自社創製の新規抗がん剤「Lenvima®」(一般名:レンバチニブメシル酸塩)を英国において放射性ヨウ素治療抵抗性の進行性甲状腺がんの適応で新発売

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、英国子会社エーザイ・ヨーロッパ・リミテッドが、自社創製の新規抗がん剤「Lenvima®」(一般名:レンバチニブメシル酸塩)を「成人での放射性ヨウ素治療抵抗性の進行性又は再発の分化型甲状腺がん(乳頭がん、濾胞がん、ヒュルトレ細胞がん)」の適応で、英国にて新発売しましたのでお知らせします。英国での「Lenvima」新発売を皮切りに、欧州各国で順次発売する予定です。

欧州での甲状腺がんの罹患者数は毎年52,000人以上と推定されています。甲状腺がんのおよそ95%を占める分化型甲状腺がんの多くは、手術および放射性ヨウ素療法で治療可能ですが、進行した分化型甲状腺がんの治療選択肢は限られており、未だアンメット・メディカル・ニーズが高い疾病です。

「Lenvima」は、グローバルで実施した分化型甲状腺がんを対象とした臨床第Ⅲ相試験(SELECT試験)において、プラセボに対して無増悪生存期間を統計学的に有意に延長するとともに、高い奏効率を示しました1。本試験において認められた主な副作用は、高血圧、下痢、疲労・無力症、食欲減退、体重減少、悪心でした。本剤は、欧州医薬品庁(European Medicines Agency)より迅速審査の指定を受け、2015年5月28日に承認を取得しました。

「Lenvima」は、当社の筑波研究所で創製され、自社開発した新規抗がん剤です。腫瘍血管新生や腫瘍増殖に関わるVEGFR、FGFR、RET、KIT、PDGFRなどに対する選択的阻害活性を有する経口投与可能な分子標的治療薬であり、特に甲状腺がんの腫瘍血管新生と腫瘍増殖に関与するVEGFR、FGFRおよびRETを同時に阻害します。また、本剤は、VEGFR2とのX線共結晶構造解析から、新たな結合様式(タイプV)を有することが確認された薬剤であり、速度論的解析からは、標的分子に素早く結合し、強力なキナーゼ阻害作用を示すことが確認されています2

本剤は、2015年2月から米国において、「局所再発又は転移性、進行性、放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺がん」を適応として販売され、日本においても、2015年5月から「根治切除不能な甲状腺癌」を効能・効果として販売されています。2015年度中に、20カ国以上での新発売をめざしています。さらに、肝細胞がんを対象としたグローバル臨床第Ⅲ相試験や、腎細胞がん、非小細胞肺がんなど複数のがんを対象にした臨床第Ⅱ相試験が進行中です。

当社は、「Lenvima」を甲状腺がんの新たな治療選択肢としてお届けするとともに、本剤によるがん治療の可能性を引き続き追求し、がん患者様とそのご家族の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

以上

<参考資料>

1. 「Lenvima」(一般名:レンバチニブメシル酸塩)について

「Lenvima」は、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)であるVEGFR1、VEGFR2、VEGFR3や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)のFGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4に加え、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)のPDGFRα、KIT、RETなどの腫瘍血管新生あるいは腫瘍悪性化に関与する受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に対する選択的阻害活性を有する経口投与可能な、自社創出の新規結合型チロシンキナーゼ阻害剤です。特に甲状腺がんの増殖、腫瘍血管新生に関与するVEGFR、FGFRおよびRETを同時に阻害します。また、本剤は、VEGFR2とのX線共結晶構造解析から、新たな結合様式(タイプV)を有することが確認された薬剤であり、速度論的解析からは、標的分子に素早く結合し強力なキナーゼ阻害作用を示すことが確認されています2

「Lenvima」は、米国では2015年2月から「局所再発又は転移性、進行性、放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺がん」の適応で販売しており、日本では2015年5月から「根治切除不能な甲状腺癌」を効能・効果として発売しています。2015年5月に欧州委員会(European Commission)より、「成人での放射性ヨウ素治療抵抗性の進行性又は再発の分化型甲状腺がん(乳頭がん、濾胞がん、ヒュルトレ細胞がん)」の適応で承認を取得しました。加えて、スイス、韓国、カナダ、シンガポール、ロシア、オーストラリア、ブラジルで申請中です。

また、本剤に関しては、肝細胞がんを対象としたグローバル臨床第Ⅲ相試験や、腎細胞がん、非小細胞肺がんなど複数のがんを対象にした臨床第Ⅱ相試験が進行中です。

2. 新規結合様式(タイプV)について2

キナーゼ阻害剤は、標的キナーゼへの結合部位と阻害剤が結合した際にキナーゼがとるコンフォーメーションの違いにより、タイプI∼Vに分類されます。これまでに承認されているチロシンキナーゼ阻害剤の多くはタイプIあるいはタイプⅡに属しますが、「Lenvima」は、X線結晶構造解析により、既存薬とは異なるタイプVの結合様式を有する阻害剤であることが明らかになりました。また、「Lenvima」は速度論的解析実験から、標的分子に素早く結合し、強力なキナーゼ阻害作用を示すことが確認されており、これには新規結合様式が寄与していると推察されています。

3. SELECT試験について1

SELECT(Study of E7080 “LEnvatinib” in Differentiated Cancer of the Thyroid)試験は、過去13カ月以内に画像診断により病勢進行が確認され、VEGF受容体を標的とする治療歴が1レジメン以内である放射性ヨウ素治療抵抗性の分化型甲状腺がんの患者様を対象に、「Lenvima」(24mg)またはプラセボを1日1回経口投与する(「Lenvima」投与:プラセボ投与 = 2:1)、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照臨床第Ⅲ相試験として実施されました。本試験では、主要評価項目として両群の無増悪生存期間(progression free survival: PFS)について比較が行われ、また、副次評価項目として、奏効率(完全奏効(CR)および部分奏効(PR)の割合)、全生存期間および安全性が評価されました。本試験は、SFJ Pharma Ltd.との提携のもと当社が実施し、本試験には欧州、米州および日本を含むアジア地域の100以上の施設が参加し、392人の患者様が登録されました。本試験において、「Lenvima」投与群はプラセボ投与群に比べ、PFSを統計学的に有意に延長しました(p<0.001、「Lenvima」18.3カ月vsプラセボ3.6カ月(中央値)、ハザード比0.21(99%信頼区間 = 0.14-0.31))。また、「Lenvima」投与群の奏効までの期間の中央値は2.0カ月と投与開始から早期での効果を示しました。加えて、「Lenvima」は、プラセボに対して統計学的に有意に高い奏効率を示しました(p<0.001、「Lenvima」64.8%vsプラセボ1.5%)。特に、「Lenvima」投与群では、CRが1.5%(4例)確認されました(プラセボ投与群では0例)。「Lenvima」投与群において高頻度(頻度40%以上)に認められた副作用は、高血圧(67.8%)、下痢(59.4%)、疲労・無力症(59.0%)、食欲減退(50.2%)、体重減少(46.4%)、悪心(41.0%)でした。

4. 甲状腺がんについて

甲状腺がんは、気管の付近、頸部の前面に位置する甲状腺の組織に生じるがんの一種です。男性より女性に多く発症します。最も多く見られる甲状腺がんの種類である乳頭がんと濾胞がん(ヒュルトレ細胞がんを含む)は、分化型甲状腺がん(Differentiated Thyroid Cancer: DTC)として分類され、甲状腺がんのおよそ95%を占めます。その他、未分化がん(頻度:3∼5%)、髄様がん(頻度:1∼2%)があります。分化型甲状腺がん患者様の多くは、手術および放射性ヨウ素療法で治療できる一方、これらの治療に適さない少数の患者様もいます。

  • 1
    Schlumberger M, et al. Lenvatinib versus Placebo in Radioiodine-Refractory Thyroid Cancer. N. Engl. J. Med. 2015; 372, 621–630
  • 2
    Okamoto K, et al. Distinct Binding Mode of Multikinase Inhibitor Lenvatinib Revealed by Biochemical Characterization. ACS Med. Chem. Lett. 2015; 6, 89–94