肥満症治療剤「BELVIQ®」長期心血管疾患アウトカム試験における2型糖尿病の予防と寛解に関する新しいデータを欧州糖尿病学会で発表するとともにThe Lancetに掲載

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、肥満症治療剤lorcaserin hydrochloride(一般名、米国製品名「BELVIQ®」、以下 「BELVIQ」)の長期心血管疾患アウトカム試験(CAMELLIA-TIMI61試験)における、2型糖尿病の予防と寛解に関する新しいデータについて、ドイツ・ベルリンで開催されている第54回欧州糖尿病学会(EASD)年次総会において発表するとともに、世界的に最も権威のある医学雑誌の一つであるThe Lancetに掲載されたことをお知らせします1。今回の解析では、2型糖尿病、境界型糖尿病(2型糖尿病発症前で血糖パラメータが正常値を超えている)および正常血糖値の患者様における、「BELVIQ」による代謝機能に対する効果について評価しました。本試験に登録された患者様は、境界型糖尿病患者様3,991人(33%)、2型糖尿病患者様6,816人(57%)、正常血糖値の患者様1,193人(10%)でした。

 

 本解析の結果、境界型糖尿病の患者様において、「BELVIQ」投与群はプラセボ投与群と比較して、2型糖尿病への移行のリスクを19%抑制し(「BELVIQ」投与群8.5% vs プラセボ投与群10.3%、ハザード比:0.81、95%信頼区間(CI):[0.66, 0.99]、名目p=0.038)、さらに正常血糖値への改善傾向を示しました(「BELVIQ」投与群9.2% vs プラセボ投与群7.6%、ハザード比:1.20、95%CI:[0.97, 1.49]、名目p=0.093)。

 また、投与前に2型糖尿病を発症していた患者様において、「BELVIQ」投与群はプラセボ投与群と比較して、正常血糖値への改善が確認されるとともに(「BELVIQ」投与群7.1% vs プラセボ投与群6.0%、ハザード比:1.21、95%CI: [1.00, 1.45]、名目p=0.049)、ヘモグロビンA1c(HBA1c)の改善(投与前からのプラセボとの差:-0.3%)が確認されました。特に、投与前におけるHBA1cが8%以上の2型糖尿病患者様では、1年間の投与後において、プラセボ投与群と比較し、平均0.5%の改善が確認されました。

 さらに、2型糖尿病の患者様の探索的評価において、「BELVIQ」投与群はプラセボ投与群と比較して、微小血管イベント(微小アルブミン尿症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害)の発生リスクを21%軽減しました(「BELVIQ」投与群10.1% vs プラセボ投与群12.4%、ハザード比:0.79、95%CI:[0.69, 0.92]、名目p=0.001)。

 

 1年間の投与による平均体重変化量の「BELVIQ」投与群とプラセボ投与群の差については、境界型糖尿病の患者様:-2.8kg (95%CI:[-3.2, -2.5], 名目p<0.0001)、2型糖尿病の患者様:-2.6kg (95%CI:[-2.9, -2.3]、名目p<0.0001)、正常血糖値の患者様:-3.3kg (95%CI:[-4.0, -2.6]、名目p<0.0001)であり、「BELVIQ」投与群はプラセボ投与群と比較して、実質的体重の減少が確認されました。また、5%以上の体重減少を達成した割合は、境界型糖尿病の患者様において「BELVIQ」投与群:40%、プラセボ投与群:18%(名目p<0.0001)、2型糖尿病の患者様において「BELVIQ」投与群:37%、プラセボ投与群:17%(名目p<0.0001)、正常血糖値の患者様において「BELVIQ」投与群:42%、プラセボ投与群:17%(名目p<0.0001)であり、いずれの部分集団においても「BELVIQ」投与群はプラセボ投与群と比較して体重減少を示しました。同様に、全試験期間を通して体重減少が確認されました。

 

 本年8月に報告した如く、本試験は、安全性評価を主要目的とする市販後臨床試験として、TIMI (Thrombolysis in Myocardial Infarction) Study Groupとの提携のもと、米国を含む8カ国、400施設以上で実施された、肥満症治療薬では最大規模の心血管疾患アウトカム試験です。本試験では、過体重および肥満の成人患者様で、心血管疾患をすでに有している、もしくは心血管疾患のリスク因子を伴う2型糖尿病を有する方、合計12,000人を対象に、「BELVIQ」10mg錠またはプラセボ錠を1日2回、長期間投与しました。主要な安全性評価として、主要心血管イベント(MACE: Major Adverse Cardiovascular Events、心血管死、心筋梗塞、脳卒中)の発生頻度を評価した結果、「BELVIQ」の長期投与群は、プラセボ群と比較してMACEの発生頻度が増加しないことが確認され、主要評価項目を達成しました2

 

 本試験における「BELVIQ」の全体的な安全性プロファイルは、承認されている米国の添付文書の内容との一貫性が認められました。「BELVIQ」投与群とプラセボ投与群の間で重篤な有害事象の発生率に差は見られませんでしたが(「BELVIQ」投与群31%、プラセボ投与群32%)、試験中止に至る有害事象は、「BELVIQ」投与群:7.2%、プラセボ投与群:3.7%であり、「BELVIQ」投与群において、めまい、疲労、頭痛、下痢、悪心が最も多く報告されました。低血糖症の発生率について、「BELVIQ」投与群6.6%、プラセボ投与群5.8%であり(名目p= 0.18)、試験開始時点でインスリンまたはスルホニルウレア系の薬剤治療をしていた患者様が発症の多くを占めました(>85%)。深刻な合併症を伴う重度の低血糖症の発生率はBELVIQ投与群:0.4%、プラセボ投与群:0.1%でした。

 

 当社は、本試験で得られた「BELVIQ」の情報を通じて、引き続き、アンメット・メディカル・ニーズの充足と、患者様とそのご家族のベネフィット向上に貢献してまいります。

 

以上

  

<参考資料> 

1. Lorcaserin hydrochloride (一般名、米国製品名「BELVIQ」、1日1回製剤米国製品名「BELVIQ XR®」)について

 LorcaserinはArena Pharmaceuticals, Inc.(本社:米国カリフォルニア州、CEO:Amit D. Munshi、以下 アリーナ社)創製の新規化合物であり、選択的に脳内のセロトニン2C受容体を刺激することにより摂食を抑制し、満腹感を促進すると考えられています。本剤は、米国において、Body Mass Index(BMI)が30 kg/m2以上、あるいは少なくとも1つ以上の体重に関連する合併症を有するBMIが27 kg/m2以上の成人患者様の体重管理を目的とした食事療法と運動療法に対する補助療法として、2012年6月に米国食品医薬品局(FDA)より承認され、米国麻薬取締局によるスケジューリング指定を経て、2013年6月に「BELVIQ」の製品名で発売されました。また、韓国においては、2015年から代理店より販売されています。2016年7月にメキシコにおいて、12月にはブラジルにおいて、米国と同様、肥満症に係る適応の承認を取得しています。

 さらに、2016年7月には、米国において、1日2回投与の「BELVIQ」錠剤に対して、患者様の服薬利便性の向上をめざして1日1回投与が可能となるよう設計された徐放性製剤「BELVIQ XR」の承認を取得しました。加えて、当社は、2017年1月にアリーナ社より、「BELVIQ」の開発および販売に関するすべての権利を取得しました。

 本剤の複数の臨床第Ⅲ相試験における主な有害事象は、糖尿病を合併しない肥満症では、頭痛、めまい、疲労、嘔吐、口内乾燥、便秘であり、糖尿病を有する肥満症では、低血糖症、頭痛、背部痛、咳嗽、疲労でした。米国における本剤の重要な安全性情報(ISI)を含む詳細は「BELVIQ」ウェブサイトをご参照ください。https://www.belviq.com(英語のみ)

     

2. 心血管疾患アウトカム試験(CAMELLIA-TIMI61試験)について   

 米国などで実施したCAMELLIA(Cardiovascular And Metabolic Effects of Lorcaserin In Overweight And Obese Patients)-TIMI61試験は、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較、国際共同臨床第Ⅲb/Ⅳ相試験であり、肥満症治療に関して最も規模の大きい試験です。本試験の主要目的は、主要心血管イベント(MACE: Major Adverse Cardiovascular Events、心血管死、心筋梗塞、脳卒中)による安全性の評価でした。主要目的を達成した場合に、主要有効性評価として、MACEに入院を要する不安定狭心症もしくは心不全、または冠血行再建術を加えたMACE+の評価を行うこととしていました。本試験の結果、「BELVIQ」投与群は、プラセボ投与群と比較してMACEの発生頻度が増加しないことが確認され、主要評価項目を達成しました。また、「BELVIQ」投与群におけるMACE+の発生頻度は、プラセボ投与群と比較して統計学的優越性は示しませんでしたが、統計学的非劣性が確認されました。

 さらに、副次評価目的として、境界型糖尿病(2型糖尿病発症前で血糖パラメータが正常値を超えている)を有している、もしくは糖尿病を有していない患者様における2型糖尿病への移行の遅延または防止の可能性および2型糖尿病を有する患者様における血糖コントロールの改善を評価しました。

 本試験に登録された患者様は、境界型糖尿病患者様3,991人(33%)、2型糖尿病患者様6,816人(57%)、正常血糖値の患者様1,193人(10%)でした。なお、2型糖尿病患者様については、ヘモグロビンA1c (HbA1c)が10%未満であり、低血糖症または高血糖症の入院治療を要せず、事前3か月間の安定した臨床経過および治療経過を踏まえて登録されました。2型糖尿病に移行していない境界型糖尿病患者様は、HbA1cが5.7%以上6.5%未満または空腹血糖値100-125mg/dLを基準としました。

 今回の代謝機能に対する主要有効性評価は、投与前において境界型糖尿病の患者様が2型糖尿病に移行するまでの期間を指標としました。米国糖尿病学会のガイドラインに基づき3、糖尿病発症の主要な判断基準として、単回測定による随時血糖値200mg/dL以上で高血糖の症状を伴うこと、もしくは別の血糖パラメーター(HbA1c6.5%以上、空腹時血糖値126mg/dL以上、経口ブドウ糖負荷試験における2時間後血糖値200mg/dL以上など)を設定し、いくつかのパラメーターの同時測定または連続測定、もしくは血糖降下薬による治療開始によって確認しました。さらに、探索的評価項目として、投与前からの体重変化や代謝プロファイルについて評価しました。

 

3. TIMI Study Groupについて     

 TIMI (Thrombolysis in Myocardial Infarction) Study Groupは、30年以上にわたり心血管系の臨床試験をリードしてきた米国ニューイングランド州のBrighamand and Women’s Hospital (BWH)に拠点を置く学術研究機関です。

  

4. The Lancetについて     

 1823年の創刊で190年以上の歴史を有し、世界的に評価が高くかつ影響力がある総合医学雑誌です。

  

1    Erin A. Bohula et al,” Effect of Lorcaserin on Prevention and Remission of Type 2 Diabetes in CAMELLIA-TIMI 61, a Randomized Trial in Overweight and Obese Patients”,The Lancet, 2018

2     Bohula, E. A., “Cardiovascular Safety of Lorcaserin in Overweight and Obese Patients”, The New England Journal of Medicine, 2018

3   American Heart Association. Cardiovascular Disease and Diabetes. Accessed at: http://www.heart.org/en/health-topics/diabetes/why-diabetes-matters/cardiovascular-disease--diabetes