自社創製の新規不眠症治療薬「デエビゴ®」(一般名:レンボレキサント)日本において、不眠症に対する適応で新発売

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、本日、不眠症を効能・効果とする、自社創製のオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg、同錠5mgおよび同錠10mg」(一般名:レンボレキサント)を、日本において、新発売したことをお知らせいたします。本製品は、2020年1月23日に製造販売承認を取得し、4月22日に薬価収載されました。

 

 

 「デエビゴ」は、脳内で覚醒に関与するオレキシン受容体の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗剤です。本剤は、覚醒を制御しているオレキシン神経伝達に作用し、睡眠覚醒リズムを整えることで、入眠と睡眠維持および覚醒を調整すると考えられています。

 

 日本における「デエビゴ」の承認は、不眠症の成人患者様を対象に実施した2つのピボタル臨床第Ⅲ相試験1,2(SUNRISE1試験およびSUNRISE2試験)、および夜間覚醒時および翌日の姿勢安定性(ふらつき、転倒リスクの予測因子)や記憶力などの持ち越し効果について評価した安全性試験(106試験3、108試験4)の結果に基づくものです。

 北米と欧州において実施したSUNRISE1試験において、主要評価項目である睡眠潜時、副次評価項目である睡眠効率、中途覚醒時間について、睡眠ポリグラフによる終夜測定を用いて客観的に評価した結果、「デエビゴ」投与群は、ゾルピデム酒石酸塩徐放性製剤(6.25mg、国内未承認)投与群およびプラセボ投与群に対して、統計学的に有意な短縮および改善が確認されました。日本を含むグローバルに実施したSUNRISE2試験において、主要評価項目である睡眠潜時、ならびに副次評価項目である睡眠効率および中途覚醒時間について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価を行った結果、「デエビゴ」投与群は、プラセボ投与群に対して、統計学的に有意な改善が確認されました。両試験で本剤について観察された主な副作用は、傾眠、頭痛、浮動性めまい、疲労でした。両試験において、本剤の投与中止により投与前よりも強い不眠症状が現れる反跳性不眠、および投与中止後の離脱症状は観察されず、最長1年間投与している患者様においても、身体的依存を引き起こさないことが示唆されました。

 安全性として、「デエビゴ」(5mg、10mg)投与による健康成人または高齢者の翌朝の自動車運転能力への影響が評価され(106試験3)、いずれの用量においても「デエビゴ」投与群はプラセボ投与群と比較して統計学的に有意な低下は確認されませんでした。さらに夜間覚醒時および翌日の姿勢安定性(ふらつき、転倒リスクの予測因子)や記憶力などの持ち越し効果についても評価され(108試験4)、「デエビゴ」投与群は、夜間覚醒時に姿勢が不安定になる可能性や、注意力低下および記憶障害に注意する必要がある一方、翌日のふらつきおよび記憶力についてプラセボ投与群と比較して問題となるような悪化は見られませんでした。

 

 本剤は、入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方を伴う成人の不眠症の適応で、2020年6月に米国において新発売しました。また、カナダ、オーストラリアにおいては新薬承認申請中です。

 

 不眠症は、睡眠をとる十分な機会があるにもかかわらず、入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方の症状を持つことが特徴です。全世界で成人の約30%の方が不眠症の症状を有する7、8、罹患頻度の高い睡眠障害のひとつです。特に高齢者の有病率は高い傾向にあり、多くの場合、その症状は長期にわたります。不眠症は、疲労、集中困難、易刺激性により5、6、長期欠勤や生産性の低下などの社会的損失を引き起こし、高齢者においてはふらつきの原因となり転倒のリスクとなっています9

 

 当社は、「デエビゴ」の販売を通じ、不眠症治療薬の適正使用、安全性情報提供を最優先とした活動を行ってまいります。また、不眠症の患者様に新たな治療選択肢「デエビゴ」をお届けすることにより、速やかな入眠と良質な睡眠維持によってもたらされる日中の活力ある生活の実現と、患者様のリワーク/リカバリーに貢献してまいります。

  

以上

  

  • <参考資料>
    1. 1. 製品概要
1)製品名 デエビゴ錠2.5mg、デエビゴ錠5mg、デエビゴ錠10mg
2)一般名

レンボレキサント

3)効能・効果 不眠症
4) 用法・用量 通常、成人にはレンボレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日1回10mgを超えないこととする。
5)薬価 デエビゴ錠2.5mg  57.30円/錠
デエビゴ錠5mg  90.80円/錠
デエビゴ錠10mg 136.20円/錠
6)包装 デエビゴ錠2.5㎎ 100錠(PTP10T×10)
デエビゴ錠5㎎ 100錠(PTP10T×10)
デエビゴ錠10㎎ 100錠(PTP10T×10)
  1.   
  2. 2. 「デエビゴ」(一般名:レンボレキサント、海外製品名「Dayvigo」)について
  3.  「デエビゴ」は、自社創製の新規低分子化合物で、脳内で覚醒に関与するオレキシン受容体の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗剤です(IC50値はオレキシン1受容体:6.1nM、オレキシン2受容体:2.6nM)。本剤は、オレキシン1および2受容体双方を阻害しますが、オレキシン2受容体への阻害活性がより強く、速やかな入眠および十分な睡眠維持効果が期待されます(Ki値はオレキシン1受容体:8.1nM、オレキシン2受容体:0.48nM)。

     本剤は、臨床試験の結果から、原発性のみならず、うつ病などに併発する不眠症への有効性が示唆されています(SUNRISE2試験)。

     不眠症の適応のほか、軽度、中等度アルツハイマー型認知症に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害(ISWRD)を対象とした臨床第Ⅱ相試験が進行中です。

     

    1. 3. 睡眠障害と不眠症について

     睡眠障害は、不眠症(不眠障害)、ISWRDのほか、過眠障害、呼吸関連睡眠障害などの疾患分類からなります。不眠症は、その中でもっとも一般的な疾患であり、全世界で成人の約30%の方が不眠症の症状を有しているとされています5、6。不眠症は、睡眠をとる十分な機会があるにもかかわらず、入眠困難、睡眠維持困難のいずれか、またはその両方に苦しむことが特徴であり、疲労、集中困難、易刺激性を引き起こす可能性があります7、8。良質な睡眠は、脳を含めた健康にとても重要であり10、最適な睡眠時間は7-8時間と言われています11。睡眠不足は、高血圧、事故によるけが、糖尿病、肥満、うつ病、心臓発作、脳卒中、認知症のリスクを増やすことに加え、気分や行動に対する悪影響など、幅広い健康への影響との関連性が示唆されています5、12

     不眠症について、女性は男性に比べて約1.4倍罹患率が高いとの報告もあります13。高齢者も、不眠症の罹患率が高いことが知られています。老化による、睡眠の乱れ、頻繁な起床、早朝の起床などによる睡眠パターンの変化により、不眠症に至ることがあります14

     

    1. 4. SUNRISE 1試験(304試験)について

     SUNRISE 1試験は、北米と欧州において、55歳以上の不眠障害患者様1,006人(全症例の約45%は65歳以上)を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボおよび実薬対照、並行群間比較臨床第Ⅲ相試験です。2週間のプラセボ投与期間を含む最長35日間の観察期および30日間の投与期間と最低2週間のフォローアップ期からなる治療期から構成されます。本試験では、レンボレキサント5mg、10mg、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg、またはプラセボが投与されました。

     主要評価項目として、1カ月投与の最後の2日間における睡眠潜時のベースラインからの変化量について、睡眠ポリグラフ検査を用いてプラセボ群との比較により客観的に評価しました。主な副次評価項目として、1カ月投与の最後の2日間におけるプラセボ群との比較による睡眠効率と中途覚醒時間およびゾルピデム徐放性製剤群との比較による睡眠時間後半部分の中途覚醒時間について、睡眠ポリグラフ検査法を用いて客観的に評価しました。

     本試験の結果、レンボレキサント投与群は、主要評価項目ならびに主な副次評価項目を達成し、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg投与群およびプラセボ投与群に対して統計学的に有意に優れていることが確認されました。レンボレキサント投与群で観察された主な有害事象は、頭痛と傾眠でした。

     

    1. 5. SUNRISE 2試験(303試験)について2

     SUNRISE 2試験は、グローバル(日本、北米、南米、欧州、アジアおよびオセアニア)で実施された、18歳から88歳の不眠障害患者様949人を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、12カ月間の臨床第Ⅲ相試験です。2週間のプラセボ投与期間を含む最長35日間の観察期、および6カ月のプラセボ対照投与期間と6カ月の実薬のみの投与期間と2週間のフォローアップ期間からなる治療期から構成されます。本試験では、患者様の自宅において、毎晩の就寝直前にレンボレキサント5mg、10mgまたはプラセボの錠剤が投与されました。最初の6カ月間にプラセボが投与された患者様は、後半6カ月はレンボレキサント5mgまたは10mgが投与されました。最初に実薬を投与された患者様は、後半6カ月においても継続して実薬が投与されました。

     主要評価項目として、プラセボ対照の6カ月投与後における睡眠潜時のベースラインからの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価により評価しました。主な副次評価項目として、プラセボ対照の6カ月投与後における睡眠効率および中途覚醒時間のベースラインからの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価により評価しました。

     本試験の結果、レンボレキサント投与群は、有効性に関する主要評価項目およびすべての副次評価項目を達成し、入眠および睡眠の維持について、プラセボ投与群と比較して統計学的に有意な改善が確認されました。レンボレキサント投与群で観察された主な有害事象は、傾眠、上咽頭炎、頭痛、インフルエンザでした。

     

    1. 6. 106 試験について

     106 試験は、健康な成人および高齢者48人(23歳から78歳、平均58.5歳)を対象に、公道での自動車運転能力によりレンボレキサントの翌朝への持ち越し効果を評価する、無作為化、二重盲検、プラセボおよび実薬対照、4 期クロスオーバー、臨床第Ⅰ相試験です。本試験では、レンボレキサント(2.5mg、5mg、10mgのうちの2用量)またはプラセボについて、8夜連続で就寝直前に被験者(65歳以上:24人、23歳から64歳:24人)に投与されました。陽性対照薬としてのゾピクロン7.5mgは1日目夜および8日目夜に投与され、残りの6夜はプラセボが投与されました。主要評価項目として、2日目朝および9日目朝の自動車運転能力について、側線に沿って運転したときの車体の側線からのずれの標準偏差(Standard Deviation of Lateral Position: SDLP)を指標として評価し、投与から約9時間後に評価しました。

     公道でのテストでは、被験者はドライビングインストラクター資格者の同乗のもと、専用の機器を搭載した自動車を、約1時間かけて約100km(約60マイル)の幹線道路を走行しました。時速95kmの一定速度を維持し、低速走行車線の車道外側線に沿って安定して走行することが求められました。

     本試験の結果、レンボレキサント10mg投与群の数名の被験者で自動車運転能力の低下が確認されましたが、成人および高齢者の自動車運転能力について、いずれのレンボレキサント投与群においても、プラセボ投与群と比較して統計学的に有意な自動車運転能力の低下は確認されませんでした。10mgを服用している一部の被験者に自動車運転能力の低下が確認され、本剤の影響が服用の翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意することが必要です。

     

    1. 7. 108試験について4

     108試験は、米国において、55歳以上の健康な成人56人を対象に、レンボレキサントの平衡機能、聴覚覚醒閾値、認知機能への影響を評価する、無作為化、二重盲検、臨床第Ⅰ相試験です。本試験ではレンボレキサント5mg、10mg、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg、またはプラセボが就床直前に単回投与されました。主要評価項目として、投与約4時間後のアラームによる夜間中途覚醒時における平衡機能(ふらつき)について、重心動揺計を用い、ゾルピデム徐放性製剤群との比較によって評価しました。

     本試験の結果、ゾルピデム徐放性製剤群では、夜間覚醒時の身体のふらつきに関する数値が臨床上問題となる指標(血中アルコール濃度0.05%時)となる7単位の3倍弱増加しましたが、レンボレキサント5mg群においては、臨床的に問題になるほどの変化は見られず、レンボレキサント10mg群では臨床的に問題となる閾値をわずかに上回る程度でした。

     就床から8時間後の翌朝起床直後において、ゾルピデム徐放性製剤群は、プラセボ群と比較して統計学的に有意なふらつきの悪化が確認されましたが、いずれのレンボレキサント投与群においてもプラセボ投与群と比較して問題となるような悪化が見られませんでした。 

     

     

    • 1

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