米ブロード研究所とエーザイの抗マラリア薬共同研究論文が米Nature誌に掲載
—マラリア新薬開発に新たな道標

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2017年2月8日掲載

エーザイは、米国のブロード研究所(マサチューセッツ工科大学(MIT)およびハーバード大学により設立された共同研究施設)と抗マラリア薬開発に向けた共同研究プロジェクトを推進しています。

2016年9月、本研究成果に関する記事が、世界的に権威のある科学雑誌Nature誌に掲載されました。記事では、本研究でのユニークなアプローチにより、既存薬とは異なる新しいメカニズムを持ち、革新的な抗マラリア薬となり得る候補化合物群が見出されたことが発表されています。

マラリア制圧の鍵を握る、新薬開発

世界三大感染症の一つであるマラリアは、マラリア原虫が蚊の媒介によって、人に感染する寄生虫症です。世界保健機関(WHO)1によると、いまだに毎年世界で50万人以上がマラリアで亡くなっており、その多くがアフリカの子供達であると報告されています。

現在、マラリアの治療薬は、アルテミシニン系抗マラリア薬を中心に複数存在しています。しかし、近年、既存薬に対して耐性を持つマラリアが報告され、新しい治療薬の開発が急務となっています。

また、ほとんどの既存薬はマラリア原虫の成虫が血液に移行し赤血球の中で増殖する際に効果を示し、それ以外の病期(肝細胞内など)では作用しません。そのため、マラリア感染の根を断ち切るためには、マラリア原虫の全てのライフステージで効果を発揮する抗マラリア薬の開発が重要な鍵となっています。

[ハマダラカにおけるライフサイクル]1 ハマダラカが吸血する時に、蚊の唾液とともにマラリア原虫が人体に侵入[人におけるライフサイクル]肝細胞内のサイクル 2 マラリア原虫が肝細胞に感染 3 マラリア原虫が増殖し、肝細胞を破壊 赤血球内のサイクル 4 マラリア原虫が赤血球内に侵入 5 血液内のマラリア原虫は診断で確認できる 6 赤血球内で形態を変えながら分裂・増殖していく一部の原虫は、蚊の中で生育可能な生殖体に変化する[ハマダラカにおけるライフサイクル]7 ハマダラカが吸血する時に血液中のマラリア原虫が蚊の体内に侵入 8 人に感染する形態まで体内で変化する
感染経路

ユニークな化合物創出方法により、新薬開発に新たな道標

一般的な創薬の基礎研究では、製薬会社や研究所が保有するライブラリーと呼ばれる大量の化合物について、その効果を様々な方法で評価し、候補を絞り込んでいくという作業が行われます。通常、ライブラリーは、低分子化合物あるいは天然物そのものを用いて構築されますが、ブロード研究所との共同研究では、ブロード研究所が構築した多様性指向型合成法(Diversity Oriented Synthesis)によるライブラリー(DOSライブラリー)が用いられています。DOSライブラリーの構築では、複雑な天然物の構造をモチーフとし、その構造の一部に類似した低分子化合物を合成展開することで、より多様性に富んだ化合物群を大量に作っていきます。そうすることで、既存の概念に捉われず、これまで見出されていない作用メカニズムを持つ化合物を発見することをめざしています。

本研究では、約10万個の化合物からなるDOSライブラリーの薬効が評価され、すでにマラリア原虫の全てのライフステージにおける効果を示唆する化合物群が複数見出されています。

本研究で使用された化合物やスクリーニングの結果は、世界のマラリア研究者に役立ててもらうことを目的に、ブロード研究所が運営するウェブサイト:Malaria Therapeutics Response Portalにて公開されています。

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