抗がん剤タゼメトスタットについて、「患者申出療養」制度に基づく医師主導臨床研究への協力に関する契約を国立がん研究センターと締結

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、EZH2阻害剤タゼメトスタット臭化水素酸塩(一般名、製品名:「タズベリク®錠200mg」、以下 タゼメトスタット)について、国立研究開発法人国立がん研究センターと、「患者申出療養」制度に基づく医師主導臨床研究への協力に関する契約を締結したことをお知らせします。本臨床研究は、国立がん研究センター中央病院によって実施されます。

 

 「患者申出療養」制度とは、保険収載されていない未承認薬等による医療について、患者様の申出を起点として国へ申請し、安全性や有効性を確認する臨床研究として実施する制度です。今回の契約に基づいて、当社は、本制度によって国立がん研究センター中央病院が実施する本臨床研究「EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がないまたは治療抵抗性の小児・AYA*悪性固形腫瘍に対するタゼメトスタット療法に関する患者申出療養」に使用される薬剤としてタゼメトスタットを無償で提供します。

 

 タゼメトスタットは、当社と、Ipsen(本社:フランス)の子会社であるEpizyme, Inc.**が共同で創出したファースト・イン・クラスの経口EZH2阻害剤です。本剤は、エピジェネティクス関連タンパク質群のうち、ヒストンメチル基転移酵素の一つであり、発がんプロセスに関与するEZH2を選択的に阻害することで、がん関連遺伝子の発現を制御し、がん細胞の増殖を抑制すると考えられています1。日本においては、当社が本剤の開発および商業化の権利を有し、2021年に「再発又は難治性のEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」の適応で承認を取得し、製造販売しています。

 

 当社は、がん領域を戦略的重点領域の一つと位置づけており、がんの「治癒」に向けた画期的な新薬創出をめざしています。当社は、タゼメトスタットによるがん治療の可能性を引き続き追求し、世界のがん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

 

*  AYA(Adolescent&Young Adult):思春期・若年成人を表し、15歳から39歳の患者様があてはまります

** 2022年にIpsenによって買収

 

以上

  

 

<参考資料> 

  1. 1.   「患者申出療養」について

 「患者申出療養」は、未承認薬等について迅速に保険外併用療養として使用を希望する患者様に対し、患者様からの申出を起点として、安全性・有効性等を確認するとともに、身近な医療機関にて対象となる未承認薬等にアクセスを可能とする制度です。将来的に保険適用につなげるためのデータ、科学的根拠を集積することを目的としています。

 厚生労働省 「患者申出療養」制度:https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/

 

  1. 2.   タゼメトスタット臭化水素酸塩(一般名、製品名:「タズベリク®錠200mg」)について

 タゼメトスタットは、当社と、Ipsenの子会社であるEpizyme, Inc.の提携契約に基づき、同社が独自に持つ創薬プラットフォームを活用して共同で研究開発を行ってきたEZH2を標的とするファースト・イン・クラスの経口低分子阻害剤です。本剤はEZH2を選択的、かつS-アデノシルメチオニン(メチル基供与体)と競合的に阻害することでH3K27のメチル化を抑制し、がん関連遺伝子の発現を制御します1。本剤の開発および商業化について、日本においては当社が担っており、2021年6月に「再発又は難治性のEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」の適応で承認を取得しています。米国においてはIpsenが担っており、2020年1月に「成人または16歳以上の小児における根治切除不適応の転移性または局所進行性類上皮肉腫」、同年6月には、「少なくも2レジメン以上の前治療歴があり、FDAが承認したEZH2遺伝子変異の検査で陽性と診断された成人の再発・難治性の濾胞性リンパ腫」、および「他に治療手段がない成人の再発・難治性の濾胞性リンパ腫」の適応で迅速承認を受けています。本剤は、日本と米国以外では承認されていません。

 

  1. 3.   エピジェネティクスについて

 エピジェネティクス(epigenetics)とは、遺伝子機能の後天的な活性化・不活性化のための機構の一種で、DNAの塩基配列の変化を伴わずに細胞分裂後も継承される遺伝子機能の変化のしくみ、またはそれを研究する学問領域を指します。遺伝子発現の制御につながる修飾として、DNAのメチル化や、ヒストンタンパクの修飾(メチル化、アセチル化、リン酸化等)が挙げられます。

 

  1. 4.   EZH2について

 EZH2は、エピジェネティクス関連タンパク質群のうちヒストンメチル基転移酵素に属し、ヒストンタンパクH3の27番目のリジン残基(H3K27)のメチル化を特異的に触媒することで種々の遺伝子発現を制御します。EZH2遺伝子の機能獲得型変異や過剰発現、あるいはEZH2のメチル化活性を抑制的に制御することが報告されているSWI/SNF(switch/sucrose non-fermenting)複合体の機能不全によるH3K27のメチル化の亢進が発がんおよび腫瘍増殖に重要な役割を担っていると考えられています1

 

 

1  Sarah K. Knutson, Satoshi Kawano, Yukinori Minoshima, et al. Selective Inhibition of EZH2 by EPZ-6438 Leads to Potent Antitumor Activity in EZH2-Mutant Non-Hodgkin Lymphoma. Molecular Cancer Therapeutics. 2014 Apr; 13(4):842–854.