「HALAVEN™」が後期転移性乳がんの適応で欧州委員会より承認を取得

エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)は、このたび、当社が創製・開発した新規抗がん剤「HALAVEN™」(エリブリンメシル酸塩)が、欧州委員会(European Commission)より承認を取得した、と発表しました。本剤は、後期転移性乳がん患者様の生存期間を有意に延長する新規抗がん剤であり、「アントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤を含む少なくとも2種のがん化学療法による前治療歴のある局所進行性・転移性乳がん」患者様に対する単剤療法として承認されました。

欧州連合(European Union: EU)加盟国における医薬品の許認可は欧州委員会によって一括でなされます。すなわち、今回の決定はEU加盟の27カ国で本剤の承認が得られたことを意味します。当社は本剤を、ドイツ、英国、北欧をはじめとし、EU加盟27カ国すべてで順次発売してまいります。

「HALAVEN™」の欧州での承認は、グローバル第Ⅲ相臨床試験であるEMBRACE試験(Eisai Metastatic Breast Cancer Study Assessing Treatment of Physician’s Choice vs Eribulin E7389)の結果に基づいています。本試験のプロトコールに定められたタイムポイントでの解析では、「HALAVEN™」投与群は治験医師選択療法施行群と比較し全生存期間を2.5カ月間延長しました(全生存期間:13.1カ月 対 10.6カ月、ハザード比:0.81、p値:0.041)1)。その後、本試験の更なる進捗に伴い欧米の審査当局によって要求された最新の解析の結果、「HALAVEN™」投与群では治験医師選択療法施行群に比べて2.7カ月間の全生存期間の延長が認められました(全生存期間:13.2カ月 対 10.5カ月、ハザード比:0.81、p値:0.014)。本剤は、前治療歴のある転移性乳がん患者様において、単剤で統計学的に有意に全生存期間を延長した世界で初めてのがん化学療法剤です2)

今回の欧州委員会による「HALAVEN™」の承認によって、EU加盟27カ国の後期転移性乳がんの患者様がこの重要な新規治療薬にアクセスすることが可能となります。そして、患者様とご家族の方々にとって、共に過ごせる時間が長くなることが期待されます。

本剤は、2010年11月米国、2011年2月シンガポールにおいてそれぞれ承認を取得し、米国においてはすでに販売されています。今回の欧州委員会による承認は世界で3番目となります。また、日本、スイス、カナダでは審査当局により承認審査中です。

当社は、がん研究における意義ある革新をめざしており、前臨床探索研究ならびに臨床開発研究において、低分子有機化合物と生物学的薬剤からなる多岐にわたるがん化学療法剤、ならびに支持療法剤を創出するグローバル事業基盤を確立しています。これらの取り組みにより、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献し、当社のヒューマン・ヘルスケア(hhc)ミッションを果たしてまいります。

以上

[参考資料として、EMBRACE試験、HALAVEN™、転移性乳がんについて添付しています]

<参考資料>

1. グローバル第Ⅲ相臨床試験(EMBRACE試験)

EMBRACE試験は、多施設、無作為、非盲検、並行2群間比較試験で、HALAVEN™投与群と治験医師選択療法施行群との間で全生存期間を比較するようにデザインされました。本試験では、 2種類から5種類のがん化学療法剤(アントラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤を含む)による前治療歴のある、局所再発性あるいは転移性乳がんの患者様762名が対象となり、HALAVEN™投与群と治験医師選択療法施行群に2:1の比率で割り付けられました。治験医師選択療法施行群は、がん治療が認可された単剤化学療法、ホルモン療法、生物学的薬剤治療、または苦痛緩和治療、放射線治療と定義され、大多数(97%)の患者様は単剤化学療法を受けました。本試験解析の結果、HALAVEN™投与群は治験医師選択療法施行群と比較し全生存期間を2.5カ月間延長しました(全生存期間:13.1カ月 対 10.6カ月、ハザード比:0.81、p値:0.041)1)

また、当社は欧州と米国の審査当局からの依頼によりプロトコールの規定に加えてEMBRACE試験の結果をアップデートしました。その最新の解析データは、HALAVEN™投与群では治験医師選択療法施行群に比べて2.7カ月間の全生存期間の延長が認められました(全生存期間:13.2カ月 対 10.5カ月、ハザード比:0.81、p値:0.014)2)。このデータは2010年12月のSan Antonio Cancer Symposiumで発表され、HALAVEN™の全生存期間を延長しつつ、安全性プロファイルは変化がないことが再確認されました。

HALAVEN™投与群で高頻度(頻度25%以上)に認められた有害事象は、無気力(疲労感)、好中球減少、貧血、脱毛症、末梢神経障害(無感覚、手足等のしびれ)、吐き気、便秘でした。この中で、特に重篤な有害事象として報告されたのは好中球減少(発熱を伴う症例が4%、発熱を伴わない症例が2%)であります。またHALAVEN™投与中止に至った主な有害事象は末梢神経障害(5%)でした。

2. HALAVEN™(エリブリンメシル酸塩)について

HALAVEN™ は、新規の作用機序を有する非タキサン系微小管ダイナミクス阻害剤です。海洋生物クロイソカイメン(Halichondria okadai)から抽出されたハリコンドリン類の全合成類縁化合物であり、微小管の短縮(脱重合)には影響を与えずに伸長(重合)のみを阻害し、さらにチューブリン単量体を微小管形成に関与しない凝集体に変化させる作用を有しています。HALAVEN™の合成はきわめて難度が高く、その全合成のステップ数は62工程あります。またHALAVEN™の分子量は826であり、不斉炭素19個を含むため、理論的に立体異性体の数は2の19乗個、すなわち524,000 個の可能性があり、その制御が困難を極めます。しかし、当社の技術力によりそのすべての反応を立体選択的にコントロールしてHALAVEN™を商業的に合成することが可能になりました。

現在、新たな適応の拡大をめざし、前治療歴の少ない難治性乳がん、非小細胞肺がん、肉腫、前立腺がんなど、他のがん種についても単剤での後期臨床試験が進行中です。

3. 転移性乳がんに関して

世界中では、毎年100万人以上の女性が、ヨーロッパでは42万1000人の女性が乳がんと診断されます。当初、早期ステージの乳がんと診断された女性の約30パーセントは再発性、または転移性へと進行します。そして、初期段階の乳がんと診断された10人の女性うちの約9人は5年間以上生存されますが、最初に転移性乳がんと診断された女性では10人のうち1人しか5年以上生存されません。ほとんどの転移性乳がん患者様の生存は18-24カ月に限られるのが現状であり、高いアンメットニーズが依然として存在します。

  • 1)
    Cortes J, O’Shaughnessy J, Loesch D, et al. Eribulin monotherapy vs. treatment of physician’s choice in patients with metastatic breast cancer. The Lancet. 377, 914 (2011)
  • 2)
    C. Twelves et al. Updated Survival Analysis of a Phase Ⅲ Study (EMBRACE) of Eribulin Mesylate vs Treatment of Physician’s Choice in Subjects with Locally Recurrent or Metastatic Breast Cancer Previously Treated with an Anthracycline and a Taxane. 33rd Annual San Antonio Breast Cancer Symposium, San Antonio, TX, December 8-12, 2010, P6-14-08