抗悪性腫瘍剤「ハラヴェン®」日本において、手術不能又は再発乳がんの適応で製造販売承認を取得

エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)は、このたび、当社が創製・開発した新規抗悪性腫瘍剤「ハラヴェン®静注1mg」(一般名:エリブリンメシル酸塩)について、日本において「手術不能又は再発乳癌」の効能・効果で製造販売承認を取得しました。これにより、世界の三大医薬品マーケットである日本、米国、EUにおいて承認を取得したことになります。

本剤の日本での新薬承認申請は、2010年3月になされ、その後厚生労働省より2010年5月に優先審査品目に指定されました。今回の日本の承認は、グローバルで実施した第Ⅲ相試験(EMBRACE試験:Eisai Metastatic Breast Cancer Study Assessing Physician's Choice Versus E7389)、および日本で実施した第Ⅱ相試験(221試験)の結果に基づいています。

EMBRACE試験のプロトコールに定められたタイムポイントでの解析では、「ハラヴェン®」投与群は主治医選択治療群と比較し全生存期間を2.5カ月間延長しました(全生存期間:13.1カ月 対 10.6カ月、ハザード比:0.81、p値:0.041)。その後、本試験の更なる進捗に伴い欧米の審査当局によって要求された最新の解析の結果、「ハラヴェン®」投与群では主治医選択治療群に比べて2.7カ月間の全生存期間の延長が認められました(全生存期間:13.2カ月 対 10.5カ月、ハザード比:0.81、p値:0.014)。

本剤は、前治療歴のある転移性乳がんの患者様において、単剤で統計学的に有意に全生存期間を延長した世界で初めてのがん化学療法剤です。当社は、日本において、全MRがオンコロジー領域に取り組む体制を整えており、エーザイ・ジャパンの全員が一丸となって、適正使用情報の伝達に取り組み、乳がん患者様のQOL向上に貢献してまいります。

乳がんは依然として、女性のがんによる主な死亡原因の1つであり、日本では毎年約6万人の患者様が罹患されています。新しい抗がん剤の開発によりその治療法は年々進歩していますが、手術不能又は再発乳がんでは治療の選択肢は決して十分とは言えません。今回の日本での承認によって、手術不能又は再発乳がんの患者様が本剤にアクセスすることが可能となり、患者様とご家族により一層貢献することを期待しています。

当社は、がん研究における意義ある革新をめざしており、前臨床探索研究ならびに臨床開発研究において、低分子有機化合物と生物学的薬剤からなる多岐にわたるがん化学療法剤、ならびに支持療法剤を創出するグローバル事業基盤を確立しています。日本においても、2010年12月に日本での抗がん剤第一号製品となる「トレアキシン®」を発売し、このたび承認取得した「ハラヴェン®」に続き、モノクローナル抗体「MORAb-003」(一般名:farletuzumab)、E7080(一般名:lenvatinib)など、今後、がん関連疾患領域の製品の充実化をはかっていきます。

これらの取り組みにより、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献し、当社のヒューマン・ヘルスケア(hhc)ミッションを果たしてまいります。

以上

[参考資料として、製品概要、EMBRACE試験、221試験、ハラヴェン®、乳がんについて添付しています]

<参考資料>

1. 製品概要

  • 1)
    製品名
    ハラヴェン®静注1mg
  • 2)
    一般名
    エリブリンメシル酸塩
  • 3)
    効能・効果
    手術不能又は再発乳癌
  • 4)
    用法・用量
    通常、成人には、エリブリンメシル酸塩として、1 日1 回1.4 mg/m2(体表面積)を2~5 分間かけて、週1 回、静脈内投与する。これを2 週連続で行い、3 週目は休薬する。これを1 サイクルとして、投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。

2. グローバル第Ⅲ相臨床試験(EMBRACE試験)

EMBRACE試験は、多施設、無作為、非盲検、並行2群間比較試験で、ハラヴェン®投与群と主治医選択治療群との間で全生存期間を比較するようにデザインされました。本試験では、 2種類から5種類のがん化学療法剤(アントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤を含む)による前治療歴のある、局所再発性あるいは転移性乳がんの患者様762名が対象となり、ハラヴェン®投与群と主治医選択治療群に2:1の比率で割り付けられました。主治医選択治療群は、がん治療が認可された単剤化学療法、ホルモン療法、生物学的薬剤治療、又は苦痛緩和治療、放射線治療と定義され、大多数(97%)の患者様は単剤化学療法を受けました。本試験解析の結果、ハラヴェン®投与群は主治医選択治療群と比較し全生存期間を2.5カ月間延長しました(全生存期間:13.1カ月 対 10.6カ月、ハザード比:0.81、p値:0.041)。

また、当社は欧州と米国の審査当局からの依頼によりプロトコールの規定に加えてEMBRACE試験の結果をアップデートしました。その最新の解析データは、ハラヴェン®投与群では主治医選択治療群に比べて2.7カ月間の全生存期間の延長が認められました(全生存期間:13.2カ月 対 10.5カ月、ハザード比:0.81、p値:0.014)。このデータは2010年12月のSan Antonio Breast Cancer Symposiumで発表され、ハラヴェン®の全生存期間を延長し、安全性プロファイルは変化がないことが再確認されました。

ハラヴェン®投与群で高頻度(頻度25%以上)に認められた有害事象は、無気力(疲労感)、好中球減少、貧血、脱毛症、末梢神経障害(無感覚、手足等のしびれ)、吐き気、便秘でした。この中で、特に重篤な有害事象として報告されたのは好中球減少(発熱を伴う症例が4%、発熱を伴わない症例が2%)であります。またハラヴェン®投与中止に至った主な有害事象は末梢神経障害(5%)でした。

3. 日本で実施された第Ⅱ相試験(221試験)について

221試験は、アントラサイクリン及びタキサン系抗がん剤による前治療歴のある進行・再発乳がんの患者様を対象とした、多施設共同による非盲検の試験です。本試験では、奏効率21.3%(評価対象80例中、奏効例17例)と高い奏効を示すとともに良好な忍容性プロファイルを認めました。

4. 「ハラヴェン®(欧米製品名:HALAVEN)」(エリブリンメシル酸塩)について

「ハラヴェン®」は、新規の作用機序を有する非タキサン系微小管ダイナミクス阻害剤です。海洋生物クロイソカイメン(Halichondria okadai)から抽出されたハリコンドリン類の全合成類縁化合物であり、微小管の短縮(脱重合)には影響を与えずに伸長(重合)のみを阻害し、さらにチューブリン単量体を微小管形成に関与しない凝集体に変化させる作用を有しています。「ハラヴェン®」の合成はきわめて難度が高く、その全合成のステップ数は62工程あります。また「ハラヴェン®」の分子量は826であり、不斉炭素19個を含むため、理論的に立体異性体の数は2の19乗個、すなわち524,000 個の可能性があり、その制御が困難を極めます。しかし、当社の技術力によりそのすべての反応を立体選択的にコントロールして「ハラヴェン®」を商業的に合成することが可能になりました。

本剤は、2010年11月米国、2011年2月シンガポール、2011年3月欧州でそれぞれ承認を取得し、スイス、カナダにおいて申請中であり、アジア、ニューマーケットなど多くの国々における本剤の開発を進めています。また、より治療歴の少ない乳がん、非小細胞肺がん、肉腫、前立腺がんなど、他のがん種についても単剤での後期臨床試験が進行中です。

5. 乳がんについて

乳がんは、女性のがん疾患の中でも罹患数が多く、特に北米および欧州などの先進国で発生率が高いと言われています。日本においても、罹患率、死亡率ともに一貫して増加しており、罹患率は30 歳代から増加を始め、50 歳前後にピークをむかえるという点で、他のがんよりも切実な問題となっています。

近年、検診や早期発見の普及により、乳がんの患者様数は増加しており、毎年世界で約100 万人が新たに乳がんと診断されると考えられています。なかでも早期乳がんと診断された患者様の約40%が局所進行性または転移性乳がんへと進行するといわれています。転移性乳がんの患者様では、その5 人に1 人しか5 年生存ができないというデータがあります。米国では、毎年約20 万人の方が新たに進行性乳がんと診断され、約4 万人の患者様が乳がんでなくなられています。また欧州では、人口10 万人あたり毎年110 人が罹患し、そのうち38 人の患者様が、また日本でも人口10 万人あたり毎年33 人が罹患し、そのうち8 人の患者様が、それぞれなくなられています。そして、患者様数は年々増加傾向にあると言われており、未だアンメットメディカルニーズの高い疾患であると言えます。

6. 手術不能乳がん・再発乳がんについて

乳がんは、乳房のしこりの大きさ、乳腺の領域にあるリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無によって、8段階の病期(ステージ:0期、Ⅰ期、Ⅱa期、Ⅱb期、Ⅲa期、Ⅲb期、Ⅲc期、Ⅳ期)に分類されます。このうち、Ⅲb期、Ⅲc期、Ⅳ期は、転移などにより病変が広範囲にわたるため手術不能な乳がんとなります。また、手術など乳房の腫瘍に対する初期治療を行った後、他の臓器に転移したり(転移性乳がん)、手術した乳房の領域に再び発症した場合を再発乳がんといいます。