不眠障害治療薬「レンボレキサント」、日本において新薬承認申請書を提出

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)は、このたび、睡眠と覚醒を調整する薬剤として開発中のレンボレキサントについて、日本において、不眠障害に係る適応で新薬承認申請書を提出したことをお知らせします。

 

 今回の申請は、合計約2,000人の不眠障害患者様を対象に実施した2つのピボタル臨床第Ⅲ相試験であるSUNRISE 1試験(304試験)およびSUNRISE 2試験(303試験)、さらに夜間覚醒時の姿勢安定性(転倒リスクの予測因子)および翌朝の自動車運転能力について検討した主要な安全性試験(106試験、108試験)などに基づくものです。

 

 SUNRISE 1試験は、睡眠維持困難を伴う55歳以上の不眠障害患者様1,006人(全症例の約45%は65歳以上)を対象に、ゾルピデム酒石酸塩徐放性製剤(以下、ゾルピデム)との比較により、レンボレキサントの有効性および安全性を評価した1カ月間のプラセボ対照臨床第Ⅲ相試験です。就床から入眠までの時間(睡眠潜時、主要評価項目)、睡眠効率および睡眠時間後半部分の中途覚醒時間(睡眠維持効果、副次評価項目)について、睡眠ポリグラフ検査法により客観評価しました。本試験の結果、レンボレキサント(5mg、10mg)群は、主要評価項目ならびに主な副次評価項目について、ゾルピデム6.25mg群およびプラセボ群に対して有意に優れていることが確認されました。有害事象による試験中止率は、レンボレキサント両群はプラセボ群と同様であり、またレンボレキサント両群で観察された主な有害事象は、頭痛と傾眠でした。

 

 SUNRISE 2試験は、日本を含むグローバルにおいて、入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその双方を伴う18歳から88歳の不眠障害患者様949人を対象に、長期の有効性および安全性を評価した12カ月間のプラセボ対照臨床第Ⅲ相試験です。最初の6カ月は、レンボレキサント(5mg、10mg)またはプラセボを投与し、睡眠潜時(主要評価項目)、睡眠効率および中途覚醒時間(副次評価項目)について、電子睡眠日誌を用いて患者様の主観評価により評価しました。本試験の6カ月時点の解析の結果、レンボレキサント両群は、有効性に関する主要評価項目およびすべての副次評価項目を達成し、投与6カ月における入眠および睡眠の維持について、プラセボ群と比較して統計学的に有意な改善が確認されました。有害事象による試験中止率は、レンボレキサント5mg群はプラセボ群と同様でしたが、レンボレキサント10mg群はより高頻度でした。レンボレキサント両群で観察された主な有害事象は、傾眠、頭痛、インフルエンザでした。

 

 レンボレキサントは、オレキシン神経伝達に作用し、外部刺激による目覚めには影響することなく、覚醒を制御することによって睡眠と覚醒を調整すると考えられており、不眠障害をはじめとする睡眠覚醒障害治療薬としての開発を行っています。不眠障害に係る適応では、今回の日本における新薬承認申請のほか、米国において、2018年12月27日に米国食品医薬品局(FDA)に新薬承認申請書を提出しています。

 また、軽度、中等度アルツハイマー病/認知症に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害(ISWRD)を対象とした臨床第Ⅱ相試験を実施しています。

 

 日本における睡眠覚醒障害の患者様は国民の約5人に1人(2,000万人以上)と推定されており、医療機関を受診する患者様は増加の一途をたどっています。当社は、新たなアンメット・メディカル・ニーズの充足と患者様とそのご家族のベネフィット向上に、より一層貢献してまいります。

以上

 

<参考資料> 

1. レンボレキサント(開発コード:E2006)について

 レンボレキサントは、エーザイ創製の新規低分子化合物で、オレキシン受容体の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗剤です。正常な睡眠覚醒リズムにおいて、オレキシンの神経伝達によって覚醒が促進されると考えられていますが、不眠障害では、覚醒を制御するオレキシンの神経伝達が正常に働いていない可能性があります。正常な睡眠時はオレキシン作動性神経が抑制されることから、オレキシンによる神経伝達の阻害により睡眠導入や睡眠維持をはかることができる可能性があると考えられています。

 

2. 不眠障害について  
 複数の人口調査によると、全世界において、以前考えられていたより多くの睡眠覚醒障害の患者様が報告されています1。不眠障害はもっとも一般的な睡眠覚醒障害であり、全世界で成人の約30%の方が不眠障害の症状を有しています1、2。不眠障害は、睡眠をとる十分な機会があるにもかかわらず、入眠困難、睡眠維持またはその両方に苦しむことが特徴であり、疲労、集中困難、易刺激性を引き起こす可能性があります3、4

 よく眠ることは、脳を含めた健康にとても重要です。睡眠不足は、高血圧、事故によるけが、糖尿病、肥満、うつ病、心臓発作、脳卒中、認知症のリスクを増やすことに加え、気分や行動に対する悪影響など、幅広い健康への影響との関連性が示唆されています3、5

 動物およびヒトでの試験結果によると、睡眠は病気のリスク因子、多くの病気、死亡率との関連性が示されており6、最適な睡眠時間は7-8時間と言われています7

 不眠障害について、女性は男性に比べて約1.4倍罹患率が高いとの報告もあります8。高齢者も、不眠障害の罹患率が高いことが知られています。老化による、睡眠の乱れ、頻繁な起床、早朝の起床などによる睡眠パターンの変化により、不眠障害に至ることがあります9

 

3. SUNRISE 1試験(304試験)について10    
 SUNRISE 1試験は、北米と欧州において、55歳以上の不眠障害患者様1,006人(全症例の約45%は65歳以上)を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボおよび実薬対照、並行群間比較臨床第Ⅲ相試験です。本試験では、レンボレキサント 5mg、10mg、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg、またはプラセボが投与されました。

 主要評価項目として、1カ月投与の最後の2日間における睡眠潜時のベースラインからの変化量について、睡眠ポリグラフ検査等を用いてプラセボ群との比較により客観的に評価しました。主な副次評価項目として、1カ月投与の最後の2日間におけるプラセボ群との比較による平均睡眠効率と中途覚醒時間およびゾルピデム徐放製剤群との比較による睡眠時間後半部分の中途覚醒時間について、睡眠ポリグラフ検査法を用いて客観的に評価しました。

 

4. SUNRISE 2試験(303試験)について11    

 SUNRISE 2試験は、グローバル(日本、北米、南米、欧州、アジアおよびオセアニア)で実施された、18歳から88歳の不眠障害患者様949人を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する、多施設共同、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、12カ月間の臨床第Ⅲ相試験です。SUNRISE 2試験は、2週間のプラセボ投与期間を含む最長35日間の観察期、および6カ月のプラセボ対照投与期間と6カ月の実薬のみの投与期間と2週間のフォローアップ期間からなる治療期から構成されます。本試験では、患者様の自宅において、毎晩の就寝直前にレンボレキサント 5mg、10mgまたはプラセボの錠剤が投与されました。また、最初の6カ月間にプラセボが投与された患者様は、後半6カ月はレキボレキサント 5mgまたは10mgが投与されました。最初に実薬を投与された患者様は、後半6カ月においても継続して実薬が投与されました。

 主要評価項目として、プラセボ対照の6カ月投与後における睡眠潜時のベースラインからの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価により評価しました。主な副次評価項目として、プラセボ対照の6カ月投与後における睡眠効率および中途覚醒時間のベースラインからの変化量について、患者様の睡眠日誌を用いて主観評価により評価しました。

 

5. 106 試験について12, 13

 106 試験は、健康な成人および高齢者48人を対象に、公道での自動車運転能力によりレンボレキサントの翌朝への持ち越効果を評価する、無作為化、二重盲検、プラセボおよび実薬対照、4 期クロスオーバー、並行群間比較臨床第Ⅰ相試験です。本試験では、レンボレキサント 2.5mg、5mg、10mg、またはプラセボが8日連続して就寝直前に投与されました。陽性対照薬としてのゾピクロン7.5mgは1日目および8日目に投与され、残りの6日間はプラセボが投与されました。主要評価項目として、初日投与後(2日目朝)および最終日の投与後(9日目朝)の自動車運転能力について、側線に沿って運転したときの車体の側線からのずれの標準偏差(Standard Deviation of Lateral Position: SDLP)を指標とし、評価しました。

 

6. 108試験について14

 108試験は、米国において、55歳以上の健康な成人56人を対象に、レンボレキサントの姿勢安定性、聴覚覚醒閾値、認知機能への影響を評価する、無作為化、二重盲検、4期クロスオーバー、並行群間比較臨床第Ⅰ相試験です。本試験では、レンボレキサント 5mg、10mg、ゾルピデム徐放性製剤6.25mg、またはプラセボが就床直前に単回投与されました。主要評価項目として、投与約4時間後のアラームによる夜間覚醒時における姿勢安定性について、重心動揺計を用い、ゾルピデム徐放製剤群との比較によって評価しました。

 

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    Eisai Inc. A multicenter, randomized, double-blind, placebo-conrolled, active comparator, parallel-group study of the efficacy and safety of lemborexant in subjects 55 years and older with insomnia disorder. (E2006-G000-304). (Clinicaltrials.gov Identifier NCT02783729). 2018. Unpublished data on file.

  • 11

    Eisai Inc. A long-term multicenter, randomized, double-blind, controlled, parallel-group study of the safety and efficacy of lemborexant in subjects with insomnia disorder (E2006-G000-303). (Clinicaltrials.gov Identifier NCT02952820). 2018. Unpublished data on file.

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    Vermeeren A et al. On-the-road driving performance the morning after bedtime administration of lemborexant in healthy adult and elderly volunteers. Sleep. December 31, 2018. https://doi.org/10.1093/sleep/zsy260.

  • 13

    Eisai Inc. Study to evaluate the effect of lemborexant versus placebo on driving performance in healthy adult and elderly subjects (E2006-E044-106). Available from https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02583451?term=lemborexant+106&rank=1. NLM identifier: NCT02583451.

  • 14

    Eisai Inc. Crossover study to evaluate the effect of lemborexant versus placebo and zolpidem on postural stability, auditory awakening threshold, and cognitive performance in healthy subjects 55 years and older (E2006-A001-108). Available from https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03008447?term=lemborexant+108&rank=1. NLM identifier: NCT03008447