不眠症治療薬「デエビゴ™」(一般名:レンボレキサント)、日本において製造販売承認を取得入眠と睡眠維持の両方の改善を示し、プラセボと比較して翌日のふらつきや記憶力において問題となるような悪化が見られず、日中機能の改善が確認された非鎮静作用のオレキシン受容体拮抗薬

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、本日、自社創製のオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴTM錠2.5mg、同錠5mgおよび同錠10mg」(一般名:レンボレキサント)について、日本において不眠症の適応で製造販売承認を取得したことをお知らせします。

 

 「デエビゴ」は、脳内で覚醒に関与するオレキシン受容体の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗剤です。覚醒と睡眠リズムの調整を担うオレキシン神経伝達に作用し過度な覚醒状態を緩和することによって、覚醒中枢と睡眠中枢のバランスを整える非鎮静作用の治療薬です。本剤は、オレキシン1および2受容体双方を阻害しますが、ノンレム睡眠の抑制にも関与するオレキシン2受容体への親和性がより強く、結合・解離が速いことから、患者様に速やかな入眠と睡眠維持をもたらすことが期待されます。

 

 今回の承認は、主に、合計約2,000人の不眠症の成人患者様を対象に実施した2つのピボタル臨床第Ⅲ相試験(SUNRISE 2試験1およびSUNRISE 1試験2)、さらに夜間覚醒時および翌日の姿勢安定性(ふらつき、転倒リスクの予測因子)や記憶力などの持ち越し効果について検討した主要な安全性試験(108試験3、106試験4)の結果に基づくものです。

 

 SUNRISE 2試験は、日本を含むグローバルにおいて、18歳から88歳の不眠症患者様949人を対象に、「デエビゴ」(5mg、10mg)の長期の有効性および安全性を評価した6カ月のプラセボ対照臨床第Ⅲ相試験です。主要評価項目である睡眠潜時(就床から入眠までの時間)、ならびに副次評価項目である睡眠効率(就床時間に対する全睡眠時間)および中途覚醒時間について、電子睡眠日誌を用いて患者様の主観評価により評価しました。

 本試験の結果、「デエビゴ」(5mg、10mg)投与群は、有効性に関する主要評価項目およびすべての副次評価項目を達成し、睡眠潜時、睡眠効率および中途覚醒時間について、プラセボ群と比較して統計学的に有意な改善が確認されました。さらに、日中の機能について、不眠重症度質問票における日中機能に関する評価項目および疲労重症度スケールによる評価の双方において、「デエビゴ」(5mg、10mg)投与群はプラセボ投与群と比較して統計学的に有意な改善が確認されました。「デエビゴ」(5mg、10mg)投与群で観察された主な有害事象は、傾眠、上咽頭炎、頭痛、インフルエンザでした。

 

 SUNRISE 1試験は、55歳以上の不眠症患者様1,006人(65歳以上が約45%)を対象に、ゾルピデム酒石酸塩徐放性製剤(6.25mg、国内未承認、以下 ゾルピデムER)との比較により、「デエビゴ」(5mg、10mg)の有効性および安全性を評価した1カ月間のプラセボ対照臨床第Ⅲ相試験です。主要評価項目である睡眠潜時、ならびに副次評価項目である睡眠効率および中途覚醒時間について、睡眠ポリグラフ検査法により客観評価しました。

 本試験の結果、「デエビゴ」投与群は、主要評価項目ならびに副次評価項目を達成し、ゾルピデムER投与群およびプラセボ投与群に対して有意に優れていることが確認されました。さらに、日中の機能について、不眠重症度質問票を用いて評価した結果、「デエビゴ」(5mg、10mg)投与群はプラセボ投与群との比較において統計学的に有意な日中の機能の改善が確認されました。「デエビゴ」(5mg、10mg)投与群で観察された主な有害事象は、頭痛と傾眠でした。

 

 両試験において、薬剤の投与を中止することにより投与前よりも強い不眠症状が現れる反跳性不眠は確認されず、いずれの「デエビゴ」投与群においても投与中止後の離脱症状は見られませんでした。 

 また、SUNRISE2試験において、不眠症に併存する疾患の有無による部分集団解析を行った結果、両部分集団において本剤の有効性に大きな違いは見られなかったことから、原発性のみならず、うつ病などに併発する不眠症への有効性が示唆されました。

 

 さらに、「デエビゴ」の安全性について、55歳以上の健康成人および不眠症患者様を対象とする無作為化、プラセボおよびゾルピデムER対照試験(108試験、SUNRISE1試験)において、「デエビゴ」(5mg、10mg)の投与翌日のふらつき、記憶力への影響について評価しました。両試験の結果から、いずれの「デエビゴ」投与群においても、翌日のふらつきおよび記憶力についてプラセボ投与群と比較して問題となるような悪化は見られず、臨床上問題となる持ち越し効果は確認されませんでした。

 

 本剤は、入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方を伴う成人の不眠症の適応で、2019年12月に米国食品医薬品局(FDA)より新薬承認を取得しています。米国においては承認後90日以内に予定されている米国麻薬取締局(the U.S. Drug Enforcement Administration:DEA)によるスケジュール審査の完了後に発売します。また、カナダにおいて2019年8月に新薬承認申請を行っています。

 

 不眠症は、睡眠をとる十分な機会があるにもかかわらず、入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方に苦しむことが特徴であり、疲労、集中困難、易刺激性を引き起こす可能性があります5、6。罹患頻度の高い代表的な睡眠障害のひとつで、全世界で成人の約30%の方が不眠症の症状を有し7、8、特に高齢者の有病率は高い傾向にあり、多くの場合、その症状は数カ月から数年にわたります。その結果、不眠症は、長期欠勤や生産性の低下などのさまざまな社会的損失をもたらすことが明らかとなっており、高齢者においてはふらつきの原因となり転倒のリスクとなっています9

 

 当社は、「デエビゴ」を通じて、不眠症の患者様に、速やかな入眠と良質な睡眠維持によってもたらされる日中の活力ある生活をお届けし、患者様のリワーク/リカバリーに貢献してまいります。

 

以上

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  • <参考資料>
  • 1. 「デエビゴTM」(一般名:レンボレキサント)について

 レンボレキサントは、自社創製の新規低分子化合物で、脳内で覚醒に関与するオレキシン受容体の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗剤です(IC50値はオレキシン1受容体:6.1nM、オレキシン2受容体:2.6nM)。レンボレキサントは、オレキシン1および2受容体双方を阻害しますが、オレキシン2受容体への阻害活性がより強く、速やかな入眠および十分な睡眠維持効果が期待されます(Ki値はオレキシン1受容体:8.1nM、オレキシン2受容体:0.48nM)。

 レンボレキサントは、臨床試験の結果から、原発性のみならず、うつ病などに併発する不眠症への有効性が示唆されています(SUNRISE2試験)。

 不眠症の適応のほか、軽度、中等度アルツハイマー型認知症に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害(ISWRD)を対象とした臨床第Ⅱ相試験が進行中です。

 

  1. 2. 睡眠障害と不眠症について

 睡眠障害は、不眠症(不眠障害)、ISWRDのほか、過眠障害、呼吸関連睡眠障害などの疾患分類からなります。不眠症は、その中でもっとも一般的な疾患であり、全世界で成人の約30%の方が不眠症の症状を有しているとされています7、8。不眠症は、睡眠をとる十分な機会があるにもかかわらず、入眠困難、睡眠維持困難のいずれか、またはその両方に苦しむことが特徴であり、疲労、集中困難、易刺激性を引き起こす可能性があります5、6

 良質な睡眠は、脳を含めた健康にとても重要であり10、最適な睡眠時間は7-8時間と言われています12。睡眠不足は、高血圧、事故によるけが、糖尿病、肥満、うつ病、心臓発作、脳卒中、認知症のリスクを増やすことに加え、気分や行動に対する悪影響など、幅広い健康への影響との関連性が示唆されています5、12

 不眠症について、女性は男性に比べて約1.4倍罹患率が高いとの報告もあります13。高齢者も、不眠症の罹患率が高いことが知られています。老化による、睡眠の乱れ、頻繁な起床、早朝の起床などによる睡眠パターンの変化により、不眠症に至ることがあります14

 

  1. 3. SUNRISE 2試験(303試験)について1

 SUNRISE 2試験は、グローバル(日本、北米、南米、欧州、アジアおよびオセアニア)で実施された、18歳から88歳の不眠障害患者様949人を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、12カ月間の臨床第Ⅲ相試験です。2週間のプラセボ投与期間を含む最長35日間の観察期、および6カ月のプラセボ対照投与期間と6カ月の実薬のみの投与期間と2週間のフォローアップ期間からなる治療期から構成されます。本試験では、患者様の自宅において、毎晩の就寝直前にレンボレキサント5mg、10mgまたはプラセボの錠剤が投与されました。最初の6カ月間にプラセボが投与された患者様は、後半6カ月はレンボレキサント5mgまたは10mgが投与されました。最初に実薬を投与された患者様は、後半6カ月においても継続して実薬が投与されました。

 主要評価項目として、プラセボ対照の6カ月投与後における睡眠潜時のベースラインからの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価により評価しました。主な副次評価項目として、プラセボ対照の6カ月投与後における睡眠効率および中途覚醒時間のベースラインからの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価により評価しました。

 本試験の結果、レンボレキサント投与群は、有効性に関する主要評価項目およびすべての副次評価項目を達成し、入眠および睡眠の維持について、プラセボ投与群と比較して統計学的に有意な改善が確認されました。レンボレキサント投与群で観察された主な有害事象は、傾眠、上咽頭炎、頭痛、インフルエンザでした。

 

  1. 4. SUNRISE 1試験(304試験)について2

 SUNRISE 1試験は、北米と欧州において、55歳以上の不眠障害患者様1,006人(全症例の約45%は65歳以上)を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボおよび実薬対照、並行群間比較臨床第Ⅲ相試験です。2週間のプラセボ投与期間を含む最長35日間の観察期および30日間の投与期間と最低2週間のフォローアップ期からなる治療期から構成されます。本試験では、レンボレキサント5mg、10mg、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg、またはプラセボが投与されました。

 主要評価項目として、1カ月投与の最後の2日間における睡眠潜時のベースラインからの変化量について、睡眠ポリグラフ検査を用いてプラセボ群との比較により客観的に評価しました。主な副次評価項目として、1カ月投与の最後の2日間におけるプラセボ群との比較による睡眠効率と中途覚醒時間およびゾルピデム徐放製剤群との比較による睡眠時間後半部分の中途覚醒時間について、睡眠ポリグラフ検査法を用いて客観的に評価しました。

 本試験の結果、レンボレキサント投与群は、主要評価項目ならびに主な副次評価項目を達成し、ゾルピデム徐放製剤6.25mg投与群およびプラセボ投与群に対して有意に優れていることが確認されました。レンボレキサント投与群で観察された主な有害事象は、頭痛と傾眠でした。

 

  1. 5. 108試験について3

 108試験は、米国において、55歳以上の健康な成人56人を対象に、レンボレキサントの平衡機能、聴覚覚醒閾値、認知機能への影響を評価する、無作為化、二重盲検、臨床第Ⅰ相試験です。本試験ではレンボレキサント5mg、10mg、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg、またはプラセボが就床直前に単回投与されました。主要評価項目として、投与約4時間後のアラームによる夜間中途覚醒時における平衡機能(ふらつき)について、重心動揺計を用い、ゾルピデム徐放製剤群との比較によって評価しました。

 本試験の結果、ゾルピデム徐放性製剤群では、夜間覚醒時の身体のふらつきに関する数値が臨床上問題となる指標(血中アルコール濃度0.05%時)となる7単位の3倍弱増加しましたが、レンボレキサント5mg群においては、臨床的に問題になるほどの変化は見られず、レンボレキサント10mg群では臨床的に問題となる閾値をわずかに上回る程度でした。

 就床から8時間後の翌朝起床直後において、ゾルピデム徐放性製剤群は、プラセボ群と比較して有意なふらつきの悪化が確認されましたが、いずれのレンボレキサント投与群においてもプラセボ投与群と比較して問題となるような悪化が見られませんでした。

 

  1. 6. 106 試験について4

 106 試験は、健康な成人および高齢者48人(23歳から78歳、平均58.5歳)を対象に、公道での自動車運転能力によりレンボレキサントの翌朝への持ち越効果を評価する、無作為化、二重盲検、プラセボおよび実薬対照、4 期クロスオーバー、臨床第Ⅰ相試験です。本試験では、レンボレキサント(2.5mg、5mg、10mgのうちの2用量)またはプラセボについて、8夜連続で就寝直前に被験者(65歳以上:24人、23歳から64歳:24人)に投与されました。陽性対照薬としてのゾピクロン7.5mgは1日目夜および8日目夜に投与され、残りの6夜はプラセボが投与されました。主要評価項目として、2日目朝および9日目朝の自動車運転能力について、側線に沿って運転したときの車体の側線からのずれの標準偏差(Standard Deviation of Lateral Position: SDLP)を指標として評価し、投与から約9時間後に評価しました。

 公道でのテストでは、被験者はドライビングインストラクター資格者の同乗のもと、専用の機器を搭載した自動車を、約1時間かけて約100km(約60マイル)の幹線道路を走行しました。時速95kmの一定速度を維持し、低速走行車線の車道外側線に沿って安定して走行することが求められました。

 本試験の結果、レンボレキサント10mg投与群の数名の被験者で自動車運転能力の低下が確認されましたが、成人および高齢者の自動車運転能力について、いずれのレンボレキサント投与群においても、プラセボ投与群と比較して統計学的に有意な自動車運転能力の低下は確認されませんでした。

 

1 Eisai Inc. A long-term multicenter, randomized, double-blind, controlled, parallel-group study of the safety and efficacy of lemborexant in subjects with insomnia disorder (E2006-G000-303). (Clinicaltrials.gov Identifier NCT02952820). 2018. Unpublished data on file.

2 Russell R, et al. Comparison of Lemborexant With Placebo and Zolpidem Tartrate Extended Release for the Treatment of Older Adults With Insomnia Disorder, A Phase 3 Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open. 2019;2(12)

3 Eisai Inc. A randomized, double-blind, placebo-controlled and active-comparator, 4-period crossover study to evaluate the effect of DAYVIGO versus placebo and zolpidem on postural stability, auditory awakening. (E2006-A001-108). (Clinicaltrials.gov Identifier NCT03008447). 2017. Unpublished data on file.

4Eisai Inc. A randomized, double-blind, placebo- and active-controlled, 4-period crossover study to evaluate the effect of DAYVIGO versus placebo on driving performance in healthy adult and elderly subjects. (E2006-E044-106). (Clinicaltrials.gov Identifier NCT02583451). 2017. Unpublished data on file.

5 Institute of Medicine. Sleep disorders and sleep deprivation: An unmet public health problem. Washington, DC: National Academies Press. 2006.

6 Ohayon MM, et al. Epidemiology of insomnia: what we know and what we still need to learn. Sleep Med Rev. 2002;6(2):97-111.

7 Ferrie JE, et al. Sleep epidemiology – a rapidly growing field. Int J Epidemiol. 2011;40(6):1431–1437.

8 Roth T. Insomnia: definition, prevalence, etiology and consequences. J Clin Sleep Med. 2007;3(5 Suppl):S7–S10.

9 厚生労働科学研究班・睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン-出口を見据えた不眠医療マニュアル-

10Cappuccio FP, et al. Sleep and cardio-metabolic disease. Curr Cardiol Rep. 2017;19:110.

11 Cappuccio FP, et al. Sleep duration and all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of prospective studies. Sleep. 2010;33(5):585-592.

12 Pase MP, Himali JJ, Grima NA, et al. Sleep architecture and the risk of incident dementia in the community. Neurology. 2017;89(12):1244-1250

13 Roth T, et al. Prevalence and perceived health associated with insomnia based on DSM-IV-TR; International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, tenth revision; and Research Diagnostic Criteria/International Classification of Sleep Disorders, second edition criteria: results from the America Insomnia Survey. Biol Psychiatry. 2011;69:592– 600.

14 Crowley K. Sleep and sleep disorders in older adults. Neuropsychol Rev. 2011;21(1):41-53.