臨床第Ⅲ相Clarity AD試験データを用いた「レカネマブ」の長期的健康アウトカムについて、シミュレーションを用いた評価結果が査読学術専門誌Neurology and Therapy誌に掲載レカネマブによる治療は標準治療と比較してより重度のステージへの進行を平均で2~3年遅らせる
より早期にレカネマブによる治療を開始すると、病態進行を遅らせる効果がより大きい可能性が示される

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)および軽度AD(総称して早期ADと定義)当事者様に対する抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル*抗体レカネマブ(一般名、米国ブランド名「LEQEMBITM」)の長期的な健康アウトカムへの影響をシミュレーション評価した結果が、査読学術専門誌Neurology and Therapy誌に掲載されたことをお知らせします。本シミュレーションでは、レカネマブによる治療により、AD病態進行を遅らせ、当事者様を早期AD段階にとどまる期間が延長され、生活の質(QOL)の改善の可能性が示されました。

 

 本論文は、2022年4月に発表された臨床第Ⅱb相試験(201試験)の結果を用いた長期的健康アウトカムのシミュレーション評価を、臨床第Ⅲ相Clarity AD試験データによってアップデートしたものです。

 

 本論文では、アミロイド病理を有する早期AD当事者様において、標準治療**(SoC:standard of care)(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤もしくはメマンチンの安定投与を含む)に加え レカネマブ投与を行った群(レカネマブ群)とSoC治療のみの群(SoC群)の長期的臨床アウトカムについて比較されました。解析は、レカネマブの有効性と安全性を評価した臨床第Ⅲ相Clarity AD試験のデータおよび公表文献を用い、ADの自然な進行をシミュレートした、疾患シミュレーション・モデル(AD ACEモデル1)に基づいています。

 その結果、レカネマブ群では、SoC群と比較し、軽度、中等度、高度ADへの病態進行の推定生涯リスクがそれぞれ7.5%、13.7%、8.8%減少する可能性が示されました。さらに、レカネマブの投与により約5%の当事者様が介護施設への入所を回避できる可能性が示されました。また、レカネマブ群はSoC群と比較してより重度のステージへの進行を平均で2~3年遅らせることが示されました。具体的には、SoC群と比較して、レカネマブ群では軽度への進行は2.71年(SoC群vs.レカネマブ群:2.35年vs. 5.06年)、中等度への進行は2.95年(同:5.69年vs. 8.64年)、高度への進行は2.24年(同:8.46年vs. 10.79年)遅延することが示されました。また、介護施設への入所は0.60年(同:6.25年vs. 6.85年)遅延することが示されました。QALY***(質調整生存年)については、SoC群と比較してレカネマブ群は0.71QALY増加し、レカネマブ群のQALYは4.39年でした。

 さらに、ベースライン時の年齢や病態の進行度別のサブグループ解析を行った結果、より早期にレカネマブによる治療を開始すると、病態進行を遅らせる効果がより大きい可能性があることが明らかになりました。本サブグループ解析において、MCIの段階で投与を開始した場合に病態が進行する平均時間は、レカネマブ群ではSoC群と比較して、軽度への進行が2.55年、中等度への進行は3.15年長くなりました。

 

 エーザイ株式会社の常務執行役であり、グローバルADオフィサーであるIvan Cheungは、「本シミュレーションの結果は、レカネマブによってもたらされる長期的健康アウトカムについて定量的に示したものであり、201試験によるシミュレーションの結果を支持するものです。本研究は、医療の意思決定者がレカネマブの使用による臨床的・社会経済的価値の理解のための重要な情報となると考えています。レカネマブによる治療は、ADの進行を遅らせることにより、現在の標準治療よりもベネフィットをもたらす可能性があり、より長く自立した生活とQOLの維持の可能性があります。当社は、レカネマブの臨床的・社会的価値について、世界中の人々や国々にとって有意義な議論を促進するため、今後も透明性高く、迅速なデータと情報の公表を続けてまいります」と述べています。

 

 レカネマブは米国において迅速承認制度の下で承認され、2023年1月18日に発売されました。本迅速承認は、レカネマブがADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第Ⅱ相試験の結果に基づくものであり、検証試験により臨床的有用性を確認することが本迅速承認の要件となっています。米国食品医薬品局(FDA)は、Clarity AD試験結果を レカネマブの臨床的有用性の検証試験として評価することに合意しています。2023年1月6日にフル承認への変更に向けた生物製剤承認一部変更申請(supplemental Biologics License Application:sBLA)をFDAに提出し、3月3日に受理されました。本申請は優先審査に指定され、PDUFA(Prescription Drugs User Fee Act)アクションデート(審査終了目標日)は2023年7月6日に設定されました。本申請について、FDAは現時点で諮問委員会を予定していますが、日程については公表していません。日本において、当社は、2023年1月16日に、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請を行い、1月26日に厚生労働省より優先審査に指定されました。本申請においては、審査期間の短縮をめざし医薬品事前評価相談制度を活用しています。欧州においても、2023年1月9日に欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請(MAA)を提出し、1月26日に受理されました。中国においては、2022年12月に国家薬品監督管理局(NMPA)に生物ライセンス申請(BLA)のデータ提出を開始し、2023年2月27日に優先審査に指定されました。

 

 レカネマブについては、当社が開発および薬事申請をグローバルに主導し、当社の最終意思決定権のもとで、当社とバイオジェン・インクは共同商業化・共同販促を行います。

 

*   プロトフィブリルは、75-5000Kdの可溶性Aβ凝集体です2

**  生活習慣の改善と症状に対する薬物治療 

*** 質調整生存年(QALY)は、健康アウトカムの価値を示す指標です。健康は生存年(=量)と生命の質(QOL)の関数であるため、これらの価値を1つの指標数値にまとめる試みとしてQALYが開発されました。1QALYは、完全に健康な状態での1年間に相当します。QOLスコアは、1(完全な健康)から0(死亡)で示されます。例えば、新規治療と既存治療でいずれも生存年が3年延長し、新規治療ではQOLが0.7の状態(QALY=2.1)を維持できる一方で、既存治療ではQOLがより低く、0.5の状態(QALY=1.5)だった場合には、新規治療の増分QALYは0.6となります(QALY=QOLスコアx生存年)。

 

以上

 

1 Kansal AR, Tafazzoli A, Ishak KJ, Krotneva S. Alzheimer's disease Archimedes condition-event simulator: Development and validation. Alzheimers & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions. 2018;4:76-88. Published 2018 Feb 16. doi:10.1016/j.trci.2018.01.001

2 Söderberg, L., Johannesson, M., Nygren, P. et al. Lecanemab, Aducanumab, and Gantenerumab — Binding Profiles to Different Forms of Amyloid-Beta Might Explain Efficacy and Side Effects in Clinical Trials for Alzheimer’s Disease. Neurotherapeutics (2022). https://doi.org/10.1007/s13311-022-01308-6. Accessed February 9, 2023

  

  

<参考資料> 

  1. 1.  レカネマブ(一般名、米国ブランド名「LEQEMBITM」)について

 レカネマブは、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。米国において、「LEQEMBI」は、2023年1月6日に米国食品医薬品局(FDA)より迅速承認を取得しました。「LEQEMBI」の適応症はアルツハイマー病(AD)の治療です。「LEQEMBI」による治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の当事者様において開始する必要があります。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性のデータはありません。本適応症は、「LEQEMBI」がADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第Ⅱ相試験の結果に基づき、迅速承認の下で承認されています。本迅速承認の要件として、検証試験による臨床的有用性の確認が必要となります。

 

 米国における処方情報はこちらから入手できます。

 

 レカネマブの皮下注射によるバイオアベイラビリティ試験は終了し、Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中です。

 2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health、National Institute on Agingによる資金提供を受けています。また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。

 

2.  エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について

 エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

 

3.  エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について

 2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療薬の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。