マイセトーマ患者様との交流とケニアの実情をレポートします!ケニア出張記

2026年1月30日掲載

エーザイ株式会社 サステナビリティ部ディレクターの中野今日子は、マイセトーマの治療薬開発の戦略会議への参加とマイセトーマ患者様らの診療現場視察のため、当社で長くグローバルヘルスに携わった畑桂と共に、2025年10月にケニアを訪れました。日本で報道されるニュースを通じてアフリカの光景は目にしていたものの、実際に訪問すると印象や認識が各段に違います。「現地に足を運ぶ意味を再認識する出張となった」と語る中野のレポートです

マイセトーマ治療薬開発 プロジェクトリード

中野 今日子(サステナビリティ部ディレクター、獣医学博士)

東アフリカに位置するケニアは、人口は約5,600万人を超え、国土面積は日本の約1.5倍、赤道が国土を二分し、東はソマリア、北はエチオピアと南スーダン、西はウガンダ、そして南はタンザニアと隣接しています。国の西部に、地形や気候の多様性を生み出す大地溝帯(アフリカ大陸を南北に縦断する巨大な谷)が走り、その最も北側に位置するトゥルカナ湖周辺が今回の訪問先です。最高峰のケニア山(5,199 m)は、アフリカ大陸では2番目に高い山です。40以上の民族が存在し、主に英語とスワヒリ語が使われています。

首都ナイロビは大都市で高層ビルが立ち並んでいます。

一日目はパートナーのDNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative:顧みられない熱帯病などの治療薬の研究開発に取り組む非営利団体)とともに、ナイロビにあるKEMRI(The Kenya Medical Research Institute:ケニア医学研究所)を訪問しました。KEMRIは1979年に設立された国立の研究機関で、現在ではアフリカのみならず世界でも有数のマラリア研究等の研究拠点となっています。KEMRIは、日本のJICA(Japan International Cooperation Agency:独立行政法人国際協力機構)も設立を支援し、技術協力、研究員の日本への派遣などの協力を継続しています。敷地内には長崎大学の熱帯医学研究所のケニア拠点もあります。多くの研究関係者がここに集い、日々研究に励んでいます。

KEMRIおよびDNDiの皆さんと

施設は設備が整い、関係者の皆さんとのお話を通じてケニアの人々の健康を守り社会および国に貢献するという使命感、誇りと情熱、熱意が強く伝わってきました。ケニアは、KEMRIを含め今後のマイセトーマプロジェクトの研究協力施設の候補が複数あります。

二日目は早朝に飛行機でナイロビを発ち、トゥルカナ州の州都ロドワールにある州立病院を訪問しました。DNDiのマイセトーマ戦略を統括するボルナ医師、ケニアでDNDiが実施中の疫学調査の主任研究者、病院関係者らが同行しました。

トゥルカナ州到着後、ロドワール州立病院に車で向かう途中、徐々に緑が減り、茶色い土がむき出しの土地の割合が増えていきました。暑く乾燥した地域で、住人の多くは牧畜を生業とし、家畜と共に移動する遊牧生活を送っています。主な家畜は山羊で、たまにロバ、富の象徴でもあるラクダなどを見かけました。トゥルカナ州は貧困率が約8割とケニアで最も高く、無職の人も少なくないそうです。

ロドワール州立病院は、州唯一の基幹病院で、州全土、ときには隣国からも患者様が来るそうです。より小規模な医療施設は州に点在するものの、住人の居住場所から遠いことが多く、また遊牧生活を送る人々の治療継続や経過を追う難しさなどを抱えています。入院病棟、手術病棟や回復室には人が溢れ、子供の割合も高かったです。

この日、3人のマイセトーマ患者様とお会いしました。皆さんは病院から遠方にお住まいのため、通院には時間がかかり、仕事を持つ人は休暇を取る必要があります。現地ではマイセトーマのような疾患に対する偏見があり、それはときに家族から向けられることもあります。トゥルカナ湖の泥を患部に塗り込むなど、西洋医学の観点からは必ずしも適切ではないと考えられる伝統医療の施術を過去に受け、それにより症状が悪化したと考えられる人もいました。

マイセトーマの感染経路は十分に解明されていないのが現状ですが、一部はアカシアなどの植物の棘が刺さることにより、環境中の病原体が体内に入ることが原因とされています。一人の患者様は、足裏にできた強い痛みを伴うできもの(この時点ではマイセトーマではないと推察される)を、アカシアのトゲで除去しようとし、その数か月後から足が腫れだしたとのことで、自ら知らぬうちに棘の病原体を体内に接種してしまった可能性も考えられます。十分な疾患啓発が行き届いていれば、防ぐことができたケースだったかもしれません。

病巣が大きくなると痛みも生じるため、歩くことをはじめ、様々な動作が難しくなります。家畜を放牧する生活において、歩くのが困難になることは、生活の糧を失うことを意味します。さらには交通手段の限られた現地において、足に痛みを抱えた状態での通院は困難を伴い、生活の楽しみであるコミュニティの様々な催しへの参加も難しくなります。マイセトーマが原因で離婚された方、また精神的に苦痛を抱え自殺未遂を図った方もいるという現実を知り、この疾患が個人や地域に与える影響の大きさを目の当たりにしました。無理なく治療ができていれば、彼ら・彼女らの人生もまた違ったものになっていたはずです。医療にすぐ手の届く我々の状況とはかけ離れた生活を実感した一日でした。

お会いした患者様と患部の様子

三日目はロミル診療所を訪問しました。ロミル診療所は、主要道路から舗装されてない道を10 km以上車で走ってようやく到着する、乾いた土地にポツンとある小さな診療所です。周囲には、家畜やその糞が散在し、また、地面には靴底のゴムにも刺さる様なアカシアの棘が至る所に落ちており、裸足やサンダルで歩くには注意が必要だと思われました。
ロミル診療所にはこの日マイセトーマの疑いを含む7名の方々が来院され、前日に続き、患者様の置かれた厳しい状況を知るに至りました。マイセトーマには細菌性のものと真菌性のものとがあり、細菌性マイセトーマはきちんと治療すれば根治可能な抗菌薬があるのですが、足の痛みで通院できず悪化させてしまったと推測されたケース、途中で薬を飲むことを止めてしまったケース、細菌性か真菌性か診断されていない状況のまま、処方箋なしに抗菌薬を購入して飲んだというケースなどに遭遇しました。医師の診断・処方なしに自己判断で薬を飲むことは耐性菌の発生を防ぐ観点でも避けるべき行為であり、ここでも啓発の重要性が認識されました。

診療所と周囲の様子

ケニア出張を終えて

マイセトーマ患者様は、医療アクセスの面で大変厳しい状況にありました。交通手段が限られ、牧畜生活で歩くことの多い生業、濃密な人間関係や集団生活などの文化的背景から、罹患したことで多くの生活面での苦労や精神的苦痛を背負うことになります。一人ひとりの患者様のおかれた厳しい状況と先の見えない不安に接し、マイセトーマがもたらす影響が想像を上回る大きさであることが、深く印象に残りました。今回の訪問により、マイセトーマを理解し対策を考える際には、疾患の特性だけでなく、その患者様が住んでいる文化や社会的背景を含めて理解することの重要性について改めて気づかされました。同時に、適切な知識や医療に繋ぐため、患者様自身や地域の方への疾患啓発の必要性を認識しました。治療して病気を治し、より良い生活を送りたいという患者様の強い想いに触れ、我々のできることを、少しずつでも、何とかやり遂げたいという思いを新たにしました。

ケニア滞在中、出会う人々に日本から来たと伝えると、これまでの援助に対する感謝や日本製品への信頼をもって歓迎されたことは印象的でした。患者様のために解決すべき課題は多いですが、様々な立場の関係者がしっかり連携し、検討を重ねていくことが重要です。DNDiをはじめとする多くの関係者の皆様のご支援に、心より感謝いたします。今後も当社のhhc理念に基づき、この分野への取り組みを継続し、世界のより良い医療や将来への礎としていきたいと思います。 
 

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