2026年3月
当社サステナビリティ部は、顧みられない熱帯病(Neglected tropical diseases:NTDs)の治療薬のアクセス向上に取り組んでいます。先進国とは異なり、新興国や低・中所得国では、医療インフラの未整備、医療機関・医療従事者の不足、経済的理由による医薬品アクセスの脆弱性など様々な課題や困難が存在するため、患者様のもとへ医薬品を届けることは容易ではありません。さらに、国や地域ごとに文化的背景や慣習も異なり、医薬品アクセスを実現するために必要な課題やニーズを正確に把握することも困難な状況です。
当社は、NTDsのひとつであるマイセトーマの治療薬開発をパートナーと協働して進めています。セネガルもマイセトーマ蔓延国の一つと言われています。こうした取り組みの一環として、当部は、2025年11月にセネガル保健公衆衛生省官房にて保健行政アドバイザーをされている及川みゆき氏1とオンラインで交流する機会をいただきました。本交流は hhc活動2として企画され、セネガルにおける患者様を取り巻く環境や医療インフラの現状について学び、課題やニーズを考察することを目的としています。今回は及川氏からの学びをレポートします。
及川氏は、国立健康危機管理研究機構国際医療協力局に所属されており、2024年5月からセネガル保健公衆衛生省官房の保健行政アドバイザーとして、独立行政法人国際協力機構(JICA)より派遣され、JICAが実施する保健セクターのプロジェクトへの技術的支援、保健公衆衛生省の政策実施支援、セネガルの保健分野で活動する日本企業や大学へのアドバイス等をされています。

セネガルの保健衛生:トイレ普及や清潔な飲料水の確保が難しい地域がまだ存在している
及川氏は、今まで多くの西アフリカの国に出張し、現地の保健医療サービスの現場を訪れています。写真は、30年前のJICAボランティアの時のものです。当時そして今現在もですが、セネガルでは、住民に一番近い場所でプライマリーヘルスケアサービスを提供する公的保健医療施設(保健ポスト)には医師は配置されておらず、施設長は看護師や助産師です。及川氏は、地域住民との交流や保健省の職員と働くなかで公衆衛生上の課題の一つであったトイレの普及に取り組みました。まず、医師がいなくても最低限の健康生活を守るアイディアを記したデビット・ワーナー氏の著書3を参考にトイレを試作し、住民に試してもらいました。その直後、他の村でコレラが流行したことをきっかけに、保健省の職員、村の人々と協力し60近くのトイレを作ったそうです。
現在でも、農村部では、トイレの普及に加え、清潔な飲料水の確保に関する課題が解決していない地域が存在しています。例えば、2019年の報告4によると、学校で基本的な飲料水設備を備えているのは45%であり、トイレなどの衛生設備は16%しかありません。セネガルは地域格差、貧富の差が未だ解決しておらず、これらの普及にはまだ時間がかかりそうです。
また、ジェンダーへの取り組みにも課題があります。農村部のカフリン州の報告によると、女子生徒のうち月経時の衛生対策を推奨通り実践しているのはわずか21%で、45%が月経期間中に授業を欠席しているそうです。その背景として、生理用品が高くて購入できないこと、男女別のトイレがないこと、月経の手当等についての知識が少ないことが考えられます。毎月の月経で半数近くの女子生徒達が欠席せざるを得ない状況により、教育の機会が奪われていると考えられます。
医療における課題:活動資金や情報の不足、医療インフラの脆弱性
セネガル国家保健社会開発計画(2019-2028)5の感染症対策で明記されている疾患は、マラリア、HIV/AIDS、結核、肝炎、NTDsです。三大感染症(マラリア・結核・HIV/AIDS)に関してはグローバルファンドからの拠出資金がありますが、NTDsに関しては、予算計画書はあるものの、この分野を支援する開発パートナーは少なく活動資金が不足しており、実行に移すのが困難な状況です。さらに、NTDsの各疾患に関する情報が不足していることも課題となっています。
医療インフラも成熟しておらず課題があります。例えば、伝統医療と西洋医療の役割分担や連携は十分といえず、本来西洋医療での治療が望ましいがん等においても、伝統医療を続けた結果、悪化する事例もあるそうです。伝統医療が患者様にとって馴染みがあり相談しやすいという理由で、今も伝統医療を選択されています。
今後についての考察:保健セクターを超えた開発課題を解決していく
他にも、セネガルの社会保障制度、保健システム、医薬品サプライチェーン、政府の政策などについて及川氏からレクチャーがあり、メンバーと活発な議論が進みました。健康に影響する主な要因には、生活習慣、衛生環境、医療体制などが挙げられます。セネガルの人々の寿命は延びており、今後も人口が増え続けると予測されていますが、医療の供給が人口増加に間に合っておらず、施設や人材が不足している状態が続いています。国連の持続可能な開発で掲げている全ての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態を目指すUHC (Universal Health Coverage)はセネガルの政策優先課題の一つです。しかし、UHC の実現は国家にとって大きな挑戦であり、保健セクターに加え多くのセクターが関わる必要のある取り組みです。
今回、サステナビリティ部のメンバーは日本から遠く離れたセネガルという国とそこにおける患者様の生活を取り巻く環境を学びました。日本で生活している自分達が想像もしなかった困難や課題が存在する中で、医薬品アクセス向上のための取り組みを推進するには、多角的な検討や議論が必要であり、多くのステークホルダーズとの継続的な連携の必要性を考える機会となりました。この学びを契機として、医薬品アクセスの向上に繋げていきます。
当社は患者様と生活者の皆様が自分らしく「生ききる」を支えることに貢献していきます。そのために、現地の状況を知り、関係者と連携し、ともに考え、グローバルヘルスの理解の浸透に努めます。