抗がん剤「タズベリク®錠200mg」(一般名:タゼメトスタット臭化水素酸塩)
日本においてEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫に係る効能効果で製造販売承認を取得

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、EZH2阻害剤「タズベリク®錠200mg」(一般名:タゼメトスタット臭化水素酸塩)について、「再発又は難治性のEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」の効能効果で日本における製造販売承認を取得したことをお知らせします。

 

 本承認は、当社が国内で実施した多施設共同、非盲検、単群の臨床第Ⅱ相試験(206試験)1およびEpizyme, Inc.(本社:米国マサチューセッツ州)が海外で実施した臨床試験2の結果などに基づいています。206試験では、前治療後に再発・増悪したEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫患者様などが登録され、主要評価項目として奏効率(Objective Response Rate: ORR)、副次評価項目として安全性などが評価されました。本試験における再発または難治性のEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫患者様(17人)の独立判定によるORRは、76.5%(90%信頼区間(CI): 53.9-91.5)であり、事前に設定した閾値奏効率を統計学的に有意に上回り、主要評価項目を達成しました。また、本試験で認められた主な有害事象(Treatment-emergent adverse events、発現率25%以上)は、味覚異常(52.9%)、上咽頭炎(35.3%)、リンパ球減少症(29.4%)および血中クレアチンホスホキナーゼ増加(29.4%)でした。なお、「タズベリク」の承認条件に従い、製造販売後、一定の症例数に達するまでの間、投与された全ての患者様を対象に特定使用成績調査(全例調査)を実施します。

 

 「タズベリク」は、Epizyme, Inc.の創薬プラットフォームを活用して創出されたファースト・イン・クラスの経口EZH2阻害剤です。本剤は、エピジェネティクス関連タンパク質群のうち、ヒストンメチル基転移酵素の一つであり、発がんプロセスに関与するEZH2を選択的に阻害することでがん関連遺伝子の発現を制御し、がん細胞の増殖を抑制すると考えられています3。本剤の開発および商業化は、日本では当社が、それ以外の地域ではEpizyme, Inc.が担っています。米国においては、類上皮肉腫に係る適応で2020年1月に迅速承認され、濾胞性リンパ腫に係る適応については同年6月に迅速承認されています(参考資料1)。

 

 濾胞性リンパ腫は非ホジキンリンパ腫の10~20%を占める低悪性度B細胞リンパ腫です。濾胞性リンパ腫は一般的に進展が緩徐であり、化学療法の感受性は良好です。しかし、再発を繰り返すことが多いことから依然として治癒が困難な疾患であり、新たな治療戦略が求められています。濾胞性リンパ腫のうち、7~27%がEZH2遺伝子に機能獲得型変異を有すると報告されていることから4,5、国内の濾胞性リンパ腫患者様のうち、約600~2,400人が当該変異を有していると推定されます。EZH2遺伝子変異検出のためのコンパニオン診断薬としてロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(本社:東京都)の「コバス® EZH2 変異検出キット」が2021年5月に承認されています。

 

 当社は、日本において「タズベリク」をEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫治療の新たな選択肢としてお届けすることで、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

 

以上

 

 

<参考資料>

1.「タズベリク錠200mg」(一般名:タゼメトスタット臭化水素酸塩、開発品コード:E7438、Epizyme, Inc.の開発品コード:EPZ-6438)について

「タズベリク」は、EZH2を標的とするファースト・イン・クラスの経口低分子阻害剤です。当社とEpizyme, Inc.は、2011年3月に締結したEZH2を標的とする研究・開発・販売に関する提携契約に基づき、Epizyme, Inc.が独自に持つ創薬プラットフォームを活用して共同で研究開発を行ってきました。本剤はEZH2を選択的、かつS-アデノシルメチオニン(メチル基供与体)と競合的に阻害することでH3K27のメチル化を抑制し、がん関連遺伝子の発現を制御します。2015年3月の両社における提携契約の変更により、本剤の開発および商業化は、日本では当社が、それ以外の地域ではEpizyme, Inc.が担っています。
 本剤の日本の生産サイトである川島工園(岐阜県)では、革新的な医薬品製造技術である連続生産(Continuous Manufacturing)の技術開発に成功し、生産に適用しています。連続生産は、製造の自動化や品質のリアルタイムモニタリング技術を融合することによって医薬品の品質向上と安定供給に寄与し、省スペース、省エネルギーで高い生産効率を達成できる環境負荷の少ない新医薬品製造方法として注目されている技術です。当社は、連続生産システム(CTS-MiGRA)をいち早く導入し、本技術を本剤の生産に適用しました。
 米国では2020年1月に「成人または16歳以上の小児における根治切除不適応の転移性または局所進行性類上皮肉腫」の適応で迅速承認を受けています。また、同年6月には、「少なくも2レジメン以上の前治療歴があり、FDAが承認したEZH2遺伝子変異の検査で陽性と診断された成人の再発・難治性の濾胞性リンパ腫」、および「他に治療手段がない成人の再発・難治性の濾胞性リンパ腫」の適応で迅速承認を受けています。

2.エピジェネティクスについて

エピジェネティクス(epigenetics)とは、遺伝子機能の後天的な活性化・不活性化のための機構の一種で、DNAの塩基配列の変化を伴わずに細胞分裂後も継承される遺伝子機能の変化のしくみ、またはそれを研究する学問領域を指します。遺伝子発現の制御につながる修飾として、DNAのメチル化や、ヒストンタンパクの修飾(メチル化、アセチル化、リン酸化等)が挙げられます。

3.EZH2について

EZH2は、エピジェネティクス関連タンパク質群のうちヒストンメチル基転移酵素に属し、ヒストンタンパクH3の27番目のリジン残基(H3K27)のメチル化を特異的に触媒することで種々の遺伝子発現を制御します。EZH2遺伝子の機能獲得型変異や過剰発現、あるいはEZH2抑制因子の機能不全によるH3K27のメチル化の亢進が発がんおよび腫瘍増殖に重要な役割を担っていると考えられています。

  • 1

    Shinya Rai, et al. Phase 2 Study of Tazemetostat in Japanese patients with Relapsed or Refractory EZH2 mutation-positive B-cell Non-Hodgkin’s Lymphoma. AACR Meet. 2021, CT176.

  • 2

    Franck Morschhauser, et al. Tazemetostat for patients with relapsed or refractory follicular lymphoma: an open-label, single-arm, multicentre, phase 2 trial. The Lancet Oncology. 2020 Nov; 21(11):1433-1442.

  • 3

    Sarah K. Knutson, Satoshi Kawano, Yukinori Minoshima, et al. Selective Inhibition of EZH2 by EPZ-6438 Leads to Potent Antitumor Activity in EZH2-Mutant Non-Hodgkin Lymphoma. Molecular Cancer Therapeutics. 2014 Apr; 13(4):842–854.

  • 4

    Csaba Bödör, et al. EZH2 mutations are frequent and represent an early event in follicular lymphoma. Blood, 2013 Oct; 122(18), 3165-3168.

  • 5

    Ryan D. Morin, et al. Somatic mutation of EZH2 (Y641) in Follicular and Diffuse Large B-cell Lymphomas of Germinal Center Origin. Nature Genetics. 2010 Feb; 42(2):181–185.