
仮想化合物ライブラリの超大規模化
近年、仮想化合物ライブラリの規模は飛躍的に拡大しました。仮想化合物ライブラリとは、コンピュータ上で生成された化合物のデータベースのことです。バーチャルスクリーニング技術は、このような仮想化合物を実際に合成し実験的に評価する前に、コンピュータ上で迅速に評価することを可能にしました。当社では、自社の合成中間体と試薬の組み合わせから比較的容易に合成できる仮想化合物を生成し、数十億から数百億個からなるエーザイ仮想化合物ライブラリを構築しました。これにより、自社独自のケミカルスペース(化合物構造多様性)がより広範に拡大されました。
超大規模ライブラリを扱うバーチャルスクリーニングの技術進化
バーチャルスクリーニング技術もまた、急速に進化しています。特に、ドッキングシミュレーションの進歩が重要な役割を果たしています。ドッキングシミュレーションとは、コンピュータ上で化合物と標的タンパク質の立体構造を用いて、両者の相互作用の強さを計算する手法です。この技術により、仮想化合物ライブラリから有望なヒット化合物の候補を選び出すことが可能となります。特に、Active Learning(能動学習)の活用やクラウドコンピューティングによる大規模な並列計算を行うことで、膨大なデータを効率的に解析し、現実的な時間で数百億化合物のドッキングシミュレーションを完了できる環境を構築しました。
この技術によって可能になることは何か
超大規模バーチャルスクリーニングの実現により、スクリーニングのスピードが飛躍的に向上しました。それにより、従来の方法では不可能だった数百億個にも及ぶ仮想化合物ライブラリから標的分子に応じてヒット化合物の候補を提案することが可能となりました。その結果、新規骨格やより高活性のヒット化合物を見出す可能性も高まり、化合物最適化までに要する時間を短縮することが期待されます。
当社での活用実績
当社では、バーチャルスクリーニングの活用を進めています。例えば、特定のがん細胞に対する新規ヒット化合物候補を提案し、実験的な評価が進んでいます。グローバルヘルス領域では、顧みられない熱帯病の一つであるシャーガス病の治療薬創出に活用しています。社内外データを学習した機械学習モデルとドッキングシミュレーションを組み合わせることで、薬物標的である特定のホスホジエステラーゼ(PDE)の選択的阻害剤を効率的に探索することに成功し、パートナーであるラ・プラタ国立大学(アルゼンチン)とともに一刻も早い治療薬創出に取り組んでいます。