筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する高用量メコバラミン製剤の医師主導治験の結果を踏まえて、日本における新薬承認申請に向けた作業を開始

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、国立大学法人徳島大学(以下、徳島大学)の梶龍兒特命教授(主任研究者)、徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床神経科学分野 和泉唯信教授(治験調整医師)らの研究チームが発表した、発症早期の筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis: ALS)患者様に対する高用量メコバラミンの有効性、安全性の検証を目的とした「高用量メチルコバラミン(メコバラミン)の筋萎縮性側索硬化症に対する第Ⅲ相試験-医師主導治験-」(The Japan Early-Stage Trial of Ultrahigh-Dose Methylcobalamin for ALS: 以下、JETALS)の良好な臨床試験結果を受けて、メコバラミン(開発コード:E0302)の高用量製剤について、日本におけるALSに対する新薬承認申請に向けた作業を開始しましたのでお知らせします。2022年3月に本剤の希少疾患用医薬品指定申請を厚生労働省に提出し、2023年度中の新薬承認申請を予定しています。

 

 高用量メコバラミンについて、当社は、ALSに対する臨床第Ⅱ/Ⅲ相試験(761試験)を実施し、その結果を基に2015年5月に新薬承認申請を行いましたが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)より、申請パッケージが不十分であるとの見解が示され、2016年3月に承認申請を取り下げていました。

 

 一方、761試験の追加解析において、ALS発症後12カ月以内に治療を開始したALS患者様に対する高用量メコバラミンの生存期間延長効果と進行抑制効果が示唆されたことから、発症1年未満のALS患者様を対象として高用量メコバラミンの有効性・安全性を再検証するため、日本医療研究開発機構(AMED)の支援により、徳島大学を主体とする研究チームによる医師主導治験としてJETALSが実施されました。その結果、高用量メコバラミンの有効性、安全性および忍容性が確認され、このたび本試験結果が査読学術誌JAMA Neurologyで発表されました。JETALSの結果を踏まえ、当社は、徳島大学と協議の上、日本における高用量メコバラミンのALSに対する承認申請を改めて行うことを決定しました。

 

 当社は、神経領域を重点疾患領域と位置づけており、新たな薬剤の開発に注力しています。神経領域におけるアンメット・メディカル・ニーズの充足と患者様とそのご家族のベネフィット向上により一層貢献してまいります。

 

以上

 

<参考資料>

1.   筋萎縮性側索硬化症(ALS)について

 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis: ALS)は、運動ニューロンの障害により重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたす進行性の難治性神経変性疾患です。呼吸筋の麻痺による呼吸不全が主たる死亡原因であり、人工呼吸器を装着しなければ発症後約3∼6年以内に死に至る疾患で、患者様数は10,514人です(ALS の令和 2年度特定医療費(指定難病)受給者証所持者数)。現在、ALSの確立された根治療法はなく、国内外で承認されている薬剤は限られており、アンメット・メディカル・ニーズが極めて高い難病です。

 

2.   メコバラミンについて

 メコバラミン(開発コード:E0302)は、メチコバール®注射液500µgとして末梢性神経障害およびビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血の適応で承認・販売されています。また、内服錠、細粒剤が末梢性神経障害の適応を有しています。メコバラミンのALSの病態における作用機序については解明されていませんが、非臨床研究の結果から、神経保護作用、神経軸索再生作用により有効性を示す可能性が示唆されています。1990年代より厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業の神経変性疾患に関する研究班において、ALSに対する高用量メコバラミンの臨床研究が実施されました。メチコバールとしての承認用量の50倍∼100倍量である1回25mg∼50mgのメコバラミンの筋肉内投与による短期及び長期試験において、高用量メコバラミンがALSに対して臨床効果を示す可能性が示唆され、当社は2006年より臨床第Ⅱ/Ⅲ相試験(761試験)を実施し、2015年5月にPMDAに新薬承認申請を行いましたが、追加試験が必要との判断により、2016年3月に新薬承認申請を取り下げました。