デジタル技術を活用した動物行動評価

薬を開発するためには、まず薬候補となる化合物を選び出し、その効果と安全性を十分に評価したうえで臨床試験を実施します。安全性と効果の評価のためには、動物を対象とした検証が行われ、その際には主にマウスやラットを用いた研究が行われます。動物実験は、薬の効果と安全性を評価するための重要なステップです。実験動物を用いることで、ヒトに近い生理学的反応を観察することができます。デジタル技術とAIを活用することで、動物行動の評価がより精密かつ効率的になり、創薬プロセスが大幅に改善されます。

 

マウスの迷路探索行動評価

マウスの学習・記憶を評価する方法の1つに、迷路探索行動を用いるBarnes maze testという方法があります。その試験では、Barnes mazeという丸い盤を使用します。その外周部分にある丸い穴の1つをゴールに設定し、マウスにその場所を覚えさせた後、再度マウスを盤上に置き、ゴールまでどれくらいの時間でたどり着けるかなどを評価します。AIを用いてマウスの行動軌跡を追跡することで、ゴールにたどり着くまでの時間だけでなく、ゴールに至った過程を細かく評価できます。 例えば、ゴールを探しまわっていたから到達する時間が長かったのか、ゴールの場所は覚えているにもかかわらずマウスが素早く動かなかったので時間がかかったのかなど、細かな行動評価が可能になります。

マウスの行動奇跡(左)とAIを用いた解析結果(右)

ラットの活動量評価

ラットの活動量評価も重要です。動物における薬剤性の活動量変化は、ヒトでの精神疾患、眩暈、眠気、疲労などの副作用に関連し得るため、臨床試験前に確実に評価する必要があります。

動物の日内変動の乱れは専用のデバイス・ケージを用いた定量的かつ経時的な解析でしか検出できませんが、一般毒性試験で実施する動物の活動量評価は主観的および定性的なものが多いです。そこで、一般毒性試験に組み込める動画解析技術に着目し、動物の定量的な活動量評価への応用を検討しました。

通常の飼育用ケージを用いた動画解析による活動量計測技術により、簡便かつ長時間にわたり、定量的な行動評価ができるようになります。これをさらに他の異常行動検出などに応用していけば、薬の副作用に関するより多くのデータを得ることができます。

 

動物の定量的な活動量評価の事例

まとめ

デジタル技術とAIを活用することで、動物行動の評価がより精密かつ効率的になり、薬の開発プロセスが大幅に改善されます。これにより、より安全で薬効の強い薬の開発が期待されます。