研究開発体制

バイオロジー、情報およびデジタルなどの技術の進化により、疾患が発症する前の健常段階における生体内の変化が解明され、疾患概念が変わりつつあります。このような変革の中で、疾患の状態を正しく把握し、治療法を創出するには、その発症や進行だけを理解しようとするのではなく、疾患を連続体(Disease Continuum)として捉え、根本原因に紐づくゲノム情報や、細胞のメカニズム、病態生理といった生体内の生物学的な変化(Human Biology)を深く理解することが重要です。そこで、2022年7月より当社独自のユニークな臨床データを起点とするHuman Biologyに基づく創薬アプローチへの転換を企図し、DHBL(Deep Human Biology Learning)体制へと研究開発体制を刷新しました。

チーフサイエンティフィックオフィサー (常務執行役 大和隆志)からのメッセージ

我々は、従来の創薬手法が患者様の疾患の原因や病態に必ずしも基づいていないと考え、その戦略を変更することにしました。そして、人々が発症する様々な疾患に認められるアナロジーを深掘りし、そのヒューマンバイオロジーを創薬研究の原点とすることを決めました。すなわち、多種多様なヒト疾患において一見全く異なるように見える病態が、実は類似した原因や共通の機序で成立する可能性を考察し、研究アプローチを刷新しました。以前は、別々に独立した研究グループであった神経疾患領域とがん領域の垣根を取り払い、現在は、多様なバックグラウンドと専門知識を持つサイエンティスト同士がコミュニケーションとコラボレーションを行うことを推奨しています。これにより、従来とは異なる視点から斬新なアイデアが創出され、革新的な創薬プロジェクトの提案と実行に繋がりやすい環境となりました。この組織体制は、ヒトにおける様々な疾患の背景に横たわる、根本原因や発症機序のアナロジーの探求に創薬研究の出発点を設定するという独自の発想に基づいて構築されています。例えば、生体内におけるタンパク質の恒常性維持の破綻は、単一の疾患に留まらず、認知症やがんなどの多くの疾患を引き起こす可能性があります。

我々は、この新たな創薬体制をDeep Human Biology Learning(DHBL)と呼んでおり、DHBL体制のもと画期的なイノベーションを連続して実現し、患者様そして人々の健康憂慮の解消に貢献します。

DHBL体制の概要

図1 DHBL体制図(2024年2月6日現在)

DHBL創薬体制では、5つの創薬研究領域(ドメイン)、創薬研究を支える5つの機能(ファンデーション、3つのファンクション、フルフィルメント)およびDHBLオフィスを設置しました(図1)。ドメインは創薬仮説の立案から承認取得までの実行責任を担い、プロジェクトを推進します。このドメインは疾患領域ではなく、生物学に依拠した分類としました。5つのドメイン(たんぱく質、細胞、微小環境、加齢、微生物との共存)は人々が健康な一生を送るための生物学的要件を代表しており、これまでの研究成果から当社が深い知見を有する領域を選定しました。

一方、5つの機能は、DHBL創薬を支える研究開発機能であり、各担当分野の技術革新を取り入れ、最先端技術基盤を構築することをめざします。HBI(Human Biology Integration)ファンデーションは、ゲノム情報、病態生理学情報に当社独自の臨床データを加え、AI等を活用した包括的な解析により、Human Biologyに基づく創薬仮説を発見する役割を担います。このHBIファンデーションをDHBL全体の上流に配置したことがDHBL体制の最大の特徴であり、DHBL創薬の基盤・土台という意味を込めファンデーションと名付けました。DCV(Discovery Concept Validation)、DEG(Discovery Evidence Generation)およびPPD(Pharmaceutical Profiling & Development) の3つのファンクションは、iPSやオルガノイド等の最新技術を駆使したヒト化疾患モデルによるスクリーニング、ターゲットエンゲージメントを最大化する最適なモダリティの選択と薬剤の合成、安全性・薬物動態、原薬・製剤の評価を担います。そして、CEG(Clinical Evidence Generation)フルフィルメントにおいて、臨床試験でDHBL創薬仮説を証明し、薬事承認の取得をめざします。患者様貢献の実現という意味でフルフィルメント(英語で実現の意味)と名付けました。CEGでは、患者様の視点に立った臨床試験を遂行します。そして、この当社の臨床試験に参加いただいた患者様のHuman Biology dataが次の創薬の種となります。DHBL創薬では、探索から臨床への一方向ではなく、“探索から臨床へ、臨床から再び探索へ”と切れ目のない創薬ループを高速で回し続けることをめざしています。

DHBLオフィスは全体を俯瞰し、最適なリソース配分とポートフォリオ戦略による効率性・生産性の向上、迅速な意思決定、データ活用基盤の構築、オープンイノベーションと先進的なアライアンスを実現します。