顧みられない熱帯病およびマラリアの新薬開発に向けた取り組みとグローバルヘルス技術振興基金第三期への資金拠出

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund、以下GHIT Fund)による2023年度から2027年度までの第三期(5年間)に対し、合計6.25億円を資金拠出することを決定しましたので、お知らせします。GHIT Fundは、2013年4月、当社をはじめとする日本の製薬企業、日本国政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団等の官民パートナーシップにより設立された基金であり、日本と海外の研究機関の連携を促進し、開発途上国・新興国の感染症に対する新薬創出を推進しています。当社は、GHIT Fundの第一期(2013-2017年度)および第二期(2018-2022年度)において合計10億円の資金拠出をしてきました。

 

 開発途上国や新興国で多くの人々を苦しめている顧みられない熱帯病(NTDs)やマラリアなどの感染症分野の新薬開発には、疾患特有の開発の困難さや市場性といった課題があることに加え、現地における供給体制、診断や治療へのアクセス確保も必要とされ、セクターを超えた産官学パートナーシップによる取り組みが必須となっています。

 

 当社は、グローバルな医薬品アクセスの課題解決への取り組みを当社の使命と考え、GHIT Fundの支援を受けて、政府や国際機関、非営利民間団体等との官民パートナーシップのもと、マイセトーマ(菌腫)やマラリア等に対する23の新薬・ワクチン開発プロジェクトを進めてきました。マイセトーマに対する新薬開発では、独立非営利財団DNDi(Drugs for Neglected Disease initiative)とのパートナーシップにより、自社創製のE1224(一般名:ホスラブコナゾール)に関する臨床第Ⅱ相試験をスーダンで実施しました。また、抗マラリア薬の候補化合物であるSJ733について、ケンタッキー大学と協働し、臨床第II相試験を実施しています。

 

 当社にとって、顧みられない熱帯病やマラリア制圧などの医薬品アクセス向上への取り組みは、当社の企業理念である「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」に基づく長期的な企業価値創造と社会的インパクト創出をめざす活動です。引き続きグローバルパートナーとの連携を強化し、顧みられない熱帯病の感染リスクにある人々や疾患に苦しんでいる人々の「健康憂慮の解消」と「医療較差の是正」に貢献してまいります。

 

以上

 

<参考資料>  

1.  公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)について

 公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、日本政府(外務省、厚生労働省)、製薬企業などの民間企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム、国連開発計画が参画する国際的な官民ファンドです。世界の最貧困層の健康を脅かすマラリア、結核、顧みられない熱帯病(NTDs)などの感染症と闘うための新薬開発への投資、ならびにポートフォリオ・マネジメントを行っています。治療薬、ワクチン、診断薬を開発するために、GHIT Fundは日本の製薬企業、大学、研究機関の製品開発への参画と、海外の機関との連携を促進しています。詳しくは、https://www.ghitfund.orgをご覧ください。

 

2.  顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)について

 「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、以下NTDs)」とは、WHO(世界保健機関)が「⼈類が制圧しなければならない熱帯病」としている20の疾患のことを指します。主に熱帯の貧困地域を中心に、世界で約17億人がNTDsの感染のリスクにさらされています。NTDsは貧困による劣悪な衛生環境などにより蔓延し、労働力や生産性の低下を招き、貧困から脱出できない原因にもなっています。重度の身体障害が残り、経済活動や社会生活に支障をきたす場合がある他、死に至ることもあり、開発途上国や新興国では経済成長の妨げともなりうる重大な課題の一つです。

 WHOにより、デング熱・チクングニア熱、狂犬病、トラコーマ、ブルーリ潰瘍、風土病性トレポネーマ症、ハンセン病、シャーガス病、トリパノソーマ症(アフリカ睡眠病)、リーシュマニア症、条虫症・嚢虫症、メジナ虫症(ギニア虫症)、エキノコックス症(包虫症)、食物媒介吸虫症、リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症(河川盲目症)、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、マイセトーマ(菌腫)、疥癬、蛇咬傷の20種疾患がNTDsとして指定されています。

 

3.  マイセトーマについて

 マイセトーマは第18番目のNTDsとして2016年に世界保健機関(WHO)のNTDsリストに追加されました。明確な感染経路や罹患者数等の基本的情報が不足していることから、最も顧みられない熱帯病の一つとされています。マイセトーマ(菌腫)は進行性の皮下組織の慢性感染性疾患であり、患部としては足に多く見られますが、どの部位にも起こり得ます。多くの場合、原因となる細菌や真菌が傷口から皮下組織に侵入することで感染すると考えられています1

 マイセトーマは、細菌が原因の場合をアクチノマイセトーマ、真菌による場合をユーマイセトーマと区別されます。アクチノマイセトーマは、抗生物質が有効で、90%以上の患者が治癒可能とされています。一方、真菌によるユーマイセトーマの治療にはアゾール系抗真菌剤が用いられていますが、治癒率が低く、再発を繰り返し、手足の切除や切断手術に至ることも少なくありません。

 

4.  マラリアについて

 世界三大感染症の一つであるマラリアは、マラリア原虫が蚊の媒介によって、人に感染する寄生虫症です。WHOによると、世界人口の約半数がマラリアのリスクにさらされていると言われており、2021年の推定患者数は85か国で約2億4700万人であり、約62万人が命を奪われました。特に、乳幼児や5歳未満の子供、妊婦は重症化しやすく、常に命の危険にさらされています2

 現在、既存薬に対して耐性を持つマラリア原虫が報告され、新規作用機序を持つ治療薬の開発が急務となっています。また、ほとんどの既存薬は、マラリア原虫が赤血球の中で増殖する血液期に効果を示し、それ以外の肝臓期・伝播期には作用する薬剤が限られています。そのため、マラリア根治治療と再発防止、蚊による伝播の防止のために、マラリア原虫の全てのライフステージで効果を発揮する抗マラリア薬の開発が重要な鍵となっています。


1 WHO マイセトーマhttp://www.who.int/buruli/mycetoma/en/

2 WHO マラリアhttps://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/malaria