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- 2018年10月26日
エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、スペイン・バルセロナで開催されている第11回アルツハイマー病臨床試験会議(Clinical Trials on Alzheimer's Disease: CTAD)において、睡眠と覚醒を調整する薬剤として開発中のレンボレキサントについて、軽度、中等度アルツハイマー病(以下、AD)に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害(Irregular Sleep-Wake Rhythm Disorder、以下ISWRD)の患者様を対象とした臨床第Ⅱ相試験(202試験)の最新データを発表したことをお知らせします。本剤は、不眠障害をはじめとする睡眠覚醒障害治療薬としての開発を進めています。
ISWRDは概日リズム睡眠-覚醒障害の一種です。通常、健康成人では24時間の間で昼夜交代に睡眠覚醒が繰り返されますが、ISWRDはそのパターンがくずれ、睡眠と覚醒がさまざまな時間帯に出現する病態で、入眠困難や夜間の睡眠維持に特徴がある不眠障害とは異なることが確認されています。また、認知症などの神経変性疾患と関連することが最も多いとされています。現在、ISWRDを適応症とする薬剤は承認されておらず、高いアンメット・メディカル・ニーズが存在します。
202試験は、64歳から89歳の軽度、中等度ADに伴うISWRDの患者様62人を対象とした、レンボレキサントの有効性および安全性を評価する多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験です。レンボレキサント(2.5mg、5mg、10mg、15mg)またはプラセボを4週間投与し、投与最終週における概日リズム、夜間睡眠および日中の覚醒について、アクチグラムを用いてベース ラインからの変化量を評価することにより、ISWRDを対象とするレンボレキサントのPOC(Proof of Concept:創薬概念の検証)を確認しました。アクチグラムは、手首に装着する非侵襲的なデバイスで、体動の程度と強さを検出するための多方向的な加速度計が内蔵されています。24時間を通した睡眠 および覚醒の時間帯について、収集された活動量のデータからアルゴリズムによって判定することができる医療機器として承認されています。
本試験の結果、4週間投与後のプラセボ投与群との比較において、概日リズムに関連したパラメータのひとつである夜間活動性について、4投与群のうち3投与群(2.5mg、5mg、15mg)で統計学的に有意な減少が認められ、24時間概日リズムパターンの改善が確認されました。また、レンボレキサント投与群では、夜間睡眠の断片化や総睡眠時間において、プラセボ投与群と比較し、統計学的な有意差は確認されませんでしたが、改善傾向が示され、夜間睡眠の改善に寄与しました。さらに、レンボレキサント投与群はプラセボ投与群と比較し、日中のうたた寝(意図しない昼寝)の平均時間が短縮する傾向が確認されました。
本試験で確認された主な有害事象は、便秘、傾眠、関節痛、頭痛および悪夢でした。試験の中止に至った有害事象は認められませんでした。発現した有害事象のほとんどは軽度から中等度でした。また、MMSE(Mini-Mental State Examination)およびADAS-cog(Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale)で評価した認知機能に著明な変化は認められませんでした。
ノースウェスタン大学神経学教授であるPhyllis Zee, MD, PhDは、「ISWRDは、患者様に深刻で衰弱した状態をもたらします。認知症の症状も重なり、夜中に目を覚まして出歩いたりすることで転倒に繋がるリスクがあるため、患者様のご家族や介護者の負担もかなり大きくなります。今回の202試験の結果を受けて、ISWRD治療薬としてのレンボレキサントの今後のさらなる開発に期待を高めています。」と述べています。
レンボレキサントは、適切な概日リズムにおける睡眠と覚醒の適正なバランス調整の主要な役割を担うオレキシン神経伝達系に作用することにより、患者様がぐっすり眠れないという根本原因に直接的に影響すると考えられています。
エーザイ・ニューロロージービジネスグループのチーフクリニカルオフィサー兼チーフメディカルオフィサーであるLynn Kramer, M.D.は、「我々は、レンボレキサントの開発研究を通じて、認知症患者様の睡眠覚醒パターンの改善を目的とするISWRD治療薬としてファースト・イン・クラス、不眠障害治療薬としてベスト・イン・クラスの薬剤を一日も早く患者様にお届けすることを目指しています。今回のISWRD患者様を対象とした202試験の結果に自信を強めており、今後、詳細な解析を進め、専門家や有識者と相談しながら、ISWRD治療薬としてのレンボレキサントの可能性を引き続き追求し、本剤を 通じた患者様貢献を目指してまいります。」と述べています。
当社は、アルツハイマー病/認知症領域分野における30年以上の創薬活動の経験を基盤に、包括的かつ多元的なアプローチによる創薬研究に取り組んでいます。レンボレキサントの開発研究を通じて、不眠障害に加えて、認知症に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害という新たなアンメット・メディカル・ニーズの充足と患者様とそのご家族のベネフィット向上により一層貢献してまいります。
以上
<参考資料>
1. レンボレキサントについて
レンボレキサントは、エーザイ創製の新規低分子化合物で、オレキシン受容体の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗剤です。不眠障害では、オレキシンが関与する睡眠・覚醒の制御機構が正常に働いていない可能性があります。正常な睡眠時はオレキシン作動性神経が抑制されることから、オレキシンによる神経伝達の阻害により自然な睡眠の誘発や睡眠維持をはかることができる可能性があります。
エーザイとPurdue Pharmaはレンボレキサントを睡眠覚醒障害治療薬としての開発を進めています。軽度、中等度アルツハイマー型認知症に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害(ISWRD)に加えて、不眠障害治療薬としての開発を進めており、不眠障害対象の臨床第III相試験が完了しています。
進行中の臨床試験については、clinicaltrials.govをご覧ください。
2. ISWRD(Irregular Sleep-Wake Rhythm Disorder)について
ISWRDとは、概日リズム睡眠覚醒障害の一種で、健康成人では24時間の間に昼夜交代に繰り返される睡眠覚醒のパターンがくずれ、睡眠と覚醒がさまざまな時間帯に出現する病態で、認知症などの神経変性疾患と関連することが最も多いとされています。本文中においては、「不規則睡眠覚醒リズム障害」としていますが、「概日リズム睡眠覚醒障害群(不規則睡眠覚醒型)」と表現される場合もあります。
3. 202試験について
202試験は、米国、日本、英国において、軽度、中等度ADに伴うISWRDの患者様を対象としたレンボレキサントの有効性及び安全性を評価する、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較臨床第Ⅱ相試験(非盲検継続投与を伴う)です。AD に伴うISWRD患者様にレンボレキサント 2.5mg、5mg、10mg、15mg、プラセボのいずれかを4週間投与し、アクチグラムを用いた概日リズム、夜間睡眠および日中の覚醒に関するパラメータについて、ベースラインから投与最終週までの変化量を評価しました。なお、本試験への患者様の登録は、ADと診断され、かつ精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM–5)および国際疾病分類第10版(ICD–10)に基づいてISWRDに該当した患者様について、スクリーニング期間にアクチグラムを用いてISWRDであることを確認した上で、レンボレキサント4投与群またはプラセボ投与群に無作為に割付けられました。アクチグラムによる計測は、スクリーニング期間、投与期間およびフォローアップ期間を通して連続的に行いました。
4. アクチグラムについて
アクチグラムは、手首に装着する非侵襲的なデバイスで、体動の程度と強さを検出するための多方向的な加速度計が内蔵されています。電池で動くコンパクトな活動計であり、腕時計のような形状をしています。24時間を通した睡眠および覚醒の時間帯について、収集された活動量のデータからアルゴリズムによって判定することができる医療機器として承認されています。本試験では、アクチグラムを用いた画期的なエンドポイントとして、概日リズム、夜間睡眠および日中の覚醒に関するパラメータについて、ベースラインから投与最終週までの変化量を評価しました。
5. エーザイ株式会社について
エーザイは、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症治療剤「アリセプト®」の開発・販売から得た経験を活かし、医療従事者や介護関係者、行政などの協力を得て認知症と共生する「まちづくり」に取り組み、世界で推計1万回以上の疾患啓発イベントを開催してきました。認知症領域のパイオニアとして、次世代治療剤の開発にとどまらず、診断方法の開発やソリューションの提供にも取り組んでいます。患者様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念としています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「がん」「神経領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域において、世界で約1万人の社員が革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
当社はグローバル製薬企業として世界の患者様へ貢献することを使命としており、開発途上国・新興国における医薬品アクセスの改善に向け主要なステークホルダーズとの連携を通じ積極的な活動を展開しています。
エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。