アルツハイマー病(AD)治療薬であるアミロイドを標的とするモノクローナル抗体に関する米国メディケア・メディケイド サービスセンターのNational Coverage Determination案に対する当社の正式見解を提出

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役 CEO:内藤晴夫)は、米国子会社であるエーザイ・インクが、米国メディケア・メディケイド サービスセンター(CMS)が2022年1月11日に公開したアルツハイマー病(AD)に対するアミロイドを標的とするモノクローナル抗体(抗Aβ抗体)のNational Coverage Determination案(メディケア保険カバレッジに対する方針案)について、Coverage with Evidence Development(CED:エビデンス構築を目的とした臨床試験での使用に対してのみ保険でカバーをすること)の適用を最終決定せず、各薬剤のデータに基づいて当事者様のアクセスを認めるように求める正式見解を2月9日(米国時間)にパブリックコメントとして提出したことをお知らせします。当社は、このCEDの適用により過度に制限されたNCD案はADコミュニティに極めて大きな影響を与えるものであると憂慮しており、AD当事者様とそのご家族、医療従事者の皆様とともに、当該クラスの薬剤に対するCEDの適用に強い反対を表明します。当社が反対を表明する主な理由は以下の通りです。

 

CEDは当事者様のアクセスを制限し遅延させます 

    • 本CEDの適用は、日々病気が進行していくAD当事者様の薬剤へのアクセスを著しく制限し、状況をさらに深刻化させます。このことは、AD当事者様、特に最も弱い立場におられ十分な医療サービスを受けていないコミュニティの人々がFDAによって承認された薬剤にアクセスすることを将来にわたって制限し、遅延させ、そして拒否することを意味します。

    • 本CEDが適用された場合、CMSが承認した無作為化比較臨床試験(RCT)および米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受けた臨床試験に参加した場合のみ保険でカバーされます。すなわち、メディケア加入者は、FDAの承認基準を満たすためにこれまで実施してきた広範な臨床試験とは別に求められる、CMSの承認する臨床試験に参加しない限り、当該クラスの薬剤の使用は保険でカバーされず、ほとんどの当事者様は治療を受けることができません。

    • さらに、この無作為化比較臨床試験に参加する当事者様のうち、FDA承認薬剤を投与されるのは半数に過ぎません。残りの半数の方々には、プラセボまたは現在の標準的な治療法(ADの根本病理に作用する治療ではなく、症状に対する治療または生活習慣の改善や運動による予防)を受けることになります。

CEDの適用はFDAプロセスと重複し、意図しない結果をもたらす前例となります

    • 当社は、長年にわたり当事者様のベネフィットのために運用され、科学的に厳密な迅速承認制度の意義を損なう形でCEDが適用され、イノベーションを評価するFDAの役割を法的権限や科学的専門性もなく侵害することに深刻な懸念を抱いています。

    • 今回のNCD案は、深刻な疾患であるADについて、迅速承認制度の下で承認された治療薬の保険カバレッジを制限し、がんやHIV/AIDSなどの疾患に比べADの当事者様を差別するものです。

    • 当社は、今回のCMSの判断が他の疾患領域でも前例となり、医薬品開発全体の研究を萎縮させるという意図しない結果やリスクを考慮するべきであると考えます。

    • 当社は、今回のNCD案が、FDAの安全性と有効性を評価し判断する役割や規制上の自律性、科学的独立性に対して、法的根拠もなく疑問を呈し、当事者様のアクセスに対する新たな法定外の障壁となることを懸念しています。

CED適用の提案は、臨床的エビデンスに関する科学的および分析的な限界があります

    • 当社は、CMSのアプローチは科学的根拠に基づいていないと考えています。同じ作用機序を持つ当該クラス内のすべての薬剤が同等であるとの仮定は正しくありません。今回の提案は、bapineuzumabやsolanezumabといった第一世代の抗Aβ抗体の過去に失敗した臨床試験結果の評価から推定して、同様の作用機序を有するFDA承認薬剤および将来の当該クラスのすべての薬剤への当事者様のアクセスを制限しようとしており、FDAの判断や現在蓄積されつつある多くの関連するエビデンスは考慮されていません。

    • CMSが検討した臨床的エビデンスや、CEDを推奨するために米国国立老化研究所(NIA)が行ったシステマティックレビューやメタ解析には、科学的・分析的に大きな限界があります。

    • 特に、このNCD案におけるエビデンスレビューでは、最近の抗Aβ抗体による臨床第Ⅱ相試験において確実な脳内アミロイド除去が観察され、アミロイドが臨床的有用性を予測する合理的なサロゲート(代替指標)であることが支持されていることが考慮されていません。

CEDは開発中の薬剤に適用されるべきではありません

    • 今回のCEDによる過度な制限は、臨床試験中あるいはまだ創製されていない新規薬剤をも含む、すべての抗Aβ抗体医薬品への通常のアクセスを、何年も遅らせることになります。FDAの承認前に、開発中のこれらの医薬品候補への当事者様のアクセスを厳しく制限する決定を行うことは間違っており、法的に根拠がないと考えています。

    • 当社は、CMSが、我々が開発中のヒト化モノクローナル抗体レカネマブについて、臨床第Ⅱb相試験のデータに基づく有効性と臨床上のプロファイルおよびヘルスケアシステムにもたらす潜在的価値に基づき保険適用を提供すべきであると強く確信しています。レカネマブは、臨床第Ⅱb相無作為化対照臨床試験および非盲検継続投与試験において、確実な脳内アミロイドプラークの除去と、複数の臨床的評価項目で一貫した臨床症状悪化の抑制を示しました。臨床第Ⅱb相試験における、脳内アミロイドプラーク除去の程度と臨床エンドポイントに対する効果との相関は、アミロイドが臨床的ベネフィットを予測する代替エンドポイントになり得ることを示唆しています。

    • レカネマブにCEDを適用する科学的根拠はありません。Clarity AD試験は、早期AD当事者様におけるレカネマブの有効性と安全性を確認する臨床第Ⅲ相検証試験であり、その結果は、本NCDの最終決定からわずか数カ月後に報告される見込みです。

    • さらに、本NCD案において、臨床試験における被験者様の多様性確保が要請されていますが、Clarity AD試験の米国における登録者数の約25%は、アフリカ系およびヒスパニック系アメリカ人の早期AD当事者様であり、これは米国のメディケア加入者の多様性の比率を反映しています。

    • FDAは、レカネマブの脳内アミロイドベータの減少および臨床症状悪化抑制に対する効果を観察した臨床第Ⅱb相試験およびその継続投与試験から得られた知見に基づき、2021年6月にレカネマブに対してBreakthrough Therapy指定を行いました。2021年9月、当社は、迅速承認制度に基づき、レカネマブについて、アミロイド病理が確認された早期ADの治療薬として、FDAに対する生物学的製剤承認申請(BLA)の段階的申請を開始しました。2021年12月、FDAはレカネマブに対してファストトラック指定を行いました。BLAの段階的申請は、2022年度第1四半期に完了する予定です。

CMSは本NCDを2022年4月に最終決定する予定です。当社の正式なコメントの全文は、こちらをご覧ください。

 

以上