風土性トレポネーマ症は、トレポネーマというスピロヘータを病原体とする感染症で、宿主は人のみです。人から人へ感染するため、人が密集した地域や不衛生な地域で広がりやすい傾向にあります。治療をせず放置すると、瘤(こぶ)や腫物などが現れ、著しく外観が損なわれることがあります。
感染原因
風土性トレポネーマ症は、トレポネーマ・ペルテヌエというスピロヘータの感染で起こる慢性感染症で、この細菌は人にのみ感染します。トレポネーマを原因とする感染症には、性感染症である性病性梅毒と、非性感染症である「風土病性トレポネーマ」があります。「風土病性トレポネーマ」には、感染する細菌により分類されるフランベジア(イチゴ腫)、風土性梅毒(ベジェル)とピンタが含まれますが、その中でフランベジア(イチゴ腫)がもっとも頻度の高い感染症です。
風土性トレポネーマ症は、人から人へ感染しますが、感染源は感染した人の皮膚病巣から出る体液で、体液に直接接触することにより感染します。この病巣は人の手足にもっともよく現れます。人との接触が多い子供が感染しやすく、感染者の75%が15歳以下の子供です。発症のピークは6~10歳です。
病原体:トレポネーマ(スピロヘータ)
宿主:人
症状
風土性トレポネーマ症は、治療をせず放置すると、瘤(こぶ)や腫物などが現れ、外観が損なわれたり、身体障害を引き起こします。
風土性トレポネーマ症には、初期(感染性がある段階)と晩期(感染性がない段階)があります。
初期:感染性がある段階
スピロヘータが侵入した箇所の皮膚に固形の腫瘤(乳頭腫)ができます。乳頭腫には病原体であるスピロヘータがたくさん溜まっており、自然に治癒するまで3~6カ月かかります。これを放置していると、体中にこの腫瘤が広がります。これと同時に、直径1cmほどの丘疹や班(色素が抜けた平らな病変)が現れます。手のひらや踵が固く黒ずんだり、骨の痛みなどが現れる場合もあります。
晩期:感染性がない段階
初期の感染から5年後に、鼻、骨などの変形、手のひらや踵(かかと)の過角化症が現れます。踵の過角化症になると歩行が困難になり、日常生活にも支障をおよぼします。
治療方法
診断方法
風土性トレポネーマ症の治療には下記の2種類の抗生物質を使用します。
- アジスロマイシン(経口薬、1回の投薬):投薬が簡単であることから、現在は一次療法となっています。
- ペニシリンベンザチン(注射):アジスロマイシンが適用できない時のみ使用されています。
予防方法
風土性トレポネーマ症には予防ワクチンはありません。予防するには、早期発見をして他者に感染しないようにするか、コミュニティで集団治療をすることが重要です。もちろん、健康教育や個人レベルでの衛生状況を改善することも必要不可欠です。
感染リスクのある地域
風土性トレポネーマ症は、人が密集した地域や衛生面が整っていない地域で感染が見られます。
風土性トレポネーマ症は、少なくとも13カ国で流行しており、主に15歳以下の子供たちが犠牲になっています。特に、アジア、アフリカ、南米、太平洋地域などの熱帯森林地域で多く発生しています。
推定感染者数
2015年に発表された調査では、13カ国で8900万人が感染していると推定されています。
推定死亡者数
風土性トレポネーマ症により外観を損なったり、身体障害を招くことはありますが、直接の死因に繋がることはないため、死亡者の統計はないと推定されます。
参照情報:
WHO- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.who.int/neglected_diseases/mediacentre/factsheet/en/
CDC- Neglected Tropical Diseases, accessed March 19, 2014,
http://www.cdc.gov/globalhealth/ntd/diseases/