TCFD提言を踏まえた気候関連財務リスク・機会の開示

気候変動は、企業活動に影響を与える重要な課題であると認識しています。
エーザイは、2019年6月に気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、以下「TCFD」)提言への賛同を表明しました。TCFDは、G20の財務大臣・中央銀行総裁からの要請を受け金融安定理事会(FSB)の下に設置された、気候関連財務情報の開示に関するタスクフォースです。TCFDは、気候変動がもたらす「リスク」及び「機会」の財務的影響について、企業による把握・開示を支援するための提言を公表しています。
エーザイはTCFD提言が示す気候関連財務情報開示における中核的要素に沿った開示を行っています。

TCFD提言の推奨開示

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中核的要素推奨開示
ガバナンス 気候関連のリスクと機会に関する組織のガバナンスを開示する。
戦略 気候関連のリスクと機会が、組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす実際の影響と潜在的な影響について、その情報が重要(マテリアル)な場合は、開示する。
リスクマネジメント 組織がどのように気候関連リスクを特定し、評価し、マネジメントするのかを開示する。
指標と目標 その情報が重要(マテリアル)な場合、気候関連のリスクと機会を評価し、マネジメントするために使用される指標と目標を開示する。

「ガバナンス」

a) 気候関連のリスクと機会に関する取締役会の監督

当社取締役会は、「執行役の職務の執行の適正を確保するために必要な体制の整備に関する規則」を定め、環境に関するリスクを担当する執行役(環境安全担当執行役)が当該リスクに関する内部統制を整備・運用する体制としています。取締役会規則においては、ESGおよびSDGsに関する事項を報告事項に定め、気候変動を含むサステナビリティに関する全社的な取り組み状況と課題について、担当執行役から四半期毎に進捗報告を受け、モニタリングを行っています。

取締役会におけるサステナビリティに関する議論を充実させるため、社外取締役7名で構成されるhhcガバナンス委員会は気候変動への対応を含むサステナビリティへの取り組み状況の点検を行うサブコミッティを設置し、関連する執行役との情報共有とディスカッションを実施しています。サブコミッティでの検討状況は、速やかにhhcガバナンス委員会に報告されます。

b) 気候関連のリスクと機会の評価とマネジメントにおける経営陣の役割

気候変動のリスクおよび機会については、環境安全担当執行役がESG担当執行役と連携し、リスクおよび機会を識別し、対応を行っています。気候変動は事業活動に対し多岐にわたる影響を及ぼし、対応に際して組織横断の協力が必要となることから、リスク・機会の識別・対応過程においては、生産や財務などを担当する執行役とも適宜連携する体制としています。また、気候関連を含む重要なビジネスリスクは内部統制担当執行役を委員長とするリスクマネジメント委員会が管理し、取締役会への報告を行っています。

「戦略」

a) 組織が特定した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会

エーザイでは、3項目の物理的リスク1、4項目の移行リスク2、及び1項目の機会を気候関連リスク・機会として特定しています。これらのリスクはリスク管理体制のもと顕在化防止に努めています。機会の「気候変動によるヘルスケアニーズへの対応」については、気候変動がどのように進行した場合においても医薬品アクセスを維持・向上させることが製薬企業の責務であるとの認識のもと、事業計画の遂行を通じた社会への貢献をめざしています。

特定したリスク・機会と顕在化を想定する時間軸

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分類リスク・機会顕在化を想定する時間軸
物理的リスク ①生産活動の停滞 短~長期
②自然災害による被害 短~長期
③健康リスクの増大 長期
移行リスク ④炭素税によるコスト増・エネルギーコスト増 中~長期
⑤追加的な設備投資 中~長期
⑥低炭素製品化への要請対応 短~中期
⑦信頼性の低下 長期
機会 ⑧気候変動によるヘルスケアニーズへの対応 長期

短期:3年未満 中期:3-10年 長期:10年超

b) 気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす影響

特定したリスク・機会によるエーザイへの財務影響は次のとおりです。

特定したリスク・機会とエーザイへの財務影響

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分類リスク・機会エーザイへの財務影響
物理的リスク ①生産活動の停滞 自然災害により工場等の操業が停滞することで売上高が減少する可能性がある。サプライチェーンが自然災害の影響を受け、供給遅延・不足が生じ、生産活動の停滞が生じる可能性がある。
②自然災害による被害 従業員への被害や建物・設備・在庫の毀損が生じる可能性がある。
自然災害のリスクが高まることで保険料が増加する可能性がある。
③健康リスクの増大 気候変動が世界の感染症リスクやヘルスケアシステムの機能低下をもたらす可能性がある。結果として、医薬品アクセス維持・向上のために必要な投資やコスト負担が増加する可能性がある。
移行リスク ④炭素税によるコスト増・エネルギーコスト増 炭素税価格や電力料金の上昇により、エネルギーコスト及び調達品の価格が上昇する可能性がある。
⑤追加的な設備投資 GHG排出量削減要請に応えるうえで、既存設備が陳腐化したり、追加的な設備投資が必要となる可能性がある。
⑥低炭素製品化への要請対応 顧客からの低炭素製品への要請が強まり、包装材等をGHG排出量の少ない製品に切り替えるための追加コストが発生する可能性がある。
⑦信頼性の低下 エーザイでは2040年までのカーボンニュートラル達成に向けて目標を設定しているが、これが達成できない場合には株主・投資家等のステークホルダーズからの信頼性低下を招く可能性がある。
機会 ⑧気候変動によるヘルスケアニーズへの対応 気候変動に伴って高まるヘルスケアニーズに対応する製品・サービスを提供することで、将来の市場機会の獲得につながる可能性がある。

c) 2℃以下のシナリオを含む異なる気候関連のシナリオを考慮した組織戦略のレジリエンス

エーザイは、TCFD提言が推奨する気候シナリオ分析を行い、結果を2020年度に開示しました(統合報告書2020にてご覧頂けます)。

2022年度には、気候変動に関連するリスク・機会がエーザイに及ぼしうる影響の再評価のため、複数の気候シナリオを考慮した定性・定量分析を再度実施しました。財務的な影響度とリスクが顕在化しうる時間軸を考慮した分析の結果、「生産活動の停滞」、「炭素税によるコスト増・エネルギーコスト増」、及び「追加的な設備投資」のリスク重要度が相対的に高いと評価しました。

「生産活動の停滞」についてはバックアップ生産体制の導入や製品・原材料の確保といった対策に加え、障害予防策を講じており、「炭素税によるコスト増及びエネルギーコスト増」については2040年度までのカーボンニュートラル達成に向けたロードマップに基づき、省エネやGHG排出量削減に向けた投資を推進しています。また、「追加的な設備投資」については、計画的な投資推進に加え、2022年度からインターナルカーボンプライシングを導入し、脱炭素化に向けた投資の後押しをしています。

これらの対策により、現時点では気候関連リスクの当社戦略への影響は低減されていると評価しています。

特定したリスク・機会と財務影響度および対策状況

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分類リスク・機会気候シナリオごとの財務影響度*対策状況
3℃~1.8℃/1.5℃
物理的リスク ①生産活動の停滞 大きい 大きい バックアップ生産体制を整備するほか、製品や原料の必要性に応じた期間分の在庫を確保することで、生産活動の停滞を予防している。
②自然災害による被害 小さい 小さい 生産拠点や倉庫において、洪水・浸水などのリスクの程度を確認し、発生しうる災害の程度を確認した上で被害予防策を講じている。
③健康リスクの増大 大きい 大きい NTDs制圧やマラリアを含む熱帯感染症に対する医薬品の開発に取り組んでおり、感染症蔓延地域への医薬品供給において官民パートナーシップによる効率的・効果的な医薬品アクセスの維持・向上に努めている。
移行リスク ④炭素税によるコスト増・エネルギーコスト増 1.5℃/1.8℃シナリオを下回る 大きい(排出削減で炭素税の影響は中程度となる見込み) 2030年を目標年とするRE100を前倒しで2023年度に達成する見込みである。
⑤追加的な設備投資 1.5℃/1.8℃シナリオを下回る 中程度~大きい 2022年度からインターナルカーボンプライシングを導入し、環境投資の着実な推進に取り組んでいる。
⑥低炭素製品化への要請対応 1.5℃/1.8℃シナリオを下回る 小さい 一部製品において低炭素型の包装容器(バイオプラスチック)を採用済であり、その他製品でも低環境負荷包材の導入を検討中である。
⑦信頼性の低下 1.5℃/1.8℃シナリオを下回る 大きい カーボンニュートラル達成に向けたロードマップを策定し、概要を開示している。ロードマップに従い2022年度からはインターナルカーボンプライシングを導入するとともに、SBT1.5℃目標の申請を行い、環境への取り組みの着実な推進に取り組んでいる。
機会 ⑧気候変動によるヘルスケアニーズへの対応 定量化は困難 定量化は困難 マラリア等感染症治療薬の開発に取り組んでいる他、臨床試験のリモート化やICTを活用した健康管理のソリューション創出に取り組んでいる。
LF治療薬であるDEC錠をバイザッグ工場で製造し、WHOを通じて無償提供している。ブランド向上・市場機会獲得・稼働率向上・連結原価低減といった効果が今後も期待できる。

下線は重要度が相対的に高いリスク
* 3℃~=現行政策シナリオ 1.8℃=遅延移行シナリオ 1.5℃=2050ネットゼロシナリオ。 

なお、シナリオ分析にあたっては、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(Network for Greening the Financial System、略称「NGFS」)が設定する次のシナリオを利用しました。

分析に用いたシナリオの概要

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シナリオ気温上昇の想定気候変動対策の政策
現行政策 2100年までに3℃超。 現在実施されている政策のみが保持される。
遅延移行 2050年までに1.8℃ 2020年代はCO2 排出量が減少せず、2030年代から温暖化を2℃に抑えるための強力な政策が導入される。
2050ネットゼロ 1.5℃以内 2020年代から厳格な排出削減政策とイノベーションにより、地球温暖化を1.5°Cに抑制し、2050年頃に世界のCO2排出量を正味ゼロにすることがめざされる。

現行政策シナリオの気温上昇幅は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示すRCP(Representative Concentration Pathways)6.0シナリオの上昇幅に、遅延移行シナリオ・2050ネットゼロシナリオの気温上昇幅はRCP2.6シナリオの上昇幅に概ね一致しています。

「リスクマネジメント」

a) 気候関連リスクを特定し、評価するための組織のプロセス

気候変動のリスクおよび機会については、環境安全担当執行役がESG担当執行役と連携し、社外環境の調査や社内インタビューを通じてリスクおよび機会を識別し、定期的な見直しを行っています。リスク評価では、気候関連を含む重要なビジネスリスクを管理する内部統制担当執行役を委員長とするリスクマネジメント委員会が定める手順書を踏まえ、リスクの影響とリスクの発生可能性を勘案して重要度を判断しています。

また、日常的な業務リスクの低減に取り組む仕組みとして、①全執行役を対象にしたインタビューによる全社的な重要リスクの把握、②ENW の全組織長を対象にしたCSA(Control Self-Assessment:統制自己評価)を実施しています。気候関連リスクも、このCSAでの把握対象となっています。

b) 気候関連リスクをマネジメントするための組織のプロセス

環境安全担当執行役がESG担当執行役と連携し識別・評価した気候関連リスクを、リスクマネジメント委員会に報告します。

リスクマネジメント委員会は、内部統制担当執行役を委員長として定期的に開催され、取締役会の助言を受け、エーザイにおける特に重要なリスクを一元管理しています。新たなリスクの把握と迅速かつ効率的なリスク対応を推進するとともに、社外の事例を参考に自社の潜在的なリスクを早期に感知し、リスクの顕在化防止に努めています。

c) 気候関連リスクを特定し、評価し、マネジメントするプロセスが、組織の全体的なリスクマネジメントにどのように統合されているか

気候関連リスクは、環境安全担当執行役がESG担当執行役と連携し識別・評価したリスクを、エーザイにおける特に重要なリスクを一元管理しているリスクマネジメント委員会に報告を行うことで、全社的リスクマネジメントに統合されています。リスクマネジメント委員会での検討は取締役会に報告され、取締役会は同委員会のリスク管理に助言を行います。
エーザイの全社的なリスク管理については、「コンプライアンス・リスク管理」をご覧ください。

「指標と目標」

a) 組織が自らの戦略とリスクマネジメントに即して、気候関連のリスクと機会の評価に使用する指標

エーザイは気候関連のリスクの評価に以下の指標を用います。

  • Scope 1+2 CO2排出量
  • Scope 3カテゴリ1 CO2排出量
  • 電力使用量の再生可能エネルギー比率目

b) スコープ 1、スコープ 2、該当する場合はスコープ 3 の GHG(温室効果ガス) 排出量、および関連するリスク

脱炭素社会形成への取り組み」の「データ」をご覧ください。

c) 気候関連のリスクと機会をマネジメントするために組織が使用する目標、およびその目標に対するパフォーマンス

脱炭素社会形成への取り組み」の「目標・課題・アクション」をご覧ください。

  

  • 1

    気候変動による「物理的」変化に関するリスク。サイクロン・洪水のような異常気象の深刻化・増加などの急性リスクと、降雨や気象パターンの変化、平均気温の上昇、海面上昇といった慢性リスクに分類されます。

  • 2

    低炭素経済への「移行」に関するリスク。温室効果ガス排出規制強化などの政策・法規制リスク、原材料コスト上昇などの市場リスク、業種への非難などの評判リスク、新規技術への投資失敗などの技術リスクに分類されます。

  • 3

    エーザイ株式会社および連結子会社と関連会社で構成されている企業グループ

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