顧みられない熱帯病およびマラリアの新薬開発に向けた取り組みとグローバルヘルス技術振興基金第二期への資金拠出

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund、以下GHIT Fund)に対し、その活動の第二期である2018年度から2022年度までの5年間に対し、合計5億円を資金拠出することを決定しましたので、お知らせします。GHIT Fundは、2013年4月、当社をはじめとする日本の製薬企業、日本国政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の官民パートナーシップにより設立された基金であり、日本と海外の研究機関の連携を促進し、開発途上国・新興国の感染症に対する新薬創出を推進しています。

開発途上国や新興国で多くの人々を苦しめている顧みられない熱帯病(NTDs)やマラリアなどの感染症分野の新薬開発には、疾患特有の開発の困難さや市場性といった課題があり、さらに現地における供給体制、診断や治療へのアクセス確保も必要とされ、セクターを超えた産官学パートナーシップによる取り組みが必須となっています。

当社はアカデミアや研究機関と積極的に連携し、シャーガス病やリーシュマニア症、フィラリア症およびマラリアに対する11の新薬・ワクチン開発プロジェクトをGHIT Fundの支援を受けて進めてきました。現在、シャーガス病に対する新薬開発では、独立非営利財団DNDi(Drugs for Neglected Disease initiative)とのパートナーシップにより、自社創製のE1224(ホスラブコナゾール)の臨床第Ⅱ相試験が進行中です。また、抗マラリア薬の候補化合物であるSJ733について、ケンタッキー大学ならびに非営利官民パートナーシップであるMMV(Medicines for Malaria Venture)と協働し、臨床第I相試験を実施しています。さらに、本年新たにGHIT Fundに採択された、ブロード研究所およびMMVとの新規メカニズムを持つ抗マラリア薬の研究など、前臨床段階のプロジェクトも進捗しています。

当社は、開発途上国や新興国の人々の健康福祉の向上に貢献することは、これらの国々の中間所得層拡大や経済成長に繋がる長期投資と位置づけており、ヒューマン・ヘルスケア(hhc)理念のもと、引き続き積極的に取り組んでまいります。

以上

<参考資料>

1. 公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)について

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、グローバルヘルス分野の製品開発に特化した世界初の官民パートナーシップとして、日本政府(外務省、厚生労働省)、製薬企業などの民間企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラスト、国連開発計画が参画する、国際的な非営利組織です。GHIT Fundは2013年4月に設立され、世界の最貧困層の健康を脅かす感染症と闘うために、製品開発パートナーシップへの投資ならびに、ポートフォリオマネジメントを行っています。開発途上国に蔓延するHIV/AIDS、マラリア、結核、顧みられない熱帯病(NTDs)などの感染症の制圧を目指し、日本と海外の研究機関の連携促進を行い、製品開発パートナーシップへの投資を通じて新薬開発を推進しています。詳しくは、http://www.ghitfund.orgをご覧ください。

2. 顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)について

世界保健機関(WHO)によると、NTDsにより世界149の国と地域の10億人を超える人々が健康を害しており、その大部分は貧困層であると推定されています1。NTDsは貧困により蔓延していく一方、多くの国と地域で貧困の原因ともなっています。NTDsでは、盲目や体の変形などの身体症状が現れることがあり、経済活動や社会生活を送る上での障害となっています。また、重症化し、死に至る場合もあるため、社会や医療に大きな負担となっています。

WHOにより、デング熱とチクングニア熱、狂犬病、トラコーマ、ブルーリ潰瘍、風土病性トレポネーマ症、ハンセン病、シャーガス病、アフリカ・トリパノソーマ症(睡眠病)、リーシュマニア症、条虫症・嚢虫症、メジナ虫症(ギニア虫症)、エキノコックス症(包虫症)、食物媒介吸虫症、リンパ系フィラリア症、河川盲目症(オンコセルカ症)、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、マイセトーマ(菌腫)の18種疾患がNTDsとして指定されています。

3. シャーガス病について

シャーガス病はサシガメ(ビンチューカ)の咬傷によって感染する疾患で、特にラテンアメリカやカリブ諸国の貧困地域における公衆衛生上の問題となっています。約6-7百万人が感染しており、約75百万人が感染リスクにさらされていると推定されています2。シャーガス病は、急性期・無症候期・慢性期に分類され、慢性期に移行するまで数十年かかることもあります。慢性期では、10%-30%の感染者において、中枢神経系、消化器系、循環器系に影響が現れ、末梢神経障害や心筋症、巨大結腸もしくは巨大食道などが認められるようになります。適切な治療を受けないと、感染者の約3分の1が重篤な心疾患あるいは消化器疾患を発症し、場合によっては死に至ることもあります。

4. マラリアについて

世界三大感染症の一つであるマラリアは、マラリア原虫が蚊の媒介によって、人に感染する寄生虫症です。WHOによると、年間に世界で約43万人がマラリアで亡くなっており、その多くがアフリカの子供達であると報告されています3

現在、既存薬に対して耐性を持つマラリア原虫が報告され、新規作用機序を持つ治療薬の開発が急務となっています。また、ほとんどの既存薬は、マラリア原虫が赤血球の中で増殖する血液期に効果を示し、それ以外の肝臓期・伝播期には作用しません。そのため、マラリア根治治療と再発防止、蚊による伝播の防止のために、マラリア原虫の全てのライフステージで効果を発揮する抗マラリア薬の開発が重要な鍵となっています。

5. フィラリア症について

フィラリア症は、糸状虫を原因とする疾患で、主にリンパ系フィラリア症と河川盲目症に分類されます。

世界で約67百万人が感染していると推定されるリンパ系フィラリア症2は、蚊を媒介してヒトに感染する寄生虫症で、感染するとリンパ系機能障害を引き起こします。主な症状のひとつである象皮病は足などが象の足のように大きく腫れる身体障害で、患者様の日常動作に影響を与えるだけでなく、障害に対する偏見などから、歴史的にも多くの患者様が社会から迫害され、精神的にも患者様やご家族の方々を苦しめる原因となっています。

サブサハラアフリカの31カ国で蔓延し、約26百万人が感染していると推定される河川盲目症2は寄生蠕虫(ぜんちゅう)の回旋糸状虫を病原体とし黒バエ(ブユ)に媒介されて人に感染します。成虫は皮下にコブを作って寄生し、発症すると皮膚の激しい痒みなどを伴うことがあります。重症になると回旋糸状虫のミクロフィラリアが眼に集中し、角膜の病変を引き起こし、放置すれば失明に至ります。

6. リーシュマニア症について

リーシュマニア症は、リーシュマニア属原虫による感染を原因とする寄生虫症です。サシチョウバエ類によって媒介され、世界90カ国以上に約1千2百万人の感染者がおり、毎年90-130万人が新たに感染していると推定されています。リーシュマニア症には、皮膚潰瘍を生じる皮膚リーシュマニア症と、発熱や貧血を生じる内臓リーシュマニア症とがあります。内臓リーシュマニア症は、骨髄、肝臓、脾臓、リンパ節、および他の内臓を侵し、適切な治療を受けなければ、死に至ります。