顧みられない熱帯病制圧に向けた取り組みの成果と継続支援の発表国際官民パートナーシップ「ロンドン宣言」10周年記念イベント

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、2022年1月27日にオンラインで開催された、顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)制圧をめざす国際官民パートナーシップ「ロンドン宣言」の10周年記念イベント「100% COMMITTED to End NTDs」において、製薬企業を代表して当社の代表執行役CEO内藤晴夫が登壇し、NTDs制圧に向けた製薬業界のこれまでの活動やセクターを超えたパートナーシップの成果を称え、世界保健機関(WHO)が昨年発表したNTDsロードマップ2021-2030の達成に向けて、今後もNTDs制圧支援を継続することを表明しました。今回のイベントは、ロンドン宣言からの10年間の進捗とNTDs制圧に向けた継続的なステークホルダーズの強いコミットメントを確認するとともに、2022年6月にルワンダ共和国の首都キガリで開催されるCommonwealth Heads of Government Meetingにおいて、ロンドン宣言の後継となる「キガリ宣言」発表に向けた関係者の支持を高めることを目的としています。

 

 製薬企業は、2012年のロンドン宣言以降、2020年までの間に130億人分もの高品質な治療薬を無償提供してきました。この間、国際官民パートナーシップによるNTDs制圧活動により、20のNTDsのうち少なくとも一つのNTDが43カ国で制圧され、6億人に対するNTDs治療が完了するなど、多くの成果があげられた一方、世界では未だ17億人の人々がNTDsの感染リスクにさらされています。

 本イベントにおいて、当社の代表執行役CEOの内藤晴夫は、「我々のNTDs制圧に対する取り組みは、必要な医薬品を必要とする人々にお届けし、病気を治療することで、患者様の生命を救うという製薬企業の根源的な使命を果たすために行っているものです。ロンドン宣言以降、NTDsに対する新薬開発も活発になっていますが、これをさらに加速するためには、迅速かつ柔軟な薬事承認制度の整備や官民パートナーシップを活用したファンディングの拡充が重要です。また、脆弱な社会インフラのもとで医療を確実にお届けするためには、デジタル技術を応用したリモート医療の実現が期待されます」と述べました。

 

 当社は、「ロンドン宣言」のもと、NTDsの一つであるリンパ系フィラリア症(LF)治療薬の一つであるジエチルカルバマジン(DEC)錠を自社のインド・バイザッグ工場で製造し、WHOを通じこれまで29カ国に20.5億錠を供給してきました(2022年1月現在)。LFは、17カ国で制圧が達成され、感染者数は2000年と比較して74%減少した一方、8.6億人が未だ感染リスクにさらされています。当社は、DEC錠の無償提供を必要とする全ての蔓延国で制圧が達成されるまで継続することを表明しているとともに、蔓延国における治療薬の集団投与(MDA)の実施支援や疾病啓発活動、衛生環境の整備などに取り組んでいます。

 さらに、当社は、国際研究機関等とのパートナーシップを通じてNTDsの新薬開発に積極的に取り組んでいます。公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)などからの助成金を活用し、リバプール熱帯医学校及びリバプール大学との新規フィラリア駆虫薬の共同開発や、Drugs for Neglected Diseases initiative (DNDi)とのパートナーシップによるマイセトーマやリーシュマニア症の新薬開発に対する共同開発などを行っています。

 

 当社は、キガリ宣言にコミットし、NTDsロードマップ2021-2030の達成に向けてグローバルパートナーとの連携を強化し、NTDs制圧に取り組んでまいります。

 

 当社は、ヒューマンヘルスケア(hhc)理念のもと、開発途上国・新興国の人々の健康福祉の向上に貢献し、これらの国々の人々が健康を回復し、就労することによって、経済の発展や中間所得層の拡大に寄与することを、将来の市場形成に向けた長期的投資と位置づけています。政府、国際機関、アカデミアや非営利民間団体などとのパートナーシップを活用し、NTDsをはじめとする感染症などに対する新薬開発を加速するとともに、現地における薬剤集団投与の支援活動や疾患啓発など、医薬品アクセスの改善に向けた活動を通じて、世界の患者様とそのご家族のベネフィット向上に、より一層貢献してまいります。

以上

  

<参考資料>

1.   顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)について

 「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、NTDs)」とは、WHOが「人類の中で制圧しなければならない熱帯病」と定義している20の疾患のことを指し、主に熱帯の貧困地域を中心に、世界で17億人もの方がNTDsの感染のリスクにさらされています。NTDsは貧困による劣悪な衛生環境などにより蔓延し、労働力や生産性の低下を招き、貧困から脱出できない原因にもなっています。重度の身体障害が残り、経済活動や社会生活に支障をきたす場合がある他、死に至ることもあり、開発途上国や新興国では経済成長の妨げともなりうる重大な課題の一つです。

 WHOにより、デング熱とチクングニア熱、狂犬病、トラコーマ、ブルーリ潰瘍、風土病性トレポネーマ症、ハンセン病、シャーガス病、アフリカ・トリパノソーマ症(睡眠病)、リーシュマニア症、条虫症・嚢虫症、メジナ虫症(ギニア虫症)、エキノコックス症(包虫症)、食物媒介吸虫症、リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症(河川盲目症)、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、マイセトーマ(菌腫)、疥癬、蛇咬傷の20種疾患がNTDsとして指定されています。

 

2.  顧みられない熱帯病に対するロンドン宣言(London Declaration on Neglected Tropical Diseases)について

 2012年1月30日、製薬企業13社*のCEO、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、WHO、米国国際開発庁(USAID)、英国国際開発省(DFID)、世界銀行、NTDsの蔓延国政府がロンドンに一同に会し、NTDs10疾患**を制圧すべく共闘することを表明しました。これはグローバルヘルス分野における世界最大の国際官民パートナーシップであり、これまでの組織単位、疾患ごとのアプローチとは異なり、この新しい連携により、医薬品供給、物流、開発、インフラなどにおける課題に包括的に取り組み、より効果的にNTDs制圧を成し遂げることをめざしています。

 ロンドン宣言を記念して、2020年より1月30日は「世界NTDの日」と定められ、世界各地の有名建築物等をNTDsのシンボルカラーである「オレンジと紫」にライトアップするキャンペーンが行われています。当社は東京タワーのライトアップに協賛し、NTDsに対する啓発ならびに制圧活動の重要性を訴えます。「世界NTDの日」に関する詳細はこちらよりご覧ください。

 

* アッヴィ、アストラゼネカ、バイエル、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、エーザイ、グラクソスミスクライン、ギリアド、ジョンソンアンドジョンソン、メルク(Merck KGaA:ドイツ)、MSD、ノバルティス、ファイザー、サノフィ

** ギニア虫症、リンパ系フィラリア症、失明に至るトラコーマ、睡眠病(アフリカ・トリパノソーマ症)、ハンセン病、土壌伝播寄生虫症、住血吸虫症、オンコセルカ症(河川盲目症)、シャーガス病、リーシュマニア症

 

3.顧みられない熱帯病に対するキガリ宣言(Kigali Declaration on Neglected Tropical Diseases)について

 キガリ宣言は、2012年のロンドン宣言の後継としてNTDsの制圧に向けてステークホルダーが共闘を誓うことを目的としています。2022年1月27日に開催された「ロンドン宣言」10周年記念イベント「100% COMMITTED to End NTDs」において、ステークホルダーによる賛同が開始され、2022年6月にルワンダ共和国の首都キガリで開催が予定されているCommonwealth Heads of Government Meetingにて正式に発表される予定です。キガリ宣言において、WHOが主導するNTDsロードマップ2021-2030の達成に向けて、産官学民のパートナーシップを通じて、疾病・分野横断的アプローチの推進、ヘルスシステムの構築と資金調達を含む蔓延国における能力強化、NTDs治療薬・診断薬の研究開発の加速とそれらの供給の確保などの課題に取組み、包括的かつ持続可能な方法でNTDs制圧を成し遂げることをめざします。

 

4. リンパ系フィラリア症について

 リンパ系フィラリア症(LF)は、蚊を媒介として人に感染する顧みられない熱帯病(NTD)です。 LFは、リンパ系機能障害により、足などの体の一部が肥大化し、激しい痛みや恒久的な障害だけでなく、外観の損なわれることによる社会的偏見を引き起こします。その結果、患者様は精神的、社会的、経済的損失を被ることになります。開発途上国を中心に世界で8.6億人が感染のリスクにさらされていると推定されています。DEC錠を含む3種類のLF治療薬の集団投与(mass drug administration: MDA)を実施することにより、LFを制圧することが可能です。

 

5. エーザイのLF制圧を含む医薬品アクセス向上への取り組み

 当社は、ヒューマンヘルスケア理念(hhc)に基づき、各国政府や国際機関、民間企業や非営利団体などとの協力のもと、世界における医薬品アクセス改善に向けて中長期的視点に立った取り組みを展開しています。

 当社は、集団投与(MDA)に用いられる高品質なDEC錠の安定供給が世界的に困難であった状況に鑑み、2010年11月に、2020年までに合計22億のDEC錠をWHOに無償で提供することに合意しました。2012年には、NTDs10疾患の制圧に向けたグローバルヘルス分野における過去最大の官民パートナーシップである「ロンドン宣言」に唯一日本企業として参画しました。2017年4月に行われた「ロンドン宣言」5周年イベントで、当社は、DEC錠が必要とされる全てのLF蔓延国において制圧が達成されるまで、2020年以降も継続してDEC錠を提供することを発表しました。

 当社は、これまで29カ国に20.5億錠を提供しています(2022年1月現在)。さらに、当社は、WHOがMDAを円滑に実施するため、蔓延地域での疾患啓発活動にも協力しており、エーザイグループの社員がLF蔓延国の制圧担当者やその他現地の関係者と協力して早期制圧実現に向けた支援活動を行っています。

 LF制圧に向けた取り組みのほか、当社はDrugs for Neglected Diseases initiative (DNDi)やMedicines for Malaria Venture(MMV)などの国際的な非営利団体、あるいはLiverpool School of Tropical Medicine、ケンタッキー大学やブロード研究所などの研究施設とのパートナーシップにより、マイセトーマやLFなどのNTDsやマラリアなどの感染症に対する新薬開発を進めています(下表)。

 さらに、日本発の新薬創出によるグローバルヘルスへの貢献をめざす公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund: GHIT Fund)の設立のほか、世界知的所有権機関(WIPO)が主催するNTDs、マラリアや結核の治療薬開発のための国際共同事業「WIPOリサーチ(Re:Search)コンソーシアム」、結核に対する革新的な創薬をめざす「Tuberculosis Drug Accelerator」(TBDA)パートナーシップや非感染性疾患の予防と治療を推進するイニシアチブ「Access Accelerated(アクセス・アクセレレイテッド)」に参画しています。

 

*1MRC: Medical Research Council (UK); *2DoD: Department of Defense (US); *3MMV: Medicines for Malaria Venture (Swiss); *4DHODH: dihydroorotate dehydrogenase; *5ASO: Anti-Sense Oligo-nucleotide


当社の医薬品アクセスへの取り組みの詳細は、当社サイト「医薬品アクセス」をご覧ください。
https://www.eisai.co.jp/sustainability/atm/index.html