徴の一つは、脳内のAβのクラスター(プラーク)の蓄積です。プラークの形成は、それぞれのAβが互いに結合し、凝集していく連続的な過程の結果と考えられています9。この過程の初期段階では、Aβの凝集体は可溶性であり、脳内の神経に対して毒性を持つことが知られています10,11。
- 可溶性Aβ凝集体で最も毒性の高いものはプロトフィブリル3と呼ばれています。プロトフィブリルは、ADに伴う脳障害の一因と考えられており、この疾患の認知機能の低下に主要な役割を果たし、Aβの中で最も毒性の高い形態と考えられています1,2。
- プロトフィブリルは脳の神経細胞の障害を引き起こし、その結果、不溶性Aβプラークの発生を増加させ、脳細胞膜や神経細胞間あるいは神経細胞と他の細胞間の信号を伝達する結合部への直接的な損傷を増加させるなど、複数のメカニズムを通じて認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります。プロトフィブリルを除去することで、神経細胞の損傷や認知機能障害を減少させ、ADの進行を防ぐ可能性があると考えられています12。
以上
<参考資料>
- 1. レカネマブについて
レカネマブは、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。米国において、「LEQEMBI」(米国ブランド名)は、2023年7月6日に米国食品医薬品局(FDA)よりフル承認を取得しました。米国における「LEQEMBI」の適応症はアルツハイマー病(AD)の治療です。「LEQEMBI」による治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の当事者様において開始する必要があります。日本においては、「レケンビ」として2023年9月25日に厚生労働省より「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」の効能・効果で製造販売承認を取得しました。
レカネマブについては、欧州(EU)、中国、カナダ、英国(北アイルランドを除く)、オーストラリア、スイス、韓国、イスラエルにおいても、それぞれ承認申請を行っています。中国およびイスラエルにおいては優先審査に、英国(北アイルランドを除く)においては、革新的な医薬品について上市までの時間を短縮することを目的としたILAP(Innovative Licensing and Access Pathway)に指定されています。
レカネマブの皮下注射によるバイオアベイラビリティ試験は終了し、Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中です。維持投与レジメンは201試験OLEにおいて評価を行っています。
2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health傘下のNational Institute on Agingによる資金提供を受けています。また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。本試験において、レカネマブは抗Aβ療法による基礎療法として選定されました。
- 2. E2511について
E2511は、当社創製の新規低分子化合物で、神経成長因子(NGF)の細胞膜受容体tropomyosin receptor kinase A(TrkA)に直接結合し、ダメージを受けたコリン作動性神経の回復およびシナプス再形成を促すことを期待しています。臨床第Ⅰ相試験を実施中です。
- 3. エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について
エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。
- 4. エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について
2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療薬の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。
参考文献
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1LEQEMBI US Prescribing Information under Traditional Approval 
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2Alzheimer's Association, Facts & Figures 2023. https://www.alz.org/media/Documents/alzheimers-facts-and-figures.pdf Accessed October 12, 2023. 
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3Hampel, H., Hardy, J., Blennow, K. et al. The Amyloid-β Pathway in Alzheimer’s Disease. Mol Psychiatry. 2021;26:5481–5503. https://doi.org/10.1038/s41380-021-01249-0 
- 
4van Dyck CH, Swanson CJ, Aisen P, et al. Lecanemab in early Alzheimer’s disease. N Engl J Med. 2023;388(1):9-21. 
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5Brendza RP, et al. Anti-Aβ antibody treatment promotes the rapid recovery of amyloid-associated neuritic dystrophy in PDAPP transgenic mice J Clin Invest. 2005;115(2):428-433. https://doi.org/10.1172/JCI23269. 
- 
6Ono K, Tsuji M. Protofibrils of Amyloid-β are Important Targets of a Disease-Modifying Approach for Alzheimer's Disease. Int J Mol Sci. 2020;21(3):952. Doi: 10.3390/ijms21030952. PMID: 32023927; PMCID: PMC7037706. 
- 
7Söderberg L, et al. Lecanemab, Aducanumab, and Gantenerumab — Binding Profiles to Different Forms of Amyloid‑Beta Might Explain Efficacy and Side Effects in Clinical Trials for Alzheimer’s Disease. Neurotherapeutics 2023 20:195–206 https://doi.org/10.1007/s13311-022-01308-6 Accessed October 12, 2023. 
- 
8Hartley DM, Walsh DM, Ye CP, Diehl T, Vasquez S, Vassilev PM, Teplow DB, Selkoe DJ. Protofibrillar intermediates of amyloid beta-protein induce acute electrophysiological changes and progressive neurotoxicity in cortical neurons. J Neurosci. 1999;19(20):8876-84. doi: 10.1523/JNEUROSCI.19-20-08876.1999. PMID: 10516307; PMCID: PMC6782787. 
- 
9Alzheimer’s Association. (2022). Brain Tour Part 2 - Alzheimer’s Effect. Retrieved September 27, 2023, from https://www.alz.org/alzheimers-dementia/what-is-alzheimers/brain_tour_part_2 
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10Chen, Gf., Xu, Th., Yan, Y. et al. Amyloid beta: structure, biology and structure-based therapeutic development. Acta Pharmacol. 2017;38:1205. https://doi.org/10.1038/aps.2017.28 
 
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11Habashi M., Vulta S., Tripathi K., et al. Early diagnosis and treatment of Alzheimer’s disease by targeting toxic soluble Aβ oligomers. Biophysics and Computational Biology. 2022;10.1073. https://www.pnas.org/doi/epdf/10.1073/pnas.2210766119 
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12Amin L, Harris DA. Aβ receptors specifically recognize molecular features displayed by fibril ends and neurotoxic oligomers. Nat Commun. 2021;12:3451. doi:10.1038/s41467-021-23507-z