AMPA型グルタミン酸受容体拮抗剤ペランパネルの創製「2021年度 日本薬学会創薬科学賞」を受賞

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、当社が創製したAMPA型グルタミン酸受容体拮抗剤ペランパネル(製品名:「フィコンパ®」、以下 ペランパネル)の創薬研究が、日本薬学会より「2021年度 日本薬学会創薬科学賞」を受賞したことをお知らせします。

 

 日本薬学会創薬科学賞は、日本薬学会が定める賞の一つであり、医薬品の創薬およびそれに関連した薬学の応用技術の開発において、医療に貢献する優れた研究業績を残した研究者に対して授与される賞です。研究の独創性に加え、医薬品の有効性や安全性等、医療および技術における革新性が評価対象になります。同賞は1988年に創設され、当社は、1998年度にアルツハイマー型認知症治療剤ドネペジル塩酸塩の創製に対して、2013年度に抗がん剤エリブリンメシル酸塩の創製に対して、2020年度にマルチキナーゼ阻害剤レンバチニブの創製に対して、同賞をそれぞれ受賞しています。

 

 このたびの受賞理由として、「以前から、神経興奮を担うグルタミン酸受容体は重要な創薬標的として認識されてきたにもかかわらず医薬品の創製には至らなかったが、独自に構築したハイスループットスクリーニング(HTS)より得られたリード化合物の構造を最適化することにより、経口吸収性、脳移行性、薬物動態、サブタイプ選択性等を改善し、副作用との乖離が難しいとされるグルタミン酸受容体を直接ターゲットとする世界初の薬剤の創製・開発に成功したこと、さらに本薬剤は世界60カ国以上(現在70カ国以上)で使われていること」などが挙げられました。

 

 現在、ペランパネルは、世界各国において、12歳以上のてんかん患者様の部分発作(二次性全般化発作を含む)ならびに強直間代発作に対する併用療法として承認を取得しています。日本と米国においては4歳以上のてんかん患者様の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する単剤および併用療法の承認も取得しています。欧州においては、4歳以上のてんかん患者様の部分発作(二次性全般化発作を含む)および7歳以上のてんかん患者様の強直間代発作に対する併用療法についても承認を取得しています。現在までに、世界で30万人を超える患者様にペランパネルが処方されました。

 

 当社は、てんかんを含む神経領域を重点疾患領域と位置づけており、ペランパネルをグローバルに提供するとともに、より多くの患者様に発作フリー(seizure freedom:無発作状態)をお届けする使命を追求し、てんかんの患者様とそのご家族の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

 

 

【受賞テーマ】

 AMPA型グルタミン酸受容体拮抗剤ペランパネルの創薬研究

 

【受賞者】

 長戸 哲 (エーザイ株式会社 知的財産部 ディレクター)
 花田 敬久 (エーザイ株式会社 メディスン開発センター戦略企画推進部 シニアディレクター)
 上野 貢嗣 (エーザイ株式会社 知的財産部 特許第一グループ ディレクター)
 上野 正孝 (元エーザイ株式会社社員)
 竹中 理 (エーザイ株式会社 メディスン開発センター クリニカルファーマコロジーサイエンス部 クリニカルM&Sグループ グループ長)

以上

 

<参考資料> 

1. ペランパネル(日本製品名:「フィコンパ®」、英語製品名:「Fycompa®」)について

 ペランパネルは、当社が創製したファースト・イン・クラスの抗てんかん剤です。てんかん発作は、神経伝達物質であるグルタミン酸により誘発されることが報告されており、本剤は、グルタミン酸によるシナプス後膜のAMPA受容体の活性化を阻害し、神経の過興奮を抑制する高選択、非競合AMPA受容体拮抗剤です。現在、ペランパネルは、12歳以上のてんかん患者様の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する併用療法について、日本、米国、欧州、中国、アジアなど70カ国以上で承認を取得しています。さらに本剤は12歳以上のてんかん患者様の強直間代発作に対する併用療法について、米国、日本、欧州、アジアなど70カ国以上で承認を取得しています。日本と米国においては4歳以上のてんかん患者様の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する単剤および併用療法の承認も取得しています。欧州においては、4歳以上のてんかん患者様の部分発作(二次性全般化発作を含む)および7歳以上のてんかん患者様の強直間代発作に対する併用療法についても承認を取得しています。ペランパネルは1日1回就寝前に経口投与するタイプの製剤です。日本では、錠剤と細粒剤の承認を取得しています。米国および欧州では、錠剤と経口懸濁液の承認を取得しています。注射剤の開発も行っています。

 

  1. 2. AMPA型グルタミン酸受容体について

 脳内の主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸は、てんかんの病態生理に深くかかわっていると考えられています。シナプスにおけるグルタミン酸受容体は、グルタミン酸が結合することで活性化し、細胞内への陽イオン流入を起こす「イオンチャネル型グルタミン酸受容体」と、細胞内の代謝調整に関与する「代謝型グルタミン酸受容体」に分けられます。さらに、「イオンチャネル型グルタミン酸受容体」は、対応する受容体別に3つのサブタイプがあり、「NMDA型」、「AMPA型」、「カイニン酸」に分類されています。ペランパネルは、このうちの「AMPA型グルタミン酸受容体」に選択的、非競合的に働くアンタゴニストであることが示されています。

 「AMPA型グルタミン酸受容体」は、脳内の中枢神経全体に脊髄も含めて広く分布し、神経細胞が集まる脳の表層の灰白質に多く、白質に少ないことが知られています。「AMPA型グルタミン酸受容体」は、早い興奮性神経伝達を主に担っており、てんかん脳焦点切除標本において発現量が増加することが報告されています。