特定の蚊を媒介昆⾍として感染。リンパ系に⼤きなダメージを与え、⾜や⽣殖器などが異常に肥⼤するなどの⾝体障害を引き起こす。
「制圧しなければならない熱帯病」
「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases 以下NTDs )」 とは、WHO(世界保健機関)が「⼈類が制圧しなければならない熱帯病」としている21の疾患のことを指します。主に熱帯の貧困地域を中心に、世界で約16億人がNTDsの感染のリスクにさらされています。NTDsは貧困による劣悪な衛生環境などにより蔓延し、労働力や生産性の低下を招き、貧困から脱出できない原因にもなっています。重度の身体障害が残り、経済活動や社会生活に支障をきたす場合がある他、死に至ることもあり、開発途上国や新興国では経済成長の妨げともなりうる重大な課題の一つです。WHOにより、デング熱・チクングニア熱、狂犬病、トラコーマ、ブルーリ潰瘍、風土病性トレポネーマ症、ハンセン病、シャーガス病、トリパノソーマ症(アフリカ睡眠病)、リーシュマニア症、条虫症・嚢虫症、メジナ虫症(ギニア虫症)、エキノコックス症(包虫症)、食物媒介吸虫症、リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症(河川盲目症)、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、マイセトーマ(菌腫)、疥癬、蛇咬傷、ノーマの21種疾患がNTDsとして指定されています。
21の顧みられない熱帯病とは?
21の疾患の詳しい情報は、以下のボタンをクリックしてご覧ください。
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サシガメを媒介昆⾍として感染。感染後しばらくは発症しないこともあるため「沈黙の病気」とも呼ばれるが、放置すると突然死に⾄ることもある。
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サシチョウバエを媒介昆⾍として感染。⽪膚、内臓、粘膜⽪膚リーシュマニア症の3病型がある。内臓リーシュマニア症を発症すると死に⾄ることもある。
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ケンミジンコを含む⽔を飲んで感染。感染源のギニア⾍が⽣息する部位に水泡ができ、成⾍が仔⾍を⽣み出す時に焼けつくような痛みを伴う。
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ツェツェバエを媒介昆⾍として感染。病状が進⾏すると髄膜脳炎をおこし、さらには昏睡状態に⾄り、死に⾄ることから「アフリカ睡眠病」と呼ばれる。
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不衛⽣な環境でハエなどを媒介昆⾍として感染。子供時代から感染を繰り返すことで眼の⾓膜を傷つけ、失明に⾄る場合もある。
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ハンセン菌の感染により、⽪膚や末梢神経に影響をおよぼし、知覚の鈍麻や麻痺や多彩な皮膚病変が現れる。
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川に⽣息する巻⾙を中間宿主として感染。⾎尿・⾎便にはじまり、病状が進⾏すると膀胱がんや肝硬変を患い、死に⾄ることもある。
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ブユを媒介昆⾍として感染。感染により⽪膚に激しい痒みがおこり、発疹等を伴うことがある。重症になると、⽬が⾒えにくくなり、失明に⾄ることもある。
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感染能⼒のある幼⾍や虫卵などを含む⾷物を⾷べることで感染。貧⾎や栄養失調、腸閉塞など様々な症状を引き起こす。
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感染経路はいまだ特定されていない。⼿⾜の⽪膚潰瘍や関節が曲がるなど、外観を損なう症状が現れる。
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蚊を媒介昆⾍としてデングウィルスやチクングニアウイルスに感染すると、発熱や頭痛、関節痛などの症状を引き起こす。デング熱では出⾎熱などの症状が現れ、死に⾄る場合もある。
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豚あるいは豚⾁から感染。筋⾁、⽬、脳など体の様々な部位に感染し、脳におよんだ場合、感染の度合いによっては死に⾄る。
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主に狂⽝病ウィルスをもった⽝から感染。脳や脊髄に感染が広がると、ほぼ必ず死に⾄る。
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汚染された食物中などの虫卵の摂取や、動物宿主への直接的な接触を通じて⼈に感染。肝腫⼤、⽪膚そう痒などの症状が現れ、重症になると死に⾄る場合もある。
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肝吸虫や肝蛭(かんてつ)などの吸虫に感染した淡⽔⿂、レバーなどを⽣⾷することにより感染。発熱、腹痛などを引き起こす。
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感染した⼈の皮膚から感染。⼿⾜の⽪膚、⾻や軟⾻などが侵され、くるみ⼤のコブのようなしこりが⽪膚に現れる
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慢性的、進行性に組織を破壊していく深刻な炎症性疾患であり、原因となる細菌や真菌が傷口から皮下組織に侵入することで感染。放置すると身体障害、外観の変形を招く。
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人と人との接触によりヒゼンダニが皮膚に感染。虫体やその糞に対するアレルギー反応として皮疹や激しい痒みが生じる。
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蛇に噛まれるなどして毒が体内に入り、麻痺を起こして呼吸ができなくなると緊急対応が必要となる。ほか出血や腎不全、組織損傷に至る場合もある。
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ノーマは主に貧しい地域に住む幼児において歯肉炎などから口腔や顔面の壊疽に至る、致死率の高い深刻な疾患です。
「ロンドン宣⾔」から、NTDs制圧・撲滅に向けて共闘開始
2012年1月30日、エーザイを含む製薬企業13社*1のCEO、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、WHO、米国国際開発庁(USAID)、英国国際開発省(DFID)、世界銀行、NTDsの蔓延国政府がロンドンに一同に会し、NTDs10疾患*2を制圧すべく共闘することを表明しました。これは当時、NTDs制圧に向けた最大の国際官民パートナーシップであり、これまでの組織単位、疾患ごとのアプローチとは異なり、この新しい連携により、医薬品供給、物流、開発、インフラなどにおける課題に包括的に取り組み、より効果的にNTDs制圧を成し遂げることを目標としました。製薬企業は、2012年のロンドン宣言以降、2020年までの間に140億人分もの高品質な治療薬を無償提供してきました。この間、国際官民パートナーシップによるNTDs制圧活動により、20のNTDsのうち少なくとも一つのNTDが46カ国で制圧され、6億人に対するNTDs治療が完了するなど、多くの成果があげられた一方、世界では未だ16億人の人々がNTDsの感染リスクにさらされています。
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*1アッヴィ、アストラゼネカ、バイエル、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、エーザイ、グラクソスミスクライン、ギリアド、ジョンソンアンドジョンソン、メルク(Merck KGaA:ドイツ)、MSD、ノバルティス、ファイザー、サノフィ
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*2メジナ虫症(ギニア⾍症)、リンパ系フィラリア症、トラコーマ、トリパノソーマ症(アフリカ睡眠病)、ハンセン病、土壌伝播寄生虫症、住血吸虫症、オンコセルカ症(河川盲目症)、シャーガス病、リーシュマニア症
「ロンドン宣言」から「キガリ宣言」へ
キガリ宣言は、2012年のロンドン宣言の後継としてNTDsの制圧に向けてステークホルダーズが共闘を誓うことを目的とし、2022年6月にルワンダ共和国の首都キガリにおいて開催された「マラリアとNTDsに関するキガリ・サミット」にて正式に発表されました。キガリ宣言では、国連の持続可能な開発目標(SDGs)目標3.3に掲げるNTDs制圧ターゲット、ならびにWHOが主導するNTDsロードマップ2021-2030の達成に向けて、2030年までに、2つのNTDsを根絶、100カ国において少なくとも1つのNTDsを制圧、そしてNTDsの治療介入を必要とする人を90%減らすことをめざしています。人を中心としたアプローチによる産官学民のパートナーシップを通じて、疾病・分野横断的アプローチの推進、ヘルスシステムの構築と資金調達を含む蔓延国における能力強化、NTDs治療薬・診断薬の研究開発の加速とそれらの供給の確保などの課題に取組み、包括的かつ持続可能な方法でNTDs制圧を成し遂げることを引き続きめざします。