抗がん剤「ハラヴェン®」が欧州で新たに進行性脂肪肉腫に関する適応の承認を取得

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、欧州統括会社エーザイ・ヨーロッパ・リミテッドが、抗がん剤「ハラヴェン®」(一般名:エリブリンメシル酸塩)について、欧州委員会(European Commission)より、「進行または転移性で、アントラサイクリン系抗がん剤治療(不適な場合を除く)を含む化学療法の前治療歴のある手術不能な成人の脂肪肉腫」の承認を取得しましたのでお知らせします。「ハラヴェン」は、進行または再発の悪性軟部腫瘍(脂肪肉腫または平滑筋肉腫)を対象とした臨床第Ⅲ相試験において、全生存期間(overall survival: OS)を統計学的に有意に延長した唯一の薬剤です。本適応は、「ハラヴェン」が進行性乳がんに係る適応に続き、OSの延長が認められて取得した2つ目のがん腫となります。

本承認は、アントラサイクリン系抗がん剤治療を含む少なくとも2レジメンの前治療歴を有する進行または再発の悪性軟部腫瘍(脂肪肉腫または平滑筋肉腫)の患者様(18歳以上、452人)を対象とした、「ハラヴェン」とダカルバジンの有効性および安全性を比較する臨床第Ⅲ相試験(309試験)の結果1に基づくものです。

本試験の結果、主要評価項目であるOSにおいて、「ハラヴェン」投与群(中央値:13.5カ月)は、対照薬であるダカルバジン投与群(同:11.5カ月)に比較して統計学的に有意な延長を示しました(ハザード比0.77(95%信頼区間 = 0.62-0.95)、p=0.0169)。また、脂肪肉腫の患者様では、OSにおいて「ハラヴェン」投与群(中央値:15.6カ月)は、対照薬であるダカルバジン投与群(同:8.4カ月)に比較して有意な改善を示しました(ハザード比0.51(95%信頼区間 = 0.35-0.75))。

本試験において、「ハラヴェン」投与群で、もっとも一般的に確認された有害事象(頻度25%以上)は、疲労、好中球減少、悪心、脱毛、便秘、末梢神経障害、腹痛、発熱で、これまでの「ハラヴェン」投与で確認された安全性プロファイルと同様でした。

「ハラヴェン」は、ハリコンドリン系の微小管ダイナミクス阻害剤です。従来の作用機序に加えて、最近の非臨床研究において、腫瘍の血流循環を改善すること2、乳がん細胞の上皮細胞化を誘導すること、乳がん細胞の転移能を減少させること3など、ユニークな作用を有することが報告されています。

本剤は、これまでに乳がんに係る適応で、日本、欧州、米州、アジアなど、約60カ国で承認されています。悪性軟部腫瘍に係る適応については、2016年1月に米国において「アントラサイクリン系抗がん剤治療を含む化学療法の前治療歴のある手術不能または転移性の脂肪肉腫」の適応で、同年2月に日本において「悪性軟部腫瘍」の適応でそれぞれ承認を取得しています。

悪性軟部腫瘍は体の様々な軟部組織(脂肪、筋肉、神経、線維組織、血管など)で発生する悪性腫瘍の総称で、欧州では毎年、全部のがん腫の約1%となる約29,000人が悪性軟部腫瘍と診断されています。脂肪肉腫は悪性軟部腫瘍の中で比較的発生頻度が高い組織型の一つです。進行した場合の予後は悪く、アンメット・メディカル・ニーズが非常に高い疾患です。

当社は、引き続き本剤の患者様価値をさらに増大すべく、エビデンスの創出に邁進し、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

以上

<参考資料>

1. 「ハラヴェン」(一般名:エリブリンメシル酸塩)について

「ハラヴェン」は、新規の作用機序を有するハリコンドリン系の微小管ダイナミクス阻害剤です。海洋生物クロイソカイメン(Halichondria okadai)から抽出された天然物ハリコンドリンBの全合成類縁化合物であり、微小管の伸長(重合)を阻害・抑制することで、細胞分裂の停止作用を有しています。加えて、最近の非臨床研究において、腫瘍の血流循環を改善すること2、乳がん細胞の上皮細胞化を誘導すること、乳がん細胞の転移能を減少させる3など、ユニークな作用を有することが報告されています。

本剤は、2010年11月に米国で「アントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤を含む少なくとも2レジメンのがん化学療法による前治療歴のある転移性乳がん」の適応で最初の承認を取得し、これまでに日本、欧州、米州、アジアなど約60カ国で乳がんに係る適応で承認を取得しています。日本では、「手術不能又は再発乳癌」を効能・効果として承認され、2011年7月に発売しました。また、欧州やアジアなどでは「1レジメン以上の前治療歴のある局所進行性・転移性乳がん(術後または再発後にアントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤による治療歴を有すること)」での適応拡大の承認を取得しています。

悪性軟部腫瘍に係る適応については、2016年1月に、米国で「アントラサイクリン系抗がん剤治療を含む化学療法の前治療歴のある手術不能または転移性の脂肪肉腫」の適応で、2016年2月に日本で「悪性軟部腫瘍」の適応で、2016年5月に欧州で「進行または転移性で、アントラサイクリン系抗がん剤治療(不適な場合を除く)を含む化学療法の前治療歴のある手術不能な成人の脂肪肉腫」の適応で、それぞれ承認を取得しています。また、スイス、ロシア、オーストラリア、ブラジル、マレーシアで承認申請中です。本剤は米国および日本において、悪性軟部腫瘍に対する希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けています。

2. 309試験について1

欧米を中心に実施した309試験は、アントラサイクリン系抗がん剤治療を含む少なくとも2レジメンの前治療後に増悪した進行または再発の悪性軟部腫瘍(脂肪肉腫または平滑筋肉腫)の患者様452人(18歳以上)を対象とした、「ハラヴェン」とダカルバジンの有効性および安全性を比較する、多施設共同の非盲検、無作為化第Ⅲ相試験です。「ハラヴェン」は、21日を1クールとして、1.4mg/m2/dayを1日目と8日目に静脈内注射により投与され、ダカルバジンは、21日を1クールとして、850–1200 mg/m2/dayを1日目に静脈内注射により投与されました。本試験の結果、主要評価項目である全生存期間(overall survival :OS)において、「ハラヴェン」投与群(中央値:13.5カ月)は、対照薬であるダカルバジン投与群(同:11.5カ月)に比較して統計学的に有意な延長を示しました(ハザード比0.77(95%信頼区間 = 0.62-0.95)、p=0.0169)。また、副次評価項目である無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)の中央値は、両投与群とも2.6カ月であり、12週時無増悪生存率(progression-free rate at 12 weeks :PFR12wks)では、「ハラヴェン」投与群では33%、ダカルバジン投与群では29%となり、PFS、PFS12wksともに統計学的な有意差はありませんでした。脂肪肉腫グループ(患者数143人)では、OSにおいて、「ハラヴェン」投与群(中央値:15.6カ月)は、対照薬であるダカルバジン投与群(同:8.4カ月)に比較して有意な改善を示しました(ハザード比0.51(95%信頼区間 = 0.35-0.75))。

本試験において、「ハラヴェン」投与群で、もっとも一般的に確認された副作用(頻度25%以上)は、疲労、好中球減少、悪心、脱毛、便秘、末梢神経障害、腹痛、発熱で、これまでの「ハラヴェン」投与で確認された安全性プロファイルと同様でした。

3. 悪性軟部腫瘍について

悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)は、体の様々な軟部組織(脂肪、筋肉、神経、線維組織、血管など)で発生する悪性腫瘍の総称です。米国では約12,000人が、欧州では約29,000人が、毎年悪性軟部腫瘍と診断されています。日本では、厚生労働省の患者調査によると患者数は約4,000人とされています。発生部位の組織が様々であることから多彩な組織型が存在しますが、比較的頻度の高い組織型として平滑筋肉腫、脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫などが知られています。悪性軟部腫瘍の治療は根治的な外科切除術が中心で、悪性度が高い場合は、化学療法や放射線療法を組み合わせた治療がなされます。進行した場合の予後は悪く、アンメット・メディカル・ニーズが非常に高い疾患のひとつです。

  • 1
    Schöffski P et al. Eribulin versus dacarbazine in previously treated patients with advanced liposarcoma or leiomyosarcoma: a randomised, open-label, multicentre, phase 3 trial. The Lancet. 2016; 387, 1629-1637
  • 2
    Funahashi Y et al. Eribulin mesylate reduces tumor microenvironment abnormality by vascular remodeling in preclinical human breast cancer models. Cancer Sci., 2014; 105, 1334-1342
  • 3
    Yoshida T et al. Eribulin mesilate suppresses experimental metastasis of breast cancer cells by reversing phenotype from epithelial-mesenchymal transition (EMT) to mesenchymal-epithelial transition (MET) states. Br J Cancer, 2014; 110, 1497-1505