蛇による咬傷の正確な数は不明ですが、世界保健機関(WHO)の情報によると、世界で年間約540万人が蛇に咬まれ、270万人が蛇毒の被害を受けているとみられています。被害の多くはアフリカ、アジア、ラテン・アメリカの医療体制が脆弱な地域で発生しています。
毒蛇の毒は、呼吸筋などの麻痺、致死的な凝固障害、不可逆性の腎不全、身体障害を起こす組織損傷などをもたらします。一方、これらの症状には抗毒素(抗血清)が高い有効性を示すため、品質の確保された抗毒素が早期タイミングで投与されることが重要です。蛇咬傷は、2018年にWHOの顧みられない熱帯病(NTDs)に指定されました。
発症原因
世界の蛇約3000種のうち,ヒトに対し危険な蛇は約15%とされています。蛇毒はタンパク質を主とした複雑な混合物です。蛇毒の致死的作用は、分子量の小さな特定のポリペプチドが多数の生理学的受容体に結合することに起因します。毒液注入による症状は,局所性,全身性,またはそれらの複合で,毒液の注入量や蛇の種類により異なります。
症状
蛇毒の成分により毛細血管の透過性が増加し、血液成分の漏出・浮腫、循環血液量減少によるショックや,心不全、腎不全の要因となります。凝固障害や血小板減少、蛇毒による血管内凝固などから播種性血管内凝固症候群に類似した状態となり、出血を来すこともあります。腎不全は溶血,横紋筋融解症,蛇毒の腎毒性作用が起因する場合もあります。一部の蛇毒はシナプス前神経筋遮断を引き起こし,場合によっては呼吸麻痺をもたらします。
毒蛇、無毒の蛇、いずれの咬傷においても恐怖から自律神経症状(例,悪心,嘔吐,頻脈,下痢,発汗)を伴い,毒液注入による全身症状との区別が難しい場合があります。
過去に蛇毒に感作されている人では、アナフィラキシーを発生することがあります。
治療方法
診断方法
診断の際は、噛んだ蛇の同定と毒液注入による臨床像により確定診断します。
治療方法
蛇毒には、抗毒素(血清)が入手可能であれば非常に効果的な治療となります。治療は状況に応じて応急処置、支持療法、抗毒素(血清)投与、創傷ケアなどを組み合わせて行います。適切な抗毒素の選択が治療に最も有効であることから、噛まれた蛇の種類が明らかになっていることは重要です。支持療法としては、呼吸補助,鎮静,ショックに対する補液および昇圧薬投与などが行われます。
予防方法
蛇に噛まれた際には医療機関を受診するという啓発、医療体制の強化や診断能力向上、適切な抗毒素を確保しておくことなど、包括的な取り組みが必要とされています。
発生リスクのある地域
ほとんどは、アフリカ、アジア、ラテン・アメリカで発生しています。リスクが高いのは、農村部の農業労働者、遊牧民、教育や医療へのアクセスが制限されている人などです。子どもは相対的な身体の小ささから、大人より深刻な状況に陥りやすく、さらに、女性の医療へのアクセスが制限される一部の文化では、妊婦は非常に高いリスクに晒されています。
発生件数
WHOの報告では、アジアでは、毎年200万人がヘビ毒の被害を受けており、アフリカでは、年間43~58万人で治療を要する咬傷が発生しています。
推定死亡者数
WHOによれば、死者の報告は8万人–13.8万人とされており、手や足の切断やその他生涯にわたる身体障害を被る人は、その約3倍に達すると推測されています。しかしながら、ヘビ咬傷の被害について正確な数字は不明です。また、犠牲者が病院での治療より伝統的な処置を選ぶことが多く、発生率および死亡率の報告が低いことが明らかとなっています。
参照情報 (最終アクセス: November 28, 2023)
World Health Organization (WHO世界保健機関) - Snakebite envenoming
WHO - Snakebite
Centers for Disease Control and Prevention (CDC米国疾患予防管理センター) - Venomous Snakes
MSD マニュアルプロフェッショナル版 - ヘビ咬傷