自社創製の「DAYVIGO™」(一般名:レンボレキサント)成人患者様に対する不眠症治療薬として、米国において新発売

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、米国子会社エーザイ・インクが自社創製のオレキシン受容体拮抗薬「DAYVIGOTM」(一般名:レンボレキサント)について、入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方を伴う成人の不眠症の適応で、6月1日に米国において、新発売したことをお知らせします。

 

 「DAYVIGO」は、当社筑波研究所にて創製された低分子化合物で、脳内で覚醒に関与するオレキシン受容体1の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗剤です。オレキシン1および2受容体双方の阻害作用によって、過度な覚醒状態を緩和します。本剤は、ノンレム睡眠の抑制に関与するオレキシン2受容体への阻害活性がより強く、速やかな入眠および十分な睡眠維持をもたらすと考えられています。

 米国食品医薬品局(FDA)による「DAYVIGO」の承認は、合計約2,000人の不眠症の成人患者様を対象に実施した2つのピボタル臨床第Ⅲ相試験2(SUNRISE1試験およびSUNRISE2試験)の結果に基づくものです。

 SUNRISE1試験は、DSM-5*基準により不眠症と診断された55歳以上の不眠症患者様1,006人を対象に、「DAYVIGO」の有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、二重盲検、実薬(ゾルピデム徐放製剤6.25mg)およびプラセボ対照、並行群間比較臨床第Ⅲ相試験です。主要評価項目として、1カ月投与の最後の2日間における睡眠潜時(就床から入眠までの時間)の投与前からの変化量について、睡眠ポリグラフによる終夜測定を用いて客観的に評価しました。副次評価項目として、1カ月投与の最後の2日間における平均睡眠効率(就床時間に対する全睡眠時間)と中途覚醒時間について、睡眠ポリグラフを用いて客観的に評価しました。本試験の結果、「DAYVIGO」(5mg、10mg)投与群は、主要評価項目ならびに副次評価項目を達成し、睡眠潜時、睡眠効率および中途覚醒時間について、実薬投与群およびプラセボ投与群に対して有意に優れていることが確認されました。

 SUNRISE2試験は、DSM-5基準により不眠症と診断された18歳以上の不眠症患者様949人を対象に「DAYVIGO」の有効性および安全性を評価する、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、多施設共同、並行群間比較、6カ月間の臨床第Ⅲ相試験です。主要評価項目として、睡眠潜時の投与前からの平均変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観的に評価しました。副次評価項目として、睡眠効率および中途覚醒時間の投与前からの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観的に評価しました。本試験の結果、「DAYVIGO」(5mg、10mg)投与群は、主要評価項目ならびに副次評価項目を達成し、睡眠潜時、睡眠効率および中途覚醒時間について、プラセボ投与群に対して統計学的に有意に優れていることが確認されました。また、長期投与時における「DAYVIGO」の効果は投与初期と同様でした。

 両試験において、薬剤の投与中止により投与前よりも強い不眠症状が現れる反跳性不眠は確認されず、またいずれの「DAYVIGO」投与群においても投与中止後の離脱症状は見られず、最長1年間投与している患者様においても、身体的依存を引き起こさないことが示唆されました。「DAYVIGO」は、ピボタル臨床試験で12カ月の安全性データおよび6カ月の入眠および睡眠維持の有効性データをもってFDAに承認された最初の不眠症治療薬です。

 

 SUNRISE1試験およびSUNRISE2試験(SUNRISE2試験は投与開始から30日)での「DAYVIGO」投与群において5%以上の発現率で、かつプラセボ投与群と比べて少なくとも2倍の頻度で報告された有害事象は傾眠でした(「DAYVIGO」10mg投与群:10%、「DAYVIGO」5mg投与群:7%、プラセボ投与群:1%)。

 安全性として、「DAYVIGO」(5mg、10mg)投与による健康成人または高齢者の翌朝の自動車運転能力への影響が評価され(106試験3)、10mgを服用している一部の被験者に自動車運転能力の低下が確認されましたが、いずれの「DAYVIGO」投与群においてもプラセボ投与群と比較して統計学的に有意な低下は確認されませんでした。さらに夜間覚醒時および翌日の姿勢安定性(ふらつき、転倒リスクの予測因子)や記憶力などの持ち越し効果についても評価され(108試験4)、「DAYVIGO」投与群は、夜間覚醒時には、患者様は姿勢が不安定になる可能性、注意力および記憶障害について注意する必要がある一方、翌日のふらつきおよび記憶力についてプラセボ投与群と比較して問題となるような悪化は見られませんでした。

 

 「DAYVIGO」(5mg錠および10mg錠剤)は、2019年12月にFDAより新薬承認を取得し、米国麻薬取締局(the U.S. Drug Enforcement Administration:DEA)による規制物質法に基づくスケジュール審査により、2020年4月にスケジュールIV医薬品に分類されました。この分類では、アルコールや他の薬物の乱用もしくは依存症の既往歴がある方は、乱用および依存症が生じるリスクがあり、そのような患者様への「DAYVIGO」の投与においては、注意深い経過観察が必要です。日本においては、2020年1月に不眠症治療薬として製造販売承認を取得し、4月に薬価収載され、現在発売準備中です。また、カナダにおいては2019年8月に新薬承認申請を行っています。

 

 不眠症は、睡眠をとる十分な機会があるにもかかわらず、入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方に苦しむことが特徴です5、6。罹患頻度の高い代表的な睡眠障害のひとつで、全世界で成人の約30%の方が不眠症の症状を有し7、8、特に高齢者の有病率は高い傾向にあり、多くの場合、その症状は数カ月から数年にわたります。その結果、不眠症は、長期欠勤や生産性の低下などのさまざまな社会的損失をもたらすことが明らかとなっています。

 

 当社は、「DAYVIGO」の新発売を機に、不眠症の患者様に、速やかな入眠と良質な睡眠維持によってもたらされる日中の活力ある生活をお届けし、患者様のリワーク/リカバリーに貢献してまいります。

 

 *DSM-5: 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(アメリカ精神医学会)

    

以上

  

<参考資料>

  1. 1. レンボレキサントについて

 レンボレキサントは、自社創製の新規低分子化合物で、脳内で覚醒に関与するオレキシン受容体の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗剤です(IC50値はオレキシン1受容体:6.1nM、オレキシン2受容体:2.6nM)。レンボレキサントは、オレキシン1および2受容体双方を阻害しますが、オレキシン2受容体への阻害活性がより強く、速やかな入眠および十分な睡眠維持効果が期待されます。不眠症の患者様では、覚醒を制御するオレキシンシグナルが正常に機能していない可能性があります。

 

 米国での重要な安全性情報を含む本剤に関する詳細はDAYVIGO.COMをご参照ください。

  1.   
  2. 2. 睡眠障害と不眠症について

 睡眠障害は、不眠症、不規則睡眠覚醒リズム障害(ISWRD)のほか、過眠障害、呼吸関連睡眠障害などの疾患分類からなります。不眠症は、その中でもっとも一般的な疾患であり、全世界で成人の約30%の方が不眠症の症状を有しているとされています7、8。不眠症は、睡眠をとる十分な機会があるにもかかわらず、入眠困難、睡眠維持困難のいずれか、またはその両方に苦しむことが特徴です5、6

 不眠症は、睡眠障害が週に少なくとも3夜発生し、少なくとも3カ月間持続する、社会的、職業的、教育的、学問的、行動的またはその他の重要な機能領域で臨床的に重大な苦痛または障害を引き起こすことが米国における診断基準です。良質な睡眠は、心身の健康にとても重要であり9、最適な睡眠時間は7-8時間と言われています10。睡眠不足は、高血圧、事故によるけが、糖尿病、肥満、うつ病、心臓発作、脳卒中、認知症のリスクを増やすことに加え、気分や行動に対する悪影響など、幅広い健康への影響との関連性が示唆されています5、12。不眠症について、女性は男性に比べて約1.4倍罹患率が高いとの報告もあり11、高齢者も、不眠症の罹患率が高いことが知られています。老化による、睡眠の乱れ、頻繁な起床、早朝の起床などによる睡眠パターンの変化により、不眠症に至ることがあります12

 

  1. 3. SUNRISE 1試験(304試験)について2

 SUNRISE 1試験は、北米と欧州において、55歳以上の不眠障患者様1,006人(全症例の約45%は65歳以上)を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボおよび実薬対照、並行群間比較臨床第Ⅲ相試験です。2週間のプラセボ投与期間を含む最長35日間の観察期および30日間の投与期間と最低2週間のフォローアップ期からなる治療期から構成されます。本試験では、レンボレキサント5mg、10mg、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg、またはプラセボが投与されました。

 主要評価項目として、1カ月投与の最後の2日間における睡眠潜時のベースラインからの変化量について、睡眠ポリグラフ検査を用いてプラセボ群との比較により客観的に評価しました。主な副次評価項目として、1カ月投与の最後の2日間におけるプラセボ群との比較による睡眠効率と中途覚醒時間およびゾルピデム徐放製剤群との比較による睡眠時間後半部分の中途覚醒時間について、睡眠ポリグラフ検査法を用いて客観的に評価しました。

 

  1. 4. SUNRISE 2試験(303試験)について2

 SUNRISE 2試験は、グローバル(日本、北米、南米、欧州、アジアおよびオセアニア)で実施された、18歳から88歳の不眠症患者様949人を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、12カ月間の臨床第Ⅲ相試験です。2週間のプラセボ投与期間を含む最長35日間の観察期、および6カ月のプラセボ対照投与期間と6カ月の実薬のみの投与期間と2週間のフォローアップ期間からなる治療期から構成されます。本試験では、患者様の自宅において、毎晩の就寝直前にレンボレキサント5mg、10mgまたはプラセボの錠剤が投与されました。最初の6カ月間にプラセボが投与された患者様は、後半6カ月はレンボレキサント5mgまたは10mgが投与されました。最初に実薬を投与された患者様は、後半6カ月においても継続して実薬が投与されました。

 主要評価項目として、プラセボ対照の6カ月投与後における睡眠潜時のベースラインからの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価により評価しました。主な副次評価項目として、プラセボ対照の6カ月投与後における睡眠効率および中途覚醒時間のベースラインからの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価により評価しました。

 

  1. 5. 106 試験について3

 106 試験は、健康な成人および高齢者48人(23歳から78歳、平均58.5歳)を対象に、公道での自動車運転能力によりレンボレキサントの翌朝への持ち越し効果を評価する、無作為化、二重盲検、プラセボおよび実薬対照、4 期クロスオーバー、臨床第Ⅰ相試験です。本試験では、レンボレキサント(2.5mg、5mg、10mgのうちの2用量)またはプラセボについて、8夜連続で就寝直前に被験者(65歳以上:24人、23歳から64歳:24人)に投与されました。陽性対照薬としてのゾピクロン7.5mgは1日目夜および8日目夜に投与され、残りの6夜はプラセボが投与されました。主要評価項目として、2日目朝および9日目朝の自動車運転能力について、側線に沿って運転したときの車体の側線からのずれの標準偏差(Standard Deviation of Lateral Position: SDLP)を指標として評価し、投与から約9時間後に評価しました。

 公道でのテストでは、被験者はドライビングインストラクター資格者の同乗のもと、専用の機器を搭載した自動車を、約1時間かけて約100km(約60マイル)の幹線道路を走行しました。時速95kmの一定速度を維持し、低速走行車線の車道外側線に沿って安定して走行することが求められました。

 本試験の結果、レンボレキサント10mg投与群の数名の被験者で自動車運転能力の低下が確認されましたが、成人および高齢者の自動車運転能力について、いずれのレンボレキサント投与群においても、プラセボ投与群と比較して統計学的に有意な自動車運転能力の低下は確認されませんでした。

 

  1. 6. 108試験について4

 108試験は、米国において、55歳以上の健康な成人56人を対象に、レンボレキサントの平衡機能、聴覚覚醒閾値、認知機能への影響を評価する、無作為化、二重盲検、臨床第Ⅰ相試験です。本試験ではレンボレキサント5mg、10mg、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg、またはプラセボが就床直前に単回投与されました。主要評価項目として、投与約4時間後のアラームによる夜間中途覚醒時における平衡機能(ふらつき)について、重心動揺計を用い、ゾルピデム徐放製剤群との比較によって評価しました。

 本試験の結果、ゾルピデム徐放性製剤群では、夜間覚醒時の身体のふらつきに関する数値が臨床上問題となる指標(血中アルコール濃度0.05%時)となる7単位の3倍弱増加しましたが、レンボレキサント5mg群においては、臨床的に問題になるほどの変化は見られず、レンボレキサント10mg群では臨床的に問題となる閾値をわずかに上回る程度でした。

 就床から8時間後の翌朝起床直後において、ゾルピデム徐放性製剤群は、プラセボ群と比較して有意なふらつきの悪化が確認されましたが、いずれのレンボレキサント投与群においてもプラセボ投与群と比較して問題となるような悪化が見られませんでした。

     

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