がん

1987年、当社はがん領域の研究に初めて着手しました。現在まで、数多くの試行錯誤を重ねながら当社独自のナレッジを蓄積し、エリブリン(製品名:「ハラヴェン®」)、レンバチニブ(製品名:「レンビマ®」)などの抗がん剤の創出につなげてきました。これらの独自ナレッジに加えてパートナーシップを活用して、イノベーション創出の効率化を図り、引き続き、がん患者様の健康憂慮の解消に向けて取り組んでいます。

当社は、「がん領域」を戦略的重要領域の一つとし、Deep Human Biology Learning創薬体制のもと、Human Biologyに基づき、「がん微小環境」「タンパク質恒常性破綻」「細胞系譜と細胞分化」「細胞老化を伴う炎症、低酸素、酸化ストレス」などの創薬領域(ドメイン)における抗がん剤の研究開発にフォーカスしています。これらのドメインから新たな標的分子や作用機序を有する革新的新薬を創出し、がんの治癒、延いてはがんの予防の実現に向けて貢献することをめざしています。

これまでの歩み

1987年 筑波研究所に、抗がん剤の研究グループが発足(がん領域の前臨床研究がスタート)

当時の研究グループは極めて小規模なものでした。研究対象は当時の抗がん剤の主流であった化学療法剤で、新規のチューブリン重合阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、葉酸拮抗剤などの探索研究を行っていました。

1993年 チューブリン重合阻害剤E7010臨床導入(自社創製化合物として初の臨床導入)

E7010は、スルホンアミド骨格をもつ経口投与可能なチューブリン重合阻害剤です。当該化合物は、自社創製の抗がん剤として、初めて臨床導入を果たしました。また、その後臨床導入を果たした化合物細胞周期のG1期を標的とするindisulam(開発品コード:E7070 、1998年に臨床導入)や血管新生阻害作用をもつ抗がん剤E7820(2004年に臨床導入)も同じライブラリーから創製されたスルホンアミド骨格を持つ化合物です。残念ながら、これらの化合物は製品化には至りませんでしたが、標的分子に関する研究が進展し、2017年に、indisulamやE7820がタンパク質分解誘導作用を持つことを明らかとしました(Uehara, T., et al., Nat. Chemi. Biol., 13, 675-680, 2017)。新たに得たナレッジを活かして、選択的標的タンパク質分解誘導剤の研究を継続しています。同分野において革新的な創薬研究を実施する目的で、2019年には英国ダンディ大学と、2020年には東京大学と共同研究契約をそれぞれ締結しました。

2000年 創薬第二研究所の発足(オンコロジーに特化した大規模な組織の発足)

がんに対する創薬研究を専門的に取り扱う50人規模の組織が発足し、神経疾患領域と並ぶ、重点疾患領域としての位置づけを明確化しました。研究所には、有機化学合成研究者、薬理学研究者が配属されました。これを機に、後のレンバチニブの創出につながる新規マルチキナーゼ阻害剤の探索研究が本格化し、また新規抗腫瘍天然物プラジエノライドの合成誘導体E7107の創出に繋がりました。その後、プラジエノライド類の標的分子に関する研究が進展し、2007年にスプライシングファクターSF3bを標的とすることを分子レベルで明らかにしました(Kotake. Y., et al., Nature Chemi. Bio., 3, 570-575, 2007)。スプライシング研究は2011年に発足したH3 Biomedicineにおいて継続的に行われ、2018年からはブリストルマイヤーズ・スクイブ社との間でスプライシング・プラットフォームを活用したがん免疫を強化する新規治療法に関する共同研究を開始するに至りました。

2006年 ライガンド社から抗がん剤4品目を買収

米国ライガンド社と、がん関連の4品目についての製品買収に関する契約を締結しました。この締結によって、当社は初のがん領域の製品を手にし、抗がん剤販売体制の強化が開始されました。

2007年 モルフォテック社を買収し、抗体治療薬の研究開発に着手

抗体医薬の研究開発を専門とするバイオベンチャー企業、モルフォテック社を買収しました。当時、モルフォテック社は、がんを対象とした複数の抗体治療薬の開発を進めていました。その一つが、抗葉酸受容体抗体αファルレツズマブ(開発品コード:MORAb-003)です。MORAb-003そのものは製品化には至りませんでしたが、現在開発中の抗体薬物複合体(ADC)farletuzumab ecteribulin(FZEC、開発品コード:MORAb-202)の抗体部分には、ファルレツズマブが使われており、蓄積されたバイオロジクスのナレッジは、当社の米国内研究所の一つであるEPAT(Epochal Precision Anti-Cancer Therapeutics)に受け継がれています。

2007年 米国バイオファーマ企業であるMGIファーマ・インクを買収

総額約39億米ドルにて、MGIファーマを買収する契約を締結しました。この買収によって、がん化学療法による悪心・嘔吐を適応とする薬剤や骨髄異形成症候群治療剤、悪性神経膠腫を適応とする化学療法用インプラントなどの製品およびパイプラインを獲得しました。

2010年 エリブリン、米国FDAより転移性乳がんに関わる適応で承認取得(自社創製抗がん剤として初の承認取得)

エリブリンは、当社のボストン研究所において創製・開発した、非タキサン系微小管ダイナミクス阻害剤であり、海洋生物であるクロイソカイメンから単離された天然物ハリコンドリンBの合成類縁化合物です。2003年に臨床導入し、前治療歴のある、局所再発性あるいは転移性乳がんを対象とした臨床第Ⅲ相EMBRACE試験の結果に基づき、2010年11月、自社創製抗がん剤として初めて、現在、乳がんに係る適応で、日本、米国、欧州、中国、アジアなどでまた、脂肪肉腫(日本では悪性軟部腫瘍)に係る適応で、日本、米国、欧州、アジアなどで承認を取得しています。現在開発中のADCであるfarletuzumab ecteribulin(MORAb-202)とBB-1701のペイロードには、エリブリンが使用されており、エリブリンは、新たなイノベーションを生み出すために、今も活用されています。

2011年 がん遺伝子科学に基づいた創薬を志向する米国研究開発子会社 H3 Biomedicine Inc.を設立

当社は、ライフサイエンス分野の世界有数の優れた研究開発機関が集まる米国マサチューセッツ州ケンブリッジに、がん遺伝子化学に基づいた創薬を志向する米国研究開発子会社「H3 Biomedicine Inc.」(H3 Biomedicine)を設立しました。H3 Biomedicineからは、複数のがん領域パイプラインが創出されています。H3 Biomedicineの設立により、世界最先端のケンブリッジのバイオコミュニティの仲間入りを果たし、多くのパートナーとの関係性構築が可能となりました。(2022年のDHBL創薬体制への移行に伴い、H3 Biomedicineは米国子会社エーザイインクと統合され、研究所は閉鎖されました。)

2015年 レンバチニブ、米国FDAより放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺がんに係る適応で承認取得(レンバチニブとして初の承認取得)

レンバチニブは、当社の筑波研究所において創製した、経口投与可能なマルチキナーゼ阻害剤です。2005年に臨床導入し、局所再発、転移性、または進行性放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺がんを対象とした臨床第Ⅲ相SELECT試験の結果に基づき、2015年2月、米国FDAより放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺がんに係る適応で承認を取得しました。現在、単剤療法として、甲状腺がんに係る適応で、日本、米国、欧州、中国、アジアなどにおいて承認を取得しています。また、肝細胞がんに係る適応で、日本、米国、欧州、中国、アジアなどにおいて承認を取得しており、胸腺がんに係る適応で、日本において承認を取得しています。エベロリムスとの併用療法では、腎細胞がんに係る適応で、米国、欧州、アジアにおいて承認を取得しています。

2018年 レンバチニブについて、Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAとがん領域におけるグローバルな戦略的提携に合意

当社とMerck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA(米国とカナダ以外ではMSD)は、レンバチニブのグローバルな共同開発および共同販促を行う戦略的提携に合意しました。本合意に基づき、両社は、レンバチニブについて、単剤療法およびMerck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAの抗PD-1抗体ペムブロリズマブとの併用療法における共同開発、共同製造、共同販促を行っています。

2021年 抗体薬物複合体MORAb-202について、ブリストル マイヤーズ スクイブとグローバルな戦略的提携契約を締結

MORAb-202は、自社創製の抗葉酸受容α体抗体に、酵素切断リンカーを介して、同じく自社創製の抗がん剤エリブリンを化学結合させたエーザイ初のADCです。当社は、ブリストル マイヤーズ スクイブと、MORAb-202の共同開発・共同商業化に関するグローバルな独占的戦略的提携契約を締結しました。現在、子宮内膜がん、卵巣がん、非小細胞肺がんを中心とした臨床試験が進行中です。

2021年 タゼメトスタット、日本においてEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫に係る適応で承認取得

タゼメトスタット(製品名:「タズベリク®」)は、Epizyme, Inc.(2022年6月Ipsenにより買収)の創薬プラットフォームを活用して創出されたファースト・イン・クラスの経口EZH2阻害剤です。2021年、日本においてEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫に係る適応で承認を取得しました。本剤の日本における開発と商業化は当社が担っています。濾胞性リンパ腫のうち、7~27%がEZH2遺伝子に機能獲得型変異を有すると報告されており、EZH2遺伝子変異検出のためにコンパニオン診断薬としてロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の「コバス® EZH2 変異検出キット」を用い、当社で初めて診断薬とセットで薬剤を提供しています。

2021年 レンバチニブ、米国FDAより、進行性子宮内膜がんに係る承認取得(ペムブロリズマブとの併用療法として初の承認取得)

レンバチニブとペムブロリズマブの併用療法が、全身治療歴のある進行性子宮内膜がんを対象とした臨床第Ⅲ相(309/KEYNOTE-775)試験の結果に基づき、2021年7月、米国FDAより進行性子宮内膜がんに係る適応でペムブロリズマブとの併用療法として承認を取得しました。レンバチニブは、ペムブロリズマブとの併用療法について、子宮内膜がんに係る適応で、日本、米国、欧州、アジアなどにおいて承認(一部の条件付き承認の国を含む)を取得しています。また、本併用療法については、腎細胞がんに係る適応で、日本、米国、欧州、アジアなどにおいて承認を取得しています。レンバチニブと米メルク社のペムブロリズマブとの併用療法については、様々ながん種において複数の臨床試験が進行中であり、今後も着実な患者様貢献拡大が期待されます。当社は、本併用療法に対する抵抗性の克服をめざす薬剤として、発がんに関わるWntシグナル伝達を阻害することが期待されるCBP/β-カテニン阻害剤E7386(PRISM BioLab株式会社との共同創出品)を開発しており、本併用療法の開発によって蓄積したナレッジを活用し、新たなイノベーション創出を追究しています。

2023年 抗体薬物複合体BB-1701について、BlissBioと戦略的提携に向けたオプション権を有する共同開発契約を締結

BB-1701は、当社創製の抗がん剤エリブリンを、リンカーを介して抗HER2抗体トラスツズマブに化学結合させたADCです。本ADCについて、当社は、Bliss Biopharmaceutical (Hangzhou) Co., Ltd. (BlissBio)と戦略的提携に向けたオプション権を有する共同開発契約を締結しました。本契約以前に締結した両社によるライセンス契約に基づき、当社は、エリブリンをペイロードとした複数のADCについて、BlissBioにグローバルな独占的開発権を付与しており、BB-1701について、現在BlissBioが実施している臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験の状況を踏まえ、共同開発を実施します。本薬剤は、MORAb-202に続いて臨床導入された当社2番目のADCであり、エリブリンペイロードによるADCのパイプラインの拡充をめざしています。