TLR4拮抗剤エリトランおよび抗FKN 抗体E6011を用いたCOVID-19治療薬の開発を目指す産学官共同研究開発契約を締結し、非臨床研究活動を開始AMED「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発」に係る公募に採択

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)は、このたび、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施する、令和2年度 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発」(課題番号:20fk0108255)に係る公募(2次公募)において、エーザイを代表機関とする研究開発プロジェクト「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を阻止する治療薬の開発」が採択され、4つの分担研究機関(株式会社  カン研究所、国立研究開発法人国立国際医療研究センター、国立大学法人長崎大学、公立大学法人横浜市立大学)とともに共同研究を開始しましたのでお知らせいたします。

 

 SARS-CoV-2感染によるCOVID-19患者様では、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)やそれに引き続く多臓器不全などにより重症化する例が報告されています。この重症化の過程においては、血管障害の形成と増悪、さらにはサイトカインストーム*の関与が想定されています。しかし現時点では、SARS-CoV-2感染に基づく重症化のメカニズムが十分に解明されているわけではありません。

 

 本共同研究ではSARS-CoV-2感染非臨床動物モデルの構築と、既に治験実績のあるエーザイ創製のTLR(Toll-Like Receptor)4拮抗剤エリトランおよびエーザイの研究子会社である株式会社カン研究所創製の抗FKN (フラクタルカイン)抗体E6011の薬効評価を行います。また、SARS-CoV-2感染患者由来の臨床サンプルを用いたバイオマーカー探索を推進します。本共同研究を通じてSARS-CoV-2感染に基づくCOVID-19重症化のメカニズムの解明と、重症化を未然に防ぐ薬剤の創出を目指します。

 

 当社は、COVID-19拡大との闘いにおいて、ヒューマン・ヘルスケア (hhc )理念のもと、治療薬開発、医薬品の安定供給、ならびに各国における支援活動等を継続してまいります。

 

* サイトカインストーム:免疫反応を活性化させる役割を担うサイトカインの産生が制御不能となって大量に放出され、免疫が暴走する状態

  

以上

    

<参考資料>

1. TLR4とエリトラン(E5564)について

 TLR(Toll-Like Receptor)は自然免疫系に関わる分子であり、病原体の持つ特定の分子の構造を認識する受容体として機能しています。TLRが活性化すると、自然免疫が誘導され炎症反応や抗ウイルス応答が起こり、病原体を排除するとされています。多様なTLRファミリーメンバーのうち、TLR4は細菌から放出されたリポ多糖などのエンドトキシンをリガンドとして活性化されます。エリトランは、エンドトキシンの活性本体であるLipid Aの化学構造アナログで、天然物有機合成技術を駆使した、エーザイ創製のTLR4拮抗剤です。重症敗血症の治療薬として開発され、大規模な臨床第Ⅲ相試験を含む14の臨床試験でその安全性プロファイルは確認されています。また、エリトランはマウスインフルエンザウイルス感染モデルにおけるサイトカインの産生抑制と全身症状の改善効果を有することが示されています1。サイトカインストームの原因となる多種のサイトカイン産生シグナルの最上流に位置するTLR4の活性化を阻害することで、COVID-19における炎症や重症化2,3を抑えることが期待されます。

 また、国際臨床試験「REMAP-COVID」において、エリトランが中等度のCOVID-19感染入院患者様の治療薬候補として選定されています。

 

2. FKNとE6011について

 FKN(フラクタルカイン)は、炎症時に血管内皮細胞などに誘導される、細胞遊走因子と接着分子の2つの機能を併せ持つケモカインです。FKNの受容体であるCX3CR1は主に単球やマクロファージ、キラーリンパ球に選択的に発現し、これら細胞の炎症部位への効率的な集積に重要な役割を果たします。FKN-CX3CR1系は、炎症性腸疾患、関節リウマチ、肝疾患、中枢性疾患、動脈硬化、皮膚疾患など多くの慢性炎症性疾患の病態への関与が示唆されています。E6011は、エーザイの研究子会社である株式会社カン研究所において創製された、世界初のヒト化抗FKNモノクローナル抗体です。E6011はFKNに対する中和活性を有し、従来のサイトカイン療法とは異なる、新規メカニズムによる細胞浸潤抑制を機序としています。現在、クローン病患者様を対象とした臨床第Ⅱ相試験を当社消化器事業子会社であるEAファーマ株式会社が実施しています。E6011は、局所炎症応答に重要なCD16陽性単球(CX3CR1を高発現する細胞集団)の血管内皮細胞への強固な結合を阻害し4、COVID-19における血管障害の形成と増悪5を抑制することが期待されます。

 

1 KA Shirey et al., Nature. 2013 May 23; 497(7450):498-502

2 P Mehta et al., The Lancet 2020; 395: 1033-1034

3 C Huang et al., The Lancet 2020; 395: 497-506

4 Y Kuboi et al., Int Immunol. 2019 Apr 26;31(5):357

5 H Li et al., The Lancet 2020; 395: 1517-1520