アルツハイマー病協会国際会議2019(AAIC2019)のセッションおよびシンポジウムにおけるアルツハイマー病治療の最新動向について

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、2019年7月14日から18日まで米国カリフォルニア州ロサンゼルスで開催されたアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference: AAIC)2019において、AAIC主催の経口βサイト切断酵素(BACE)阻害剤の臨床試験における課題とその可能性を議論するセッションにおいて、BACE阻害剤エレンベセスタット*を含めた薬物治療について、発表や議論が行われたことをお知らせします。また、当社主催の無症状期アルツハイマー病(プレクリニカルAD)における薬物開発の科学的裏付けおよび可能性についてフォーカスを当てたシンポジウムも開催されました。

   

1.AAIC’s Focused Topic Session(BACE阻害剤の臨床試験における課題とその可能性)

 本セッションでは、各社が保有するBACE阻害剤について、それぞれ発表がありました。当社からは、エレンベセスタットについて、これまでの非臨床および臨床試験から得た知見、ならびに臨床試験の状況について総括的なプレゼンテーションを行いました。

   

  • 非臨床試験の結果、エレンベセスタットは、脳脊髄液(CSF)中アミロイドベータ(Aβ)レベルを有意に低下させる用量において、認知機能悪化と関連するスパイン密度低下およびミトコンドリア機能障害へ有意な影響はない。
  • 早期ADを対象としたグローバル臨床第Ⅲ相試験(MISSION AD1/2)について、直近に開催された独立安全性データモニタリング委員会で、6カ月以上投与された900人以上における認知機能の推移を含めた安全性データのレビューが行われ、本試験の継続が推奨されている。
  • 臨床第Ⅱ相試験(202試験:アミロイドPET陽性のADに伴う軽度認知障害および軽度から中等度のAD患者様を対象)では、エレンベセスタット全50mg投与群ではプラセボ投与群に対し、投与18カ月時点におけるアミロイドPETによる脳内アミロイドの蓄積量について、統計学的に有意な脳内アミロイド蓄積量の減少が認められた。
  • 202試験において、エレンベセスタット全50mg投与群はプラセボ投与群と比較して、CDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)およびADCOMS(Alzheimer’s Disease Composite Score)の18カ月時点における臨床症状のスコア変化量について、悪化抑制が観察された。エレンベセスタットは、良好な忍容性が示唆された。
  • Alzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)によって実施予定のADのプライマリープリベンション(A3試験)およびセカンダリープリベンション(A45試験)の評価対象薬剤として選択され、2020年にスクリーニング開始をめざす。

   

2.エーザイ シンポジウム(プレクリニカル(無症状期)ADに対する標的治療)

 本シンポジウムでは、アカデミアの第一線研究者からアルツハイマー病の定義、Aβ蓄積過程、早期治療への課題と期待についてのプレゼンテーションが行われ、活発な議論が行われました。

   

 ADの原因物質であるAβの脳内蓄積は、ADにおける記憶症状発症の10~20年前に始まることから、ADは症状ではなく病理に基づいた診断と分類が必要となっていました。最新のAD分類システムであるATN(A:アミロイド、T:タウタンパク質、N:神経変性/神経損傷)では、ADの病理は連続性を持って変化する疾患であるとの概念が解説され、バイオマーカー(血液、CSF、イメージング)技術の進展で、プレクリニカルADをはじめとするADの疾患ステージの判定が可能になってきた現状が紹介されました。これらの診断技術の進展により、プレクリニカルADの段階で治療介入が可能となってきたことが示されました。アミロイド病理に基づく標的治療による毒性Aβ種の産生抑制は、ADの疾患修飾療法の開発における合理的なアプローチであるとされました。

 また、今後の試験デザインの革新、併用療法を含む複数薬剤の活用および簡便な血液診断の確立への期待が議論されました。

   

   

 当社は、アルツハイマー病/認知症領域分野における35年以上の創薬活動の経験を基盤に、包括的なアプローチによる創薬研究を通じて、認知症の予防と治癒の実現をめざしています。革新的な治療薬を一日も早く創出し、アンメット・メディカル・ニーズの充足と患者様とそのご家族のベネフィット向上に、より一層貢献してまいります。

   

以 上

   

   

* エレンベセスタットについて、バイオジェン・インク (本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、以下 バイオジェン)と共同で開発しています。

   

   

<参考資料>

1. エレンベセスタット(一般名、開発コード:E2609)について

 エレンベセスタットは、次世代経口アルツハイマー病(AD)治療剤として開発しているエーザイ創製のBACE(βサイト切断酵素)阻害剤です。エレンベセスタットはAβ産生に関する重要な酵素であるBACEを阻害することにより、Aβの産生を低下させ、脳内のアミロイドプラーク形成を減少させることにより、ADの進行を抑制する疾患修飾作用が期待されています。現在、早期ADを対象とした2つのグローバル臨床第Ⅲ相試験(MISSION AD1/2)が進行中です。本剤の米国での開発については、重篤な疾患に対する新たな治療法や重要なアンメット・メディカル・ニーズを満たす可能性のある薬剤として、米国食品医薬品局(FDA)が迅速に審査するファストトラック指定を受けています。

   

2. エーザイとバイオジェンによるアルツハイマー病領域の提携内容について

 エーザイとバイオジェンは、アルツハイマー病治療剤の共同開発・共同販売にする提携を行っています。抗Aβプロトフィブリル抗体BAN2401とBACE阻害剤エレンベセスタットについてはエーザイ主導のもとで、グローバルでの承認取得に向けた開発を進め、承認取得後は米国、欧州(EU)、日本といった主要市場で共同販促を行います。BAN2401とエレンベセスタットについて、両社は研究開発費等の費用を折半し、共同販促に基づく売上高はエーザイに計上され、利益は両社で等しく分配します。