抗MTBRタウ抗体etalanetugについて米国FDAよりFast Track指定を受領

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、抗MTBRタウ抗体etalanetug(エタラネタグ、一般名、開発コード:E2814)について、米国食品医薬品局(FDA)よりFast Track指定を受領しましたのでお知らせします。Fast Track指定は、アルツハイマー病(AD)などのアンメット・メディカル・ニーズの高い重篤な疾患や生命に関わる疾患に対する新たな治療法の開発を促進、加速するための制度であり、FDAとのより多くの協議の場を持つことが可能です。

 

 ADは、アミロイドβ凝集体からなるアミロイドプラーク(老人斑)およびタウ蛋白の脳内の沈着物から形成される神経原線維変化を病理上の特徴とする慢性進行性神経変性疾患です。神経変性にはアミロイドβプロトフィブリルとタウの関与があるとされています1,2,3

 

 Etalanetugは脳内タウ病理を拡散するタウ伝播種であるMTBR(Microtubule binding region:微小管結合領域)を含む特定のタウ種(MTBRタウ)を標的とする抗タウ抗体であり、当社とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとの共同研究を通じて見出されました。優性遺伝アルツハイマー病(DIAD: Dominantly Inherited Alzheimer's Disease)当事者様を対象とした臨床第Ⅰ/Ⅱ相103試験(NCT04971733)において、脳脊髄液(CSF)中のMTBRタウ種に対するetalanetugの標的結合を確認すると共に、脳内タウ病理を反映するバイオマーカーであるCSF中のMTBR-tau243の減少、ならびにタウPETの増加抑制、もしくは減少傾向を示しました。これらの結果は、DIAD当事者様の脳内で、etalanetugの投与がタウ伝播を抑制し、タウ凝集体の蓄積の増加を抑えていることを示唆しています。

 

 現在、etalanetugについて、標準治療である抗アミロイドβプロトフィブリル抗体レカネマブ(製品名「レケンビ®」)との併用で、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit:DIAN-TU)によるDIADに対する臨床第Ⅱ/Ⅲ相Tau NexGen試験(NCT05269394)、ならびに孤発性早期ADを対象とした臨床第Ⅱ相202試験(NCT06602258)が、それぞれ進行中です。

 

 アミロイドβに続きタウに対しても治療オプションの提供が可能になれば、ADの治療にさらに大きな前進をもたらすものと期待されます。

 

 当社は、神経領域を重点領域の一つと位置づけ、最先端の研究から革新的な創薬を行っており、引き続きADを含む認知症をはじめとするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患において、当事者様とそのご家族の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

 

以上

 

<参考資料>

  1. 1. 米国食品医薬品局(FDA)におけるFast Track指定について

 ファストトラック(Fast Track)とは、重篤な疾患に対する新たな治療法やアンメット・メディカル・ニーズを満たす可能性のある薬剤について、開発から審査の迅速化を目的としたものです。既存薬がない場合だけでなく、既存薬の有効性・安全性を上回ることが期待される場合も指定対象となります。ファストトラックに指定されるとFDAとの協議などを持つ機会が増え、また、臨床試験結果によっては、新薬承認申請時に優先審査(Priority Review)の指定や迅速承認(Accelerated Approval)の適用などを受ける可能性もあります。

 

  1. 2. ADタウ病理に関連するバイオマーカーについて

 ADタウ病理に関連する体液バイオマーカーとして、CSF中のタウ残基243を含むMTBRタウ(MTBR-tau243)及びタウ残基217がリン酸化されたリン酸化タウ(p-tau217)が報告されています4。また、画像バイオマーカーとして、タウ凝集体を特異的に認識する陽電子放射断層撮影(タウPET)が用いられています。これらのバイオマーカーは、Alzheimer's Associationが2024年6月に発行したRevised criteria for diagnosis and staging of Alzheimer's diseaseに収載されています5

 

 

参考文献

1: Amin L, Harris DA. Aβ receptors specifically recognize molecular features displayed by fibril ends and neurotoxic oligomers. Nat Commun. 2021;12:3451. doi:10.1038/s41467-021-23507-z

2: Ono K, Tsuji M. Protofibrils of Amyloid-β are Important Targets of a Disease-Modifying Approach for Alzheimer's Disease. Int J Mol Sci. 2020;21(3):952. doi: 10.3390/ijms21030952. PMID: 32023927; PMCID: PMC7037706.

3: Hampel H, Hardy J, Blennow K, et al. The amyloid pathway in Alzheimer's disease. Mol Psychiatry. 2021;26(10):5481-5503.

4: Horie K, et al. CSF MTBR-tau243 is a specific biomarker of tau tangle pathology in Alzheimer's disease. Nat Med. 2023. 29. 1954-1963

5: Jack Jr. CR, et al. Revised criteria for diagnosis and staging of Alzheimer's disease: Alzheimer's Association Workgroup. Alzheimers Dement. 2024. 20. 5143-5169