米国臨床腫瘍学会年次総会において抗体薬物複合体farletuzumab ecteribulinの最新の知見を発表固形がんを対象としてfarletuzumab ecteribulin(MORAb-202)を評価する臨床第Ⅰ相試験のプラチナ抵抗性卵巣がんを対象とした拡大パートにおける安全性および有効性についてのポスターディスカッション(抄録番号:5513)

PK/PD解析およびモデリング/シミュレーション解析結果による、体表面積に基づく用量の最適化についてのポスター発表(抄録番号:3090)

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、2022年6月3日から7日まで米国イリノイ州シカゴおよびバーチャルのハイブリッド形式で開催される「米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)年次総会」(2022 ASCO Annual Meeting)のポスターディスカッションにおいて、当社とブリストル マイヤーズ スクイブ(本社:米国)が共同開発を行っている抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate:ADC)であるfarletuzumab ecteribulin(開発品コード:MORAb-202)について、臨床第Ⅰ相試験(101試験)(NCT03386942)のプラチナ抵抗性卵巣がん拡大パートの安全性および有効性についての最新の知見(抄録番号:5513)を発表したことをお知らせします。

 

 Farletuzumab ecteribulinは、自社創製の葉酸受容体α(folate receptor α:FRα)に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体ファルレツズマブに、同じく自社創製の抗がん剤である微小管ダイナミクス阻害剤エリブリンを酵素切断リンカーを介して化学結合させています。

 

 本試験の治験責任医師である久留米大学医学部産科婦人科学講座の西尾真准教授(MD, PhD)は、「我々は、本臨床試験におけるfarletuzumab ecteribulinの安全性データ、および本薬剤の2つの用量コホートと広範なFRαの発現レベルのプラチナ抵抗性卵巣がんにおける予備的な抗腫瘍活性による有効性データに勇気づけられています。前臨床試験結果から、farletuzumab ecteribulinは、臨床において酵素切断リンカー部位で抗体から殺細胞性のペイロードが切り離され、FRα陽性のがん細胞のみならず、周囲のFRα陰性がん細胞に作用するバイスタンダー効果を示す可能性があります。分子標的治療分野が進化するにつれて、抗体薬物複合体は、再発性のプラチナ抵抗性がんにおける重要なモダリティーとなりつつあります」と述べています。

 

 卵巣がんは進行性期に発見されることの多い典型的ながんであり、高い再発率と再発後の化学療法抵抗性により、予後不良と言われています1。高悪性度漿液性卵巣がんは、卵巣がんで最も多いタイプのがんであり、発見時には転移がみつかることの多いがんです2-3。卵巣がんは、分子標的療法の目印として使われる腫瘍抗原を非常に多く発現しており、その腫瘍抗原は、FRαを含め上皮性卵巣がんに高頻度に発現しています4-5。FRαは、腫瘍の悪性度のマーカーであると考えられており、治療に対する低感受性と関係しています6

 

 当社の常務執行役 オンコロジービジネスグループ プレジデントである大和隆志PhDは、「当社は、ヒューマン・ヘルス・ケア(hhc)理念として、アンメット・メディカルニーズの高いがんに対する新たな治療法の確立に挑戦し続けています。自社の創薬技術を駆使して創製した当社初の抗体薬物複合体のデータは、新たな治療オプションを求めている患者様のがん治療を改善し、精密医療の進化をめざす我々のコミットメントを示しています。我々は、今後もプラチナ抵抗性卵巣がんに対する新たな治療オプションとしての可能性をもつfarletuzumab ecteribulinのさらなる研究成果を共有してまいります」と述べています。

 

試験デザイン

 日本において実施中の臨床第Ⅰ相試験(101試験)の主要目的は、farletuzumab ecteribulinの安全性と忍容性の評価です。副次目的には、farletuzumab ecteribulinの次相以降の試験における推奨用量の決定と、薬物動態、奏効率(Objective Response Rate: ORR)および病勢コントロール率(Disease Control Rate:DCR)の評価が含まれます。本試験においては、3週間に1 回静脈内投与によるfarletuzumab ecteribulin 0.3から1.2mg/kgの用量が評価されました。本試験の用量漸増パートでは、卵巣がんを含むFRα陽性のがん患者様において、farletuzumab ecteribulinは抗腫瘍活性を示しました。本試験の用量漸増パートにおける有効性および安全性のデータに基づき、プラチナ抵抗性卵巣がん患者様を対象とした本試験の拡大パートにおいては、3週間に1回の静脈内投与によるfarletuzumab ecteribulin 0.9mg/kg(コホート1)と1.2mg/kg(コホート2)が評価されました。患者様の試験参加には、免疫組織化学的染色によるFRα 陽性腫瘍を有する必要があり、陽性発現は、スライド上で、1+、2+、または3+強度レベルの染色された細胞が5%を上回るものとして定義されました。拡大パートにおいて、ベースライン、36週目までの6週間ごと、その後8週間ごと、および投与中止時(または臨床的に必要な場合)に、RECIST v1.1(固形がんに対する腫瘍径の変化を効果判定に用いる評価基準)に基づき、腫瘍評価が行われました。完全奏効と部分奏効の判定は、4週間以上経過後の次の腫瘍評価をもって確定しました。なお、1.2 mg/kgの投与量群に移行する前に、0.9 mg/kgの投与量群における間質性肺疾患/非感染性肺炎の評価を社外の専門家による間質性肺疾患評価委員会で実施しました。間質性肺疾患/非感染性肺炎が発現した場合、その有害事象の重症度に応じて、farletuzumab ecteribulinの投与量の再検討、休薬または投与中止がなされました。さらに、間質性肺疾患/非感染性肺炎の管理の方法として、呼吸器科の診察、徴候と症状の放射線画像によるモニタリング、プレドニゾロンの投与、または各地域のガイドラインに従った診療等が行われました。

 

試験における安全性および有効性の結果

 もっとも頻度の高い有害事象(Treatment-Emergent Adverse Event: TEAE)は間質性肺疾患/非感染性肺炎であり(コホート1:37.5%、コホート2:66.7%)、ほとんどの患者様において重症度の低いものでした(コホート1 グレード1:33.3%;グレード2:4.2%;グレード3-5:0%、コホート2 グレード1:28.6%;グレード2:33.3%;グレード3:4.8%;グレード4-5:0%)。間質性肺疾患の次に頻度の高いTEAEsは、発熱(コホート1:33.3%;コホート2:42.9%)、頭痛(コホート1:12.5%;コホート2:47.6%)および悪心(コホート1:25.0%;コホート2:33.3%)でした。グレード3以上のTEAEsは、コホート1の33.3%、コホート2の28.6%で確認されました。

Farletuzumab ecteribulin投与によるORRは、コホート1(n=24)において25.0%(6例)およびコホート2(n=21)において52.4%(11例)でした。高悪性度漿液性卵巣がんにおいて、ORRはコホート1において31.6%(19例中6例)、およびコホート2において50.0%(20例中10例)でした。FRαの発現レベルが50.0%未満の患者様では、farletuzumab ecteribulin投与によるORRは、コホート1において33.3%(6例中2例)、およびコホート2において50.0%(2例中1例)でした。FRαの発現レベルが50.0%以上の患者様では、farletuzumab ecteribulin投与によるORRは、コホート1において22.2%(18例中4例)、およびコホート2において52.6%(19例中10例)でした。

  

Table 1. RECIST v1.1に基づく治験責任医師判定による有効性評価 

※左右にスクロールできます

パラメーターコホート1
farletuzumab ecteribulin
0.9 mg/kg
n=24
コホート2
farletuzumab ecteribulin
1.2 mg/kg
n=21
完全奏効, n(%)1(4.2) 0
部分奏効, n(%)5(20.8) 11(52.4)
病勢安定, n(%)10(41.7) 9(42.9)
病勢進行, n(%)8(33.3) 1(4.8)
奏効率, n(%),(95%CI)6(25.0),(9.8-46.7) 11(52.4),(29.8-74.3)
FRαの発現状態別の奏効率
n/n(%),(95%CI)
FRα<50%
FRα≥50%


2/6(33.3), (4.3-77.7)4/18(22.2),(6.4-47.6)



1/2(50.0),(1.3-98.7)
10/19(52.6),(28.9-75.6)

病理組織型別の奏効率
n/n(%), (95%CI)
高悪性度漿液性卵巣がん
非高悪性度漿液性卵巣がん


6 of 19 (31.6),(12.6-56.6)
0/5,(0)


10/20(50.0),(27.2-72.8)
1/1(100),(2.5-100)
病勢コントロール率, n(%)(95%CI)16(66.7)
(44.7-84.4)
20(95.2)
(76.2-99.9)
奏効期間の中央値, 月
(95%CI)
10.6
(3.9-NE)
7.6
(4.3-10.8)
データカットオフ日:2021年10月31日
奏効率(完全奏効+部分奏効)
病勢コントロール率(完全奏効+部分奏効+病勢安定[5週以上])

体表面積に基づく用量の最適化についてのポスター発表(抄録番号:3090)

 本学会では、101試験結果に基づいたfarletuzumab ecteribulinの最適用量を見出すためのPK/PD解析およびモデリング/シミュレーション解析の結果についてのポスター発表も行いました。本解析により、体表面積に基づく用量は、体重に基づく用量に比較し、臨床における有効性を維持しつつ体重の重い患者様における暴露量依存的な間質性肺疾患のリスクを低減できる可能性が見い出されました。体表面積に基づく用量設定は抗体薬物複合体による治療ではよく用いられるものであり、米国で実施している臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験(201試験)(NCT04300556)において、farletuzumab ecteribulinのベネフィットとリスクを決定するための体表面積に基づく用量の最適化を目的とした評価が進行中です。

 

<参考資料> 

1. Farletuzumab ecteribulin(開発品コード:MORAb-202)について

 Farletuzumab ecteribulinは、自社創製のFRαに対するヒト化IgG1モノクローナル抗体であるファルレツズマブに、酵素切断リンカーを介して、同じく自社創製の抗がん剤エリブリンを化学結合させた当社にとって初の抗体薬物複合体です。当社は、farletuzumab ecteribulinの共同開発・共同商業化について、ブリストル マイヤーズ スクイブとグローバルな独占的戦略的提携契約を締結しています。現在当社は、FRα陽性固形がんにおいて、farletuzumab ecteribulinを評価する臨床第Ⅰ相試験(NCT03386942)および臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験(NCT04300556)を、それぞれ日本と米国で実施中です。その他の試験については、当社とブリストル マイヤーズ スクイブの両社で計画中です。farletuzumab ecteribulinは、標的となるFRαが発現したがん細胞内に取り込まれた後にリンカーが酵素的に切断され、抗体からエリブリンが切り離されて抗腫瘍活性を示します。非臨床試験において、FRα陽性がん細胞の周囲のFRα陰性がん細胞に対しても抗腫瘍活性を示すバイスタンダー効果*が確認されています。

 ペイロードであるエリブリンは、初のハリコンドリン系の微小管ダイナミクス阻害剤です。海洋生物クロイソカイメン(Halichondria okadai)から抽出された天然物ハリコンドリンBの全合成類縁化合物であり、微小管の伸長(重合)を阻害・抑制することで、細胞分裂の停止作用を有しています。

 

*バイスタンダー効果(bystander effect):標的となる抗原陽性のがん細胞内で、抗体薬物複合体の抗体から放出された抗腫瘍薬剤が、周辺の抗原陰性のがん細胞やがん微小環境の構成細胞に対しても有効性を示す効果

 

2.卵巣がんについて

 卵巣がんは、卵巣、卵管または腹膜に発生し、これらの部位における制御不能な増殖を特徴とします7。世界において、女性に発生するがんの中で8番目に頻度が高いとされています8。2022年、米国において、約2万人が新たに卵巣がんと診断され、約1万3千人が亡くなったとされています2。約90%の症例は上皮性卵巣がんであり、その大部分は、リスクファクターがほとんど特定されておらず、最も予後の悪い高悪性度漿液性卵巣がんです2。卵巣がんは、多くの症例が進行期である典型的ながんであり、初回化学療法は効果を示しますが、大部分は再発し、化学療法抵抗性となります1。プラチナ抵抗性卵巣がんは治療が困難であり、化学療法が有効な症例は15%未満です9

 

3. 当社のがん領域の取り組みについて

 当社は、がん領域において、真の患者様ニーズが満たされておらず、かつ当社がフロントランナーとなり得る機会(立地)として、「ハラヴェン®」(一般名:エリブリンメシル酸塩)や「レンビマ®」での経験知を活かした「がん微小環境」とRNAスプライシングプラットフォーム等を用いた「ドライバー遺伝子変異とスプライシング異常」を標的とした抗がん剤の開発にフォーカスしています。これらの立地から新たな標的や作用機序を有する革新的新薬を創出し、がんの治癒の実現に向けて貢献することをめざしています。

 

1 Calo, CA, et al. Antibody-Drug Conjugates for the Treatment of Ovarian Cancer. Expert Opin Biol Ther. 2021; 21(7): 875–887. doi: 14712598.2020.1776253

2American Cancer Society. Cancer Facts & Figures 2022. Updated January 2022. Accessed May 2022. https://www.cancer.org/content/dam/cancer-org/research/cancer-facts-and-statistics/annual-cancer-facts-and-figures/2022/2022-cancer-facts-and-figures.pdf

3Cleveland Clinic. Epithelial Ovarian Cancer. Updated January 2022. Accessed May 2022. https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22250-epithelial-ovarian-cancer

4Manzano A, et al. Antibody-Drug Conjugates: A Promising Novel Therapy for the Treatment of Ovarian Cancer. Cancers (Basel). 2020; 12(8): 2223. doi: 10.3390/cancers12082223

5De Muynck, et al. Novel Molecular Targets for Tumor-Specific Imaging of Epithelial Ovarian Cancer Metastases. Cancers (Basel). 2020; 12(6): 1562. doi: 10.3390/cancers12061562

6Cheung A, et al. Targeting Folate Receptor Alpha for Cancer Treatment. Oncotarget. 2016; 7(32): 52553–52574. doi: 10.18632/oncotarget.9651

7Centers for Disease Control and Prevention. Basic Information About Ovarian Cancer. Updated March 2021. Accessed May 2022. https://www.cdc.gov/cancer/ovarian/basic_info/index.htm

8World Cancer Research Fund International. Ovarian cancer statistics. Updated March 2022. Accessed May 2022. https://www.wcrf.org/cancer-trends/ovarian-cancer-statistics/

9Van Zyl B, et al. Biomarkers of Platinum Resistance in Ovarian Cancer: What Can We Use to Improve Treatment. Endocrine-Related Cancer. 2018; 25(5): R303–R318. doi: 10.1530/ERC-17-0336