ヒト疥癬(かいせん)

ヒゼンダニの皮膚への感染により起こる感染症です。人から人へ感染し、ダニやその糞に対するアレルギー反応として皮疹や激しい痒みが生じます。世界中で年間の感染者数は2億人以上とみられ、最も頻度の高い皮膚感染症です。特に、熱帯の貧困地域の密集した生活環境に多く、その他に、集団生活が行われる高齢者福祉施設や養護施設などでも感染のリスクがあります。疥癬は2017年に世界保健機関(WHO)の顧みられない熱帯病(NTDs)に指定されました。 

感染原因

ヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei var. hominis)の成虫が皮膚の最外層である角質層に寄生・増殖し、主に皮膚の接触により人から人へ感染します。感染リスクは、皮膚における感染の量に比例します。比較的少数の寄生がみられる「通常疥癬」では皮膚の直接接触を避ければ感染の心配はありませんが、感染数が膨大となる「角化型疥癬」では患者が使用した衣服や寝具等にはヒゼンダニが存在する可能性があります。ヒゼンダニの成虫(メスの体長は約400 μm)は皮膚の角化層で「疥癬トンネル」を掘りながら、約2カ月にわたり毎日2–3個産卵します。卵は3–4日で孵化し、幼虫はトンネルを出て皮膚をはいまわり、約2週間で成熟します。

病原体:ヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei var. hominis

<ヒゼンダニ>  CDC

症状

感染直後は症状が出ませんが、感染後約4-6週間でダニが多数増殖し、虫体や糞に感作されてアレルギー反応としての激しい痒みが始まります。痒みは夜間強くなる傾向があります。皮膚の紅色の丘疹や、「疥癬トンネル」と呼ばれる、蛇行する細い線がみられます。これらは指や腕、脚、ベルトに沿った部位、乳房および陰茎を含めた、頭部を除く全身のあらゆる部位に出現します。ヒゼンダニの数は「通常疥癬」では10–15匹程度ですが、免疫力の落ちた人でみられやすい「角化型疥癬」では数千から数百万の膨大な数が頭部を含む全身にみられます。厚い垢が広がる一方、痒みは弱い傾向にあります。剥がれ落ちた垢には多数のヒゼンダニがおり、感染源となり得ます。いずれにおいても細菌の二次感染がしばしばみられ、腎障害のリスク因子になると考えられています。角化型疥癬では細菌の二次感染から敗血症などで死に至ることもあります。

<疥癬による発疹> CDC

治療方法

診断方法

特徴的な臨床症状により診断可能なことが多く、確定診断はヒゼンダニを検出することで行います。病変部から採取した組織片の鏡検により虫体や虫卵のほか、卵の抜け殻などを確認します。感染数によっては見つからないこともあるため、時間をおいて数回繰り返します。

治療方法

治療はヒゼンダニを殺す飲み薬や、塗り薬が使われますが、薬は虫卵を殺さないので何度か繰り返す必要があります。ペルメトリン、マラチオン、安息香酸ベンジルやイオウ剤などを含む塗り薬を全身に塗ります。イベルメクチンの経口投与も行われますが、妊婦や体重15 kg未満の子供への投与には注意が必要です。二次的な細菌感染が在る場合は適切な抗菌薬による治療、また痒みにはコルチコステロイド軟膏の外用または抗ヒスタミン薬の内服治療が行われます。

予防方法

早期発見と早期治療介入により集団感染を予防することが重要です。ヒトの皮膚から脱落したヒゼンダニは通常2–3日で死滅します。痒みを伴う丘疹を有する人との皮膚の接触を避け、感染が判明した場合は、症状の有無に関わらず同居者全てに治療をします。感染者の衣服などを熱湯で洗って天日あるいは乾燥機で乾燥する、あるいは気密性の高いビニール袋に数日から一週間程度密封しておくなどの対策が有効です。角化型疥癬の場合はダニの数が多いため、滞在した部屋の清掃も行います。

感染リスクのある地域

疥癬は最も一般的な皮膚科疾患の1つであり、開発途上国の皮膚疾患のかなりの割合を占めています。疥癬はすべての国で見られますが、資源の乏しい多くの熱帯環境にいる子供は感染率が高い傾向にあり、感染率は場所によっては50%に上るとされます。

推定感染者数

WHOによると、世界で2億人以上が罹患していると推定されています。

推定死亡者数

疥癬による死者数は推定されていません。

参照情報 (最終アクセス: November 28, 2023)

World Health Organization (WHO世界保健機関) - Scabies

Centers for Disease Control and Prevention (CDC米国疾患予防管理センター) - Scabies

国立感染症研究所 疥癬とは

MSD マニュアルプロフェッショナル版 - 疥癬

監修
聖路加国際大学 名誉教授 遠藤 弘良