2025年4月
2024年11月、エーザイ本社のサステナビリティ部は全身性強皮症(以下、強皮症)の患者様とオンラインでの共同化を実施しました。この機会は、一般社団法人 日本強皮症患者の会~絆~のご支援により、2名の患者様との交流、そして後日患者会理事の方々との意見交換会を実施しました。
サステナビリティ部はリンパ系フィラリア症やマイセトーマなどの顧みられない熱帯病(NTDs)への新薬開発や治療薬提供に取り組んでいます。一方で、日本国内において、リンパ系フィラリア症やマイセトーマの患者様との直接の交流は困難です。
希少疾患や難病は、医療従事者の間でも認知度が低く診断・治療に遅れをきたしやすい、新薬開発の対象になりづらいなどの点において、NTDsとの多くの共通点があります。希少疾患・難病の一つである強皮症については、皮膚症状(皮膚硬化など)の発現、日常の作業や生活への様々な制限、診断に至るまでに要する時間が長い、周囲の理解が得づらい、またこれらによる心理的な負担など、現在、エーザイが治療薬の開発を進めるマイセトーマや世界保健機関(WHO)を通じて無償提供しているリンパ系フィラリア症とも共通する課題があります。
そこで、強皮症の患者様との共同化を通して得られた知見や想いをNTDsへの業務や取り組みに活かすことを目的とし、今回の共同化を実施しました。患者様や当事者でもある患者会理事の方々は、自分たちの経験が、アジアやアフリカなどの遠く離れた国で苦しむ方々の少しでもお役に立てるならば、と共同化に応じてくださいました。
当日参加してくださった2名の患者様から、症状や日常生活、悩みや喜びについてお話を伺いました。
診断に至るまでの時間と病と向き合うこととの難しさ
同じ強皮症でも、その症状や進行速度、診断までの経緯や治療効果は患者様ごとに大きく異なり、病気に対する受け止め方や心の変化もそれぞれ異なりました。発症後間もなく症状が軽度な頃は、何か変だと思いつつも病気だとは思わなかったこと、症状が出てきた後の直視したくない気持ち、得られる情報が限られ、医療関係者にも強皮症が知られておらず適切な診断に繋がらないケースがあるなど、診断・治療に至るまでには長い時間を要する場合もあるそうです。
患者様のお一人は、診断当初はお子さんにも職場にも病気のことを話すことができなかったそうです。患者会に入って仲間に出会い、病気を知られたくない気持ちに変化が生じるとともに症状も進んできたことから、治療に向き合おうと思い直し、最近になって周りにも病気のことを打ち明けたそうです。
治療で必要なのは人と人との交流、温かさ
患者様にとって、ご家族、職場、医療従事者の理解や温かなサポートが重要なのは言うまでもありません。今回お話を聞いた患者様も患者会の存在の大きさを示されていました。身近な家族や友人には話しづらいことも、患者様同士であれば思う存分話すことができ、悩みを共有して心が軽くなるとともに生活の工夫やアドバイスも得られるとのことです。また、医療関係者から様々な対処法の情報を入手しても、一人ではその継続が難しい場合もあり、集まって対面で悩みの相談ができる場所の確保など、社会とのつながりが維持できるようなネットワークを行政や製薬会社などがサポートしてくれるとありがたい、というコメントもありました。
今後自分自身が助けてもらったことへの恩返しとして、患者様ご自身からネットワークを築いていきたいとの夢を明るく前向きに語ってくださったことが特に印象的でした。
Patient Journeyに寄り添う
患者様からお話を伺って再認識したのは、患者様が適切なタイミングで医療にアクセスするために、疾患啓発が一つの重要な支援であることです。一方で疾患に関する情報や実施される啓発活動は、患者様が住んでいる場所や医療環境によって異なるのが実情です。「何か変だ」と思った時から、診断、治療、ケアなど患者様の各ステージに応じた支援がどこで、どれかけ得られるか、すなわちPatient Journey1に寄り添う環境整備が一層必要と感じました。また、患者様と社会とのつながりの維持という側面から、就労が一つのファクターになっており、難病になっても就労継続がしやすい制度の整備が重要であると考えました。


2024年12月には、患者会理事の方々と意見交換会を実施し、強皮症という疾患について社会に発信し理解を得ること、また、患者様同士の交流の意義を確認し、交流の場を広げ、包括的な情報を得るための基盤づくりが重要であり必要であることを再確認しました。
国や疾患は違っても、患者様の想いには共通点があります。パートナーシップを通じて、疾患への理解が進み、患者様にとって少しでも過ごしやすい環境となるよう、この機会を通じて得られた理解や学びを活かし、当社はこれからもNTDsに関する取り組みを継続していきます。
1 患者様が医療や健康に関わる際の、各接点におけるあらゆる体験のプロセス。健康な状態から病気を自覚し、医療機関に行き診断、治療を経て患者が体験していく 生活、全ての関係者との接点や心理的・身体的経験を含む過程を「道のり」や「旅」に例えたもの。