抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体「レカネマブ」について、臨床第Ⅱ相201試験に関する追加解析の結果が3報の論文として査読学術専門誌に掲載

エーザイ株式会社

バイオジェン・インク

  

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク(Nasdaq: BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:Christopher A. Viebacher、以下 バイオジェン)は、このたび、抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体レカネマブ(米国ブランド名:「LEQEMBITM」)の早期アルツハイマー病(AD)当事者様に対する有効性と安全性を評価した臨床第Ⅱb相試験(201試験)について、3つの追加解析結果が査読学術専門誌に掲載されたことをお知らせします。

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      201試験(コア試験から非盲検長期投与試験(OLE))におけるレカネマブのバイオマーカー、認知機能、臨床症状に対する効果の詳細な結果:Alzheimer’s Research and Therapy
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      201試験における種々の臨床評価項目および統計モデルに基づく有効性の一貫性評価:Alzheimer’s Research and Therapy
    •  3)
      201試験におけるアミロイド関連画像異常(ARIA)プロファイル:Alzheimer’s & Dementia: Translational Research and Clinical Interventions
  201試験は、早期AD当事者様856人を対象として実施された多施設共同、二重盲検、プラセボ対照、臨床第Ⅱb相試験であり、コア試験では主要評価項目として12カ月投与時のADCOMS(Alzheimer’s Disease Composite Score)による臨床症状の変化を評価しました。主要な副次評価項目として18カ月投与時のADCOMS、CDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum-of-Boxes)およびADAS-Cog14(Alzheimer Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale14)による臨床症状の変化などを評価しました。18カ月のコア試験の解析後、9~59カ月(平均24カ月)の無投与期間(ギャップ期間)を経て、レカネマブを10mg/kg bi-weekly投与し、長期安全性と忍容性を評価するOLEが実施されました。なお、コア試験の臨床効果やバイオマーカーなどの主要解析結果として、レカネマブ10mg/kg bi-weekly投与が、臨床症状を評価する複数のエンドポイントならびにバイオマーカー指標において一貫した進行抑制を示したことを既に発表しています。

 

1)201試験におけるレカネマブのバイオマーカー、認知機能、臨床症状に対する効果の詳細な結果

 “Lecanemab in patients with early Alzheimer’s disease: detailed results on biomarker, cognitive, and clinical effects from the randomized and open‑label extension of the phase 2 proof‑of‑concept study

 201試験のコア試験において、レカネマブは、投与12カ月および18カ月後に、アミロイドPETによる脳内Aβ蓄積を用量依存的、時間依存的に減少させ、これに伴う血漿バイオマーカーの変化および臨床症状の悪化抑制を示しました。ギャップ期間中、血漿Aβ42/40比とp-tau181値は、アミロイドPETよりも早く投与前のレベルに戻る(再蓄積の)傾向が観察されました。

OLEでは、レカネマブ10mg/kg bi-weekly投与により、アミロイドPETによる脳内Aβ蓄積の減少、血漿Aβ42/40比の減少と血漿p-tau181の減少が観察されました。

 これらの解析結果より、レカネマブ群とプラセボ群の臨床評価における差がコア試験において投与期間に伴い拡大したこと、コア試験でのレカネマブ10mg/kg投与群ではギャップ期間中にプラセボとの差を維持したまま臨床症状が進行したこと、および、ADの主要な病態生理学的変化に関連するバイオマーカーに影響があったことなどにより、レカネマブによる潜在的な疾患修飾効果が示唆されました。さらに、血漿バイオマーカーを用いたレカネマブの効果をモニタリングできる可能性も示されました。

 

2)201試験における種々の臨床評価項目および統計モデルに基づく有効性の一貫性評価

 “Consistency of efficacy results across various clinical measures and statistical methods in the lecanemab phase 2 trial of early Alzheimer’s disease

 201試験におけるレカネマブの有効性の頑健性を評価するために、3つの重要な臨床評価項目(ADCOMS、CDR-SB、ADAS-Cog)について、異なる統計モデルを用いて感度分析を行いました。その結果、検討したすべての統計モデルにおいて、レカネマブの18カ月投与により、一貫した臨床症状の悪化抑制が示されました。本試験におけるレカネマブ最高用量(10mg/kg biweekly)の18カ月投与時の臨床効果を複数の統計モデルを用いて評価した結果、プラセボと比較してADCOMSでは29.1~37.4%、CDR-SBでは26.5~38.4%、ADAS-Cogでは37.4~55.9%の悪化抑制となり、一貫した効果が確認されました。

 

3)201試験におけるアミロイド関連画像異常(ARIA)プロファイル

 “ARIA in patients treated with lecanemab (BAN2401) in a phase 2 Study in early Alzheimer’s disease

 201試験のコア試験では、レカネマブによるARIA-E(浮腫/浸出)の発現率は用量依存的であり、レカネマブ最高用量(10mg/kg biweekly)群で9.9%、ApoEε4保有者では14.3%の発現率でした。ARIA-Eの多くは投与開始後3カ月以内に発現し、画像による重症度判定では大部分は軽度または中等度でした。症候性ARIA-Eは10mg/kg bi-weekly投与群の3%に発現しました。ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、直径1cmを超える脳出血、脳表ヘモジデリン沈着)は、10mg/kg bi-weekly投与群の6.2%に発現し、そのほとんどが軽度でした。コア試験では症候性のARIA-Hの発現はありませんでした。

 OLEにおけるARIA-E発現率は、コア試験におけるレカネマブ10mg/kg bi-weekly投与で見られた割合と概ね一致しました(コア試験でプラセボを投与された45人の被験者がOLEに参加し、4人(8.9%)でARIA-Eが発現しました)。コア試験と同様、ARIA-Eの多くはOLEでのレカネマブ投与開始後3カ月以内に発現し、画像による重症度判定では多くが軽度から中等度でした。OLEにおけるARIA-Hの発現率は、コア試験のレカネマブ10mg/kg bi-weekly投与群で見られた割合と概ね一致しました。ARIA-Hの重症度については多くが軽度または中等度でした。OLEにおいて、直径1cmを超える症候性(視野欠損)の脳出血が1人報告されました。この被験者は、ARIA-Eは生じておらず、有害事象は軽快しました。

 PK/PDモデルにより、ARIA-Eの発現率は、定常状態におけるレカネマブの最高血中濃度と相関することが示されました。

本試験における最高用量で忍容性が高かったことを受け、漸増投与の無い10mg/kg bi-weeklyを至適用量として臨床第Ⅲ相Clarity AD試験を実施しました。現在、レカネマブの最高血中濃度を下げることが可能な皮下注製剤の開発が進められており、静脈内投与製剤に比べてARIA-Eの発現率を低下できるかどうかを評価しています。

 

 レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

  

以上

 

本件に関する報道関係お問い合わせ先

  

<参考資料>
  1. 1.  レカネマブについて

 レカネマブ(一般名、米国ブランド名:「LEQEMBI™」)は、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。レカネマブは、ADを惹起させる因子の一つと考えられている、神経毒性を有するAβプロトフィブリルに選択的に結合し、脳内から除去することでADの病態進行を抑制する疾患修飾作用が示唆されています。米国の迅速承認における「LEQEMBI」の適応症はアルツハイマー病(AD)の治療です。「LEQEMBI」による治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の当事者様において開始する必要があります。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性のデータはありません。本適応症は、「LEQEMBI」で治療された当事者様で観察されたAβプラークの減少に基づき、迅速承認の下で承認されています。本迅速承認の要件として、検証試験による臨床的有用性の確認が必要となります。Clarity AD試験では、主要評価項目ならびに全ての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成しました。

 

 米国における処方情報はこちらから入手できます。

 

 レカネマブは米国において迅速承認制度の下で承認され、2023年1月18日に発売されました。本迅速承認は、レカネマブがADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第Ⅱ相試験の結果に基づくものであり、検証試験により臨床的有用性を確認することが本迅速承認の要件となっています。FDAは、臨床第Ⅲ相Clarity AD試験結果をレカネマブの臨床的有用性の検証試験として評価することに合意しています。Clarity AD試験の結果は、2022年11月に第15回アルツハイマー病臨床試験会議(CTAD)にて発表し、同時に査読学術専門誌the New England Journal of Medicineにも掲載されました。2023年1月6日にフル承認への変更に向けた生物製剤承認一部変更申請(supplemental Biologics License Application:sBLA)をFDAに提出し、3月3日に受理されました。本申請は優先審査に指定され、PDUFA(Prescription Drugs User Fee Act)アクションデート(審査終了目標日)は2023年7月6日に設定されました。本申請について、FDAは現時点で諮問委員会を予定していますが、日程については公表していません。日本において、エーザイは、2023年1月16日に、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請を行い、1月26日に厚生労働省より優先審査に指定されました。本申請においては、審査期間の短縮をめざし医薬品事前評価相談制度を活用しています。欧州においても、2023年1月9日に欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請(MAA)を提出し、1月26日に受理されました。中国においては、2022年12月に国家薬品監督管理局(NMPA)に生物製剤ライセンス申請(BLA)のデータ提出を開始し、2023年2月27日に優先審査に指定されました。

 

 レカネマブの皮下注射によるバイオアベイラビリティ試験は終了し、Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中です。

 2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health、National Institute on Agingによる資金提供を受けています。

また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。

 

  1. 2.  エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について

 エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

 

  1. 3.  エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について

 2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療薬の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。

 

  1. 4.  エーザイ株式会社について

 エーザイ株式会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念とし、この理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域において、革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。

 また、当社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット(3.3)である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧に向けた活動に世界のパートナーと連携して積極的に取り組んでいます。

エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。Twitterアカウント@Eisai_SDGsでも情報公開しています。

 

  1. 5.  バイオジェン・インクについて

 1978年に設立されたバイオジェンは、多発性硬化症の広範なポートフォリオを有し、脊髄性筋萎縮症の最初の治療薬を製品化し、アルツハイマー病の病理に作用する二つの治療薬を共同開発するなど、数多くの革新的なイノベーションを生み出したグローバル・バイオテクノロジー企業です。バイオジェンは神経、神経精神、特定の免疫、希少疾患といった領域において画期的な治療となりうるパイプラインを進展させ、サイエンスを通じて人々に貢献するという理念を厳格に追求し、人々がより健康的に、持続可能で平等に生きていける世界となるよう取り組んでいます。

 

 バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/およびSNS媒体Twitter, LinkedIn, Facebook, YouTubeをご覧ください。

 

Biogen Safe Harbor

This news release contains forward-looking statements, including statements made pursuant to the safe harbor provisions of the Private Securities Litigation Reform Act of 1995, about the potential clinical effects of lecanemab; the potential benefits, safety and efficacy of lecanemab; potential regulatory discussions, submissions and approvals and the timing thereof; the expected data readout for the Clarity AD study; the treatment of Alzheimer’s disease; the anticipated benefits and potential of Biogen’s collaboration arrangements with Eisai; the potential of Biogen’s commercial business and pipeline programs, including lecanemab; and risks and uncertainties associated with drug development and commercialization. These statements may be identified by words such as “aim,” “anticipate,” “believe,” “could,” “estimate,” “expect,” “forecast,” “intend,” “may,” “plan,” “possible,” “potential,” “will,” “would” and other words and terms of similar meaning. Drug development and commercialization involve a high degree of risk, and only a small number of research and development programs result in commercialization of a product. Results in early-stage clinical studies may not be indicative of full results or results from later stage or larger scale clinical studies and do not ensure regulatory approval. You should not place undue reliance on these statements or the scientific data presented.

 

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