当社では、創薬における新規技術基盤構築に向けて、in silico(コンピュータを用いたデータ分析、シミュレーションなどの様々な評価方法)やAIを活用した毒性評価システム体制の確立をめざしています。
そのためには、膨大な毒性データやヒューマンエビデンスに基づくエーザイ独自の知識を活用する必要があります。
遺伝毒性予測システム「YosAI」の開発
毒性評価システム体制の技術基盤の一つとして開発した「YosAI」は、市販のin silico遺伝毒性予測ソフトウェアに、自社のアイデアに基づくテキストマイニング技術、構造の特徴量データ、遺伝毒性専門家の知識・ノウハウなど等を統合させたAI遺伝毒性予測システムです。
医薬品候補化合物やその代謝物、医薬品不純物の潜在的遺伝毒性を検出するには、in silicoスクリーニングの活用が有効です。しかし、市販のソフトウェアは一般化学物質のデータを基に開発されているため、その遺伝毒性予測に限界があり、予測精度改善が課題でした。そこで、IT企業であるSBX社、MultiCASE社と共同で、(1)創薬初期段階で効率的な遺伝毒性を誘発するポテンシャルの効率的な回避、(2)医薬品規制調和国際会議(ICH)ガイドラインに準ずる医薬品不純物の遺伝毒性評価を目的にYosAIを開発しました1)2)。
YosAIの特徴
YosAIは、(1)社内と公共データベースのAmes試験(遺伝毒性試験の一種)データを統合したエーザイオリジナルデータベース、(2)社内データに基づく警告構造(含窒素芳香族複素環など)、(3)ある化学構造式から似た化学物質を検索する機能、(4)社内有機合成化学者による化学反応における求電子性有無の知識、(5)警告構造やDNAとの結合能力などの特徴量データ、を搭載し、人工ニューラルネットワーク(機械学習)手法により、AIによる確度の高い遺伝毒性の予測を実現しています。市販のソフトウェアと比較して、YosAI予測精度は約20%向上しました。
前臨床段階のプロジェクトへの貢献
早期探索フェーズでは、リード化合物を絞り込む段階で数千化合物をYosAIで解析し、遺伝毒性リスクを回避して、候補化合物を選択しています。開発フェーズでは、ICHガイドラインに要求される医薬品不純物におけるin silicoの遺伝毒性評価として、複数のプロジェクトにおける合成中間体、不純物、分解物等、数百化合物をYosAIで解析しています。また製剤開発フェーズでは、包装材料の溶出試験で溶出物として検出された化学物質の遺伝毒性ハザード評価を実施しています。このように各プロジェクトにおける遺伝毒性のリスク評価に大きく貢献しています。
現在、予測精度が低い化学構造を特定し、さらなる改良を進め、次世代のYosAIシステム開発に取り組んでいます。
YosAIの開発を皮切りに、今後も社内外の様々な非臨床安全性データ、毒性メカニズムに基づく生物学的・化学的考察を搭載するAI Platform構築を目指し、「副作用が少ない薬」を迅速に患者様に提供する毒性評価システム体制整備に取り組みます。
文献
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1)Nicolas K. Shinada et. al., Mutagenesis., 2022;13
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2)Naoki Koyama and Akira Sassa et. al., Genes and Environ., 2023;45